LinuxWorldがソウルに登場

先週ソウルで開催された、韓国初のLinuxWorld Conference and Expoに参加してきた。この3日間のイベントでは、業界リーダーらによる基調講演のほか、さまざまなトレーニングセッションが行われ、展示会場には約50社のブースが設けられていた。

オープニングのテープカットセレモニーは10人あまりの政府高官や名士の手で行われ、この様子は現地のテレビで放映された。カンファレンススポンサーであるIDG World ExpoのCEOを務めるDavid Korseは、同イベントの開幕を告げるにあたり、LinuxWorldを韓国に招聘できたことを非常に喜ばしく思うと語った。

初日の月曜日は、参加者の出足はそれほど良くなかった(といっても、LinuxWorldカンファレンスは大体いつもそうである)。火曜日は韓国のメモリアルデー(戦没者慰霊日)にあたり、かなり多くの参加者が展示会場のブースを見て回っていた。水曜日の人出が最も多かったようだが、もう少し多くの参加者を期待していたと語るベンダもいくつかあった。

会場となったCOEXカンファレンスセンターは、ボストンで開催されたLinuxWorldの会場に比べると3分の1ぐらいの大きさだった。参加者は展示会場から個々のトレーニングセッションに歩いて移動でき、軽食を取ったり、座って休んだりする時間もたっぷりあった。

このカンファレンスセンターはCOEX Intercontinental Hotelに隣接しており、地下には夜の気分転換や昼食休憩にうってつけのショッピングモールがあった。

木曜の朝は、低く響く鐘の音のせいでAM3:30に目が覚めてしまった。鐘の音はその後10分ぐらい続いた。通りの向こう側にある奉恩寺の大きな鐘が鳴っていたのだった。早朝の勤行の間、僧侶が大きな木の棒で鐘をつくのである。今後カンファレンスに参加する方は、ソウル滞在中に一度ぐらいは奉恩寺まで夜明けの散歩を楽しんでみるといいと思う。

韓国のLinux事情

韓国は、国内のITインフラストラクチャにLinuxを積極的に採用している。ITソリューションを開発している国内ベンダだけでなく、政府機関、高等教育機関、さらには各種の支援団体も、Linuxの導入に貢献している。カンファレンスの取材中、私は何人かの組織幹部や経営者に韓国のIT事情について話を聞くことができた。

Korean Educational & Research Information Service(KERIS)

KERIS(韓国教育学術情報院)は、e-learningについての調査と、教育・研究に関する情報収集を行う組織である。さらに、National Education Information Service System(EDUNET)、Research Information Service System(NISS)、National Education Information Service(NEIS)といった各種情報サービスの運用も行っている。

NEISは4,800台以上のサーバから成る情報サービスで、小中学校の教師/学生のレコードと授業計画を管理している。約600台のグループサーバ(Unix)、2,200台のユニットサーバ(Unix)、約400台のWebサーバ(Unix)から成り、バランス処理管理タスクを行っている。このWebベースのシステムは、11,000の学校と約400,000人の教師をサポートしている。

KERISのCEO兼社長であるDae-Joon Hwangは、韓国の国家的競争力は教育面の努力にかかっていると語った。KERISの約15,000人のスタッフは、数年前からLinuxとオープンソースを使用している。KERISは現在、40の小中学校を対象として「ユビキタス・ラーニング・プロジェクト」というパイロットプログラムを実施し、タブレットPCやPDAなどのデバイスが韓国の学生の学習意欲の向上や学習機会の提供にどのように貢献するかを研究している。

Electronics and Telecommunications Research Institute(ETRI)

ETRI(韓国電子通信研究院)は、新技術の研究所から企業への移行を支援するための組織である。ETRIの主な関心分野としては、ウェアラブル・コンピューティング、ホームネットワーキング、次世代スーパーコンピュータなどがある。デジタルビデオ放送、ワイヤレスブロードバンド、組込みシステム開発、ロボティクスなども、ETRIが注目している分野である。

Digital Home Research Divisionの部長であるChae-Kyu Kim博士は、同部門があらゆる種類のデジタルメディアと情報伝送のゲートウェイとして機能するホームサーバを開発したと説明した。ホームサーバ技術への取り組みを始めたのは1999年のことである。現在では、1300万戸の韓国家庭のうち約100万戸がホームサーバを設置している。自宅の照明や空調、各種機器を、任意のWebブラウザから(場合によっては携帯電話から)操作できるのだ。

デジタルコンテンツ(特にビデオ)の配信をさらに拡大するために、Kim博士は帯域幅を増大させる方法の研究を進めている。一般家庭への光ファイバの普及にともない、2009~2010年には帯域幅が1.5Gbpsに達するだろうというのがKim博士の予想である。

また、QPlusの開発にも多大な労力を費やしている。QPlusは、一般的なLinuxプラットフォームをベースとし、3レベルのマイクロプロセッサデバイスをサポートする埋め込みLinuxオペレーティングシステムである。Standardバージョンはセットトップボックスやホームサーバに用いられ、約500KBのカーネルを格納できるマシン上で動作するように設計されている。Microバージョンは組み込みデバイスに用いられ、リアルタイムオペレーティングシステムの機能を備えており、100KBのメモリで動作する。Nanoバージョンはマイクロコントローラサイズのネットワーク接続センサーデバイスに用いられ、使用領域は約10KBである。QPlusの背後にある考え方は、1つのインタフェースAPIを開発することで、QPlusをさまざまなデバイスに移植できるようにするということである。Target Builderツールキットを使用すると、プログラマは同じ開発環境を使って、すべてのターゲットプラットフォーム用のアプリケーションを簡単にビルドすることができる。

