モバイルLinuxは普及するか──携帯電話事業者らが激論:LinuxWorld San Francisco 2006リポート

 携帯電話市場でLinuxは潜在的に大きな可能性を秘めているが、現段階では確固たる地位を築くのは難しい──。8月15日に「LinuxWorld Conference & Expo San Francisco 2006」で催されたパネル・ディスカッションでは、業界関係者らがモバイルLinuxの現状および今後の展開などについて活発な討論を繰り広げた。

 当初、このパネル・ディスカッションは、携帯電話サービス事業者が自社の製品やサービスのコンポーネントとしてのLinuxについて語るという企画だったが、最終的に「モバイルLinuxの新興企業に対する自社のベンチャー投資資金」について討論するものに変更された。司会を務めた米モトローラの通信事業者市場開発担当ディレクター、ジョン・エリス氏によると、企画趣旨の変更は、主催者がパネラーとして招いた事業者らの希望に沿った結果としている。パネラーには、Tモバイル・インターナショナル、フランス・テレコム、スイスコムのベンチャー投資担当者も含まれていた。

 この企画趣旨の変更は、モバイルLinuxに対する携帯電話サービス事業者の今日の姿勢が反映されている。パネラーによると、各社はモバイルLinuxの柔軟性を評価しており、新しい関連技術などにも関心を持っているが、製品化やサービス化に向けた具体的な動きはほとんど見せていないのが実情だという。

 フィンランドのテリアソネラの投資先候補の発掘を支援しているインテレクト・パートナーズ(カリフォルニア州パロアルト)のベンチャー・キャピタリスト、グレッグ・フランクリン氏は、「携帯電話ユーザーの多くが、ソフトウェア・プラットフォーム自体よりも魅力的な機器やアプリケーションに関心を寄せている」と指摘した。

 一方、インテレクト・パートナーズのフランクリン氏は、「インテルのWi-Fi対応プラットフォーム「Centrino」の宣伝キャンペーンのように、大金をかけたマーケティング活動が、需要喚起に役立つかもしれない」と述べた。ただし、携帯電話サービス事業者や携帯電話機ベンダーの大多数は、自社のブランドのPRにフォーカスしすぎていて、Linuxの推進にまで手が回らないの実情だと同氏は指摘している。

 Tモバイルの投資部門である米国子会社、Tベンチャー・オブ・アメリカ(カリフォルニア州フォスター・シティ)では、特定の技術やOSではなく、Tモバイルの顧客の需要を満たす製品やサービスの開発に注力している、と同社のマネージング・ディレクター、クラース・ハイゼ氏は語った。同氏によると、同グループから資金を引き出すのは難しいという。

 同社には、かなり多くの会社がLinuxベースのソリューションやアプリケーションを提案しに訪れるが、それらは個人情報管理ツール(PIM)などのポイント・ソリューションであることが多いという。しかし、Tモバイルの製品マネジャーの心をつかむものは実際のところ「収益率の高い新しいアプリケーションやサービス」であり、「顧客サポートを容易にするツール」も現在関心を寄せている分野の1つだとハイゼ氏は語った。

 モトローラのベンチャー投資部門であるモトローラ・ベンチャーズのインベストメント・マネジャー、ハーシュル・サンギ氏によると、同部門では約1億ドルの資金の潜在的投資対象として1年に約3,000の案件を検討するが、実際に投資するのは25〜30件程度だという。現在、モトローラではコミュニケーション・スタックの全レイヤで斬新なアイデアを探しているという。「携帯電話にLinuxを採用するにあたって、解決すべき問題はまだたくさん残っている」とサンギ氏は述べた

 フランクリン氏は、同氏が考える「モバイル・イノベーションの理想的なシナリオ」を提示した。それは、まず携帯電話ユーザーにとって価値あるものを新興企業が考案し、それに対するサービス事業者の関心をベンチャー投資チームが喚起して、共同で製品またはサービス化する。そして、その新技術を大規模企業の顧客で試験運用し、やがて商用展開するというものである。

 「このシナリオを実現するには、事業者間で良好なリレーションシップを築くことが肝要となる。またそうした関係を築くことは携帯電話市場において競争上の優位性を獲得することにもつながる」と同氏は述べた。

(スティーブン・ローソン/IDG News Service サンフランシスコ支局)

提供:Computerworld.jp