自然災害の被災者の救済に貢献するLinuxキオスク

ハリケーンカトリーナやスマトラ島沖大地震などの自然災害の様子を伝える映像を見ていると、被災者や救援チームにとってインターネットへのアクセスなどはとても最優先で必要となる要素だとは思えないだろう。ところがTechnologyRescue.comを運営するSteve Hargadon氏の体験によると、カトリーナやリタなどのハリケーン、あるいは最近の事例で言えばオーストラリアを襲った熱帯性低気圧ラリーの被災者にとって、同氏の構築したパブリックWebキオスクが非常に有益に機能したのである。

そもそもHargadon氏が専門としているのは、小規模企業や学校向けのLinuxシンクライアントであり、既存のPC群とSANハードドライブをダム端末として活用し、旧式化したWindowsネットワークを高速、低コスト、ウィルスフリーなワークステーション群にリフォームする手法を得意としていた。そしてHargadon氏は、この種のテクノロジはコミュニティレベルの福祉活動に簡単に流用することができる、という事実に気づいたのである。そのきっかけとなったのは、2004年にインド洋周辺諸国を襲った津波災害への救援活動を伝えるニュース報道であった。「そのとき思い浮かんだのは、こうした救援チームや避難施設にいる被災者に対して、周囲の人間はどのような支援ができるのだろうかということで、その際にインターネットが利用できたら非常に有効に機能するのではないか、というものでした。そのためのアイデアを色々と考えているうちに、キオスクソフトウェアをlive CDバージョンとして提供することに思い当たったのです」。

そしてHargadon氏は、2005年にメキシコ湾岸をカトリーナが襲った際に、自分が持つシンクライアントに関する知識およびlive CDのコンセプトを生かして、自分にできる形での協力をすることを決意した。「自分たちにも何かの貢献ができるかどうかを確かめたかったんです」。同氏は各種の避難施設や地元の赤十字組織を訪問し、被災者や救援チームが簡単かつ確実に利用できるネット接続環境を設置するというコンセプトを提案したのである。こうして、同氏の提案は実行に移されることになった。

Hargadon氏が作成したのは、ロックダウンバージョンのFirefoxブラウザおよびMorphix Linuxを用いたブータブルCDである。このシステムは、Firefoxが終了されるか5分間の未使用状態が続くと、キャッシュがクリアされるように設定されている。またHargadon氏は、キオスクソフトウェアを必要とする組織のためのカスタムポータルサイト群も構築した。

こうしたキオスクを設置する際にHargadon氏が遭遇した問題の1つに、FEMAのWebサイトがFirefoxには完全に対応しきっておらず、そのサービスオンラインにアクセスするためには、避難施設ごとにWindowsシステムを利用できるようにしなければならなかった、というものがあった。とは言うものの同氏のWebキオスクは、ハリケーン被災地域の「かなりの広範囲」をカバーする形で設置されることになったとのことである。なおHargadon氏は、今年オーストラリアクイーンズランド州のイニスフェイルをラリーという名の熱帯性低気圧が襲来した際にも、同地の被災者用にカスタムCDを作成している。

こうしたパブリックWebキオスクの果たす役割は、単に救援チームが被災者の救済に必要なリソースの所在を特定するという用途だけではなく、被災者たちも外部との連絡手段を確保できるという点で重要である。例えばミシシッピ州ビックスバーグでITディレクタとして活動していたBill Ford氏は、カトリーナの襲来後、このキオスクソフトウェアを用いてVicksburg Convention CenterにJoint Command Centerを設置している。その際には被災者がインターネットにアクセスできるよう、6台のPCが用意された。Ford氏はHargadon氏に対して感謝を伝えるメールの中で「コンピュータの設置エリアに立ち寄って目撃した光景に、私は感動と衝撃を受けました」と記している。「あなたの行った活動は、1人の人間が、あるいは1つのプロジェクトでもいいですが、同時に多数の人々に貢献できるということの、偉大な事例となっています」。

こうしたテクノロジによって実際にもたらされた恩恵について証言しているのは、ダラスの各所に設けられた避難施設で40以上のキオスクソフトウェアのセットアップに協力したボランティアの1人である。同氏はHargadon氏に宛てたメールの中で「これはその日に体験した出来事です」と前置きし、「ここにあるコンピュータで、家族の安否を確認していいんですか?――どうぞご利用ください――嗚呼、ありがとうございます」という被災者とのやりとりを紹介した。

最初の活動から1年を経た今日、Hargadon氏は、今後も支援活動を継続する「準備と心構えができた」と語っている。同氏が現在希望しているのは、live CDを用いて確立できる「一種のユビキタスなインターネットアクセス」の有用性を、各種の救援組織に広く認識してもらうことだ。「これは非常時にこそ意味を持つコンセプトなので、そうした機会があるごとに現場で使ってもらって、有用性を肌で感じ取ってもらうことが必要ですね。必要となるWebサイト群の整備は既に終わっていることと、避難施設側の対応状況も改善されているということは、朗報だと言えるでしょう。ああした状況下で被災者やボランティアたちがインターネットにアクセスできることの有用性が認識され始めたんですよ」。

NewsForge.com 原文