Korea IT Industry Promotion Agency(KIPA)

KIPA(韓国ソフトウェア振興院)は、韓国のソフトウェア企業とデジタルコンテンツ業界を支援する非営利団体である。オープンソースに関してベンダや政府から寄せられた質問に答える技術センターも運営している。わずか2年前に設立され、現在では170人のスタッフを抱えている。13人の技術専門家とオープンソースソフトウェア情報のデータベース(FAQを含む)を擁し、国内ベンダの要求に応じて支援を行っている。

Open Source Software Promotion Centerの副所長であるSung-Ha Yangは、2002年の時点で、韓国の市場全体におけるLinux採用率は10~12%で、政府での採用率は6%だったと述べた。当然ながら、KIPAは100% Linuxである。

Haansoft

Haansoftは韓国の代表的ソフトウェア企業である。同社のHangulオフィススイートは、1000万本の販売実績を持つ。HaansoftのLinux Workstation製品は韓国語にローカライズされており、ワンクリックで入力モードを中国語と日本語にも切り替えられるようになっている。また、同社のThinkFreeという製品は、ユーザが任意のブラウザから作業できるJava/Webベースのオフィススイートである。

中国のRed Flag Linuxと日本のMiracle LinuxはHaansoftと提携して、アジアのLinux市場における標準化をにらんだAsianuxというコンソーシアムを設立している。コードの約80%はプラットフォーム共通で、残りの20%はローカライゼーションに関する部分である。

Haansoftの営業/マーケティング専務理事であるDaniel Choによれば、同社は、韓国南部の人口約140万人(2002年調べ)の光州市をオープンソースソフトウェアの街にするという韓国情報通信部のプロジェクトを指揮している。このプロジェクトは2009年を完了予定としており、公的機関のすべてのサーバとPCをLinuxに置き換えることを目指している。

Samsung Electronics

Samsungは、組み込みデバイスの分野におけるLinuxとオープンソースに興味を抱いている。ライバルの家電企業に対する最大の差別化要因はパフォーマンスである。

Samsung ElectronicsのSystem Software Groupの部長であるYoung-Kyu Choeは、チップメーカーはこれまで伝統的にバイナリコードとドキュメントだけを製品と一緒に提供してきたと語った。組み込みシステムのパラメータを微調整できるようにすることが非常に重要である、というのがChoeの意見である。このようなフットプリントの小さいシステムでは、カーネルを調整することでパフォーマンスの大幅な向上が期待できる(なお、Samsungはこれらの組み込みシステムのベースにMontaVista Linuxを利用している)。共通のLinuxプラットフォームに移行すれば、サポートするオペレーティングシステムの数を最小限に抑えることにもなる。

同社は、デジタルビデオレコーダ、セットトップボックス、ビデオカメラといった製品でもLinuxの利用を進めている。

トレーニングセッションと展示会場の様子

LinuxWorld Koreaではレクチャーやケーススタディを中心とした30種類のトレーニングセッションが開催され、「フリー/オープンソースソフトウェアの法的問題」、「Linuxのパフォーマンスチューニング」、「Linuxのデバイスドライバを組み込みプラットフォームに移植する方法」、「ブラウザに依存しないWebプログラミング」などのテーマが並んだ。

ビジネスレクチャーのテーマとしては、「Linux/オープンソースのビジネスと経済学」、「電子政府へのロードマップ」、「韓国におけるソフトウェアライセンス」、「Linuxのマルチメディアおよびデジタル著作権管理の問題」などがあった。

スピーカーの半分近くは韓国人で、残りの半分はアメリカ人だった。

基調講演のスピーカーはほとんどが西洋人だった。数少ない例外が韓国のLG CNSの社長であるChae-Chol Shinで、彼は「ユビキタスサービスの集中化とIT業界の課題」というテーマで講演を行った。有名どころでは、Linux InternationalのJon ‘maddog’ Hall、IBMのScott Handy、OSDLのStuart Cohen、KDEのEva Brucherseifer、NovellのJeremy Allison、Black Duck SoftwareのDoug Levin、Free Standards GroupのJim Zemlinらの名前があった。

展示会場にはたくさんの大手ベンダが参加していた。AsianuxとHaansoftは入口近くに華やかなブースを設け、ステージ上の生演奏で耳目を集めていた。Red Hat Linuxは、よくある感じの製品プレゼンテーションを韓国語で行っていた。NovellはSambaの権威であるJeremy Allisonの講演を後援していた。Hewlett-Packardのブースでは観客参加型コンテストを開催していた。

まとめ

今回のカンファレンスにはそれなりの数のベンダが集まっていたし、政府機関の参加も平均より多かったのではないかと思う。韓国初のLinuxWorld Expoだったにもかかわらず、運営もサービスもきちんとしていた。

本カンファレンスの主催者、TSKGのCEOであるTaek Wan Kimは、このように語っていた。「第1回のLinuxWorld Koreaの目的は、我々が今、Linuxおよびオープンソースへの移行という道筋のどこにいるのかを明確にし、それによって市場を目覚めさせることにある」。彼は本カンファレンスの成功に基づき、今こそ変革のときであると言い、最後にこう述べた――「歴史の始まりだ」。

Rob Reilly – コンサルタント、トレンドスポッター、ライター。Linuxおよびオープンソースのポータブル・コンピューティングとプレゼンテーション技術の統合を専門とする。

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