マルチコア対応のソフトウェア料金体系に苦慮するベンダー各社──“刷新”か、それとも“現状維持”か

 一部のソフトウェア・ベンダーがマルチコア・プロセッサ搭載サーバ向けの新たな料金体系への移行を推進するなか、米Microsoftは、IBMやOracleなどのライバルに対し、当面有利な立場に立つと見られている。

 先ごろIBMが、ソフトウェアが稼働するプロセッサ・コアの数ではなく、稼働するスピードに基づいてソフトウェアに課金する計画があると発表したことは、業界内に困惑と動揺を与えた。同社は、インテルの4コア・プロセッサXeonのリリース(年内に出荷される見込み)を機に、「プロセッサ・バリュー単位」と呼ばれる新しいライセンス課金方式でソフトウェアの料金を設定する方針を明らかにしている。

 例えば、IBMのデュアルコア・チップ「Power5」は、200プロセッサ・バリュー単位(1コア当たり100)、x86プロセッサは100プロセッサ・バリュー単位(1コアでも、2コアでも同じ)と格づけされる。この格づけに関する詳しい内容は、同社のサイトで参照することができる。

 こうしたIBMの動きは、昨年12月にOracleが実施した料金体系の変更に追随したものと見られている。Oracleの新しい料金体系はマルチコア・プロセッサに対応しているが、これはプロセッサ・コアごとに課金するという当初の計画に対する顧客の否定的な反応を受けて考案されたものだ。Oracleのソフトウェア料金体系の詳細は、同社のサイトで確認できる。

 これに対し、Microsoftは、コアごとに課金したり、プロセッサのパフォーマンスを評価する新たな方法を導入したりするのではなく、プロセッサごとに課金する従来の料金体系を維持する姿勢を示している。また一部のソフトウェアについては、そのソフトウェアを使う従業員用に複数のCAL(Client Access License)を購入する方式を適用することも認めている。

 Microsoftのサーバ/ツール・マーケティング担当コーポレート・バイスプレジデント、アンディ・リース氏は、Intel共同設立者ゴードン・ムーア氏が示した見解(マイクロプロセッサの性能は、製造コストの上昇を伴うことなく18カ月ごとに倍増するという法則)に言及し、「ムーアの法則は、ソフトウェア価格の上昇を意味しているわけではない」と強調する。

 「マルチコアは、プロセッサの性能を高めるための手段にすぎない。われわれは、この技術が顧客にとって良いものであるからこそ対応している」(リース氏)

 マルチコア・チップの登場に伴って、ソフトウェアの料金体系は混乱を来しており、この混乱がすぐに解消する見とおしも立っていない。ソフトウェア・ベンダーは、これまでプロセッサごとにソフトウェアの料金を請求してきたが、すでに2つのコアを持つサーバ・プロセッサが登場しており、いずれは、4コア、8コア、あるいは16コアのプロセッサも登場するはずだ。そのため、ソフトウェア・ベンダーは、こうした動きに対応する方法を懸命に考えているわけだ。

 米フォレスター・リサーチのバイスプレジデント、ジュリー・ギエラ氏は、IBMの新しい料金モデルについて、「少なくとも導入当初は、顧客を混乱させるだろう」と指摘する。同氏は、新しい料金体系と購入するソフトウェアの価格に対するその影響を顧客が直接経験するまで、従来の料金体系を維持しているMicrosoftの製品が、他社よりもわかりやすい選択肢になると見ている。

 「プロセッサごとに料金を請求するため、単純さという点でMicrosoftが優位に立っているように思える。図表を見て、料金がいくらになるのか調べる必要がないからだ」と同氏。

 ギエラ氏は、IBMが新たな料金体系を導入しても、価格が上がるかどうかまだわからないとしている。しかし現時点では、「マシンが大型化すると、IBMのソフトウェアの料金も上昇する」というのが同氏の見方だ。

 一方、米IDCのシステム・ソフトウェア担当調査バイスプレジデント、アル・ギレン氏は、IBMの新しい料金体系には問題があると指摘する。

 「ソフトウェアの料金に対応するプロセッサ格づけ方法の定義を、顧客が管理するのではなく、ベンダーが管理していることが問題だ。この方式だと、IBMにソフトウェアの価格を好きなように変えられてしまう」(ギレン氏)

 同氏は加えて、「今使っているプロセッサよりも性能の高い新型プロセッサが登場すると、IBMがプロセッシング・ユニットの定義を変更してしまい、ソフトウェアの利用料金が上がる可能性もある」と指摘したが、IBMは料金体系をまだ実際に変更していないため、「現在のところ、そのような状況になるかどうかはわからない」と付け加えた。

 Microsoftのライセンス方式は、今のところ他社のものよりもわかりやすいが、最終的には、すべてのベンダーがIBMの方式を導入する可能性もある。ソフトウェアとサーバの両方の能力に対応する料金体系は、全体としてユーティリティ・ベースの料金モデルに移行しつつあるからである。

 いずれにせよ、デュアルコア・サーバとマルチコア・サーバのソフトウェア料金体系は、複数バージョンのOSを1台のサーバで稼働させることが可能な仮想化技術を導入する顧客の増加に伴い、いっそう複雑化すると、多くのアナリストが予測している。

(エリザベス・モンタルバノ/IDG News Service サンフランシスコ支局)

提供:Computerworld.jp