ウォール街でLinuxのコンファレンスが開催

 第5回Linux on Wall Streetコンファレンス(ウォール街Linuxコンファレンス)が今年もニューヨーク市で4月23日月曜日に開催される。主催者によるとコンファレンスで行なわれる予定の各プレゼンテーションによって、銀行や投資会社といった金融機関やその他の金融市場の企業にとってはすでに自明のこと、すなわち「ウォール街はオープンソースソリューションに前向き」ということがますます当たり前のこととして認識されるようになるだろうという。

 オンライン登録はすでに締め切られたが、当日登録はまだ可能で、会場であるルーズベルトホテルで395ドルで行なうことができる。なお展示場への入場は無料で、登録も不要だ。

 Linux on Wall Streetコンファレンスはこれまでのところ毎年800人から1,000人の参加者を獲得している。主催者のRussell Flagg氏によるとそのような多数の参加者を獲得できているのは、高額でしばしば制限も多いプロプライエタリなビジネスソリューションの代わりとしてオープンソースの代替物を利用することにウォール街コミュニティが価値を見い出しているからに他ならないのだという。

 Flagg氏によると「Linuxコンファレンスと銘打ってはいるがLinuxだけに限定している訳ではなく、この何年かに渡って徐々にオープンソース全般を含めようと手を広げてきた。ウォール街ではすでに他のオペレーティングシステムやレガシーなシステムに巨額の投資が行なわれているが、(このコンファレンスでは)それらの代替となる、より安価で、より堅牢で、より小回りの利くソリューションを見つける手助けを行なっている。ウォール街の企業は常に、既存のシステムと同等の能力を持つ他のシステムを見つけようと不断の努力を続けている」とのことだ。

 Flagg氏によると、同氏が主催者の一人であるPete Harris氏とともにIBM、Red Hat、Intelなどオープンソースがビジネス界に与える影響を理解している企業の代表者と話をしたことで、イベントの構想が固まったのだという。「つまりわれわれは金融市場の中にまだ手の付けられていないニッチを発見した」のであり、その結果コンファレンスが生まれたのだという。

 参加者が山のような情報を整理し有益な情報を自らの企業に持ち帰る手助けとなるよう、コンファレンスの展示者と講演者の選択にも細心の注意を払っているのだという。またFlagg氏によると「コンファレンスは非常に自由な形式で行なわれていて、例えば、プレゼンテーションの内容を決めるのにも、すぐに役立つ情報を提供するという観点から適切だと思われる内容を、PR部門を通さずに講演者が自ら決定することができるようになっている」のだという。

 またFlagg氏によると「コンファレンスの参加者は70%が“スーツを着た人たち”、つまり意思決定者やビジネスマンたちであり、技術に主な関心を寄せる開発者たちは残りの30%に過ぎない。したがって講演者も主には、ウォール街で同じ立場にある人たちと情報を共有しようとしているウォール街の人間だ。結局のところウォール街の人間はやはりウォール街の人間の話に耳を傾けるものだから」とのことだ。

 とは言えコンファレンスの立案者たちは、オープンソースの導入を背後で支える人々の存在についても忘れておらず、ITマネージャたちの参加も募集している。「ITマネージャたちはコストと予算の削減という指令を受けており、オープンソースはそのような任務を全うするための優れた選択肢だ。ITマネージャたちにとって現実はなかなか厳しく、できるだけ少ない予算でできるだけ多くのことを達成し、しかも1日24時間/週7日間機能を維持し続けなければならない。バランス感覚が必要となる仕事だ」。

パネルと講演者

 調査会社The 451 Groupでオープンソース調査担当ディレクタを務めるRaven Zachary氏は、「Selling Open Source To The CIO(CIOにオープンソースを売り込む)」と題されたパネルでウォール街でのオープンソース採用についての見方を述べる予定だ。パネルにはZachary氏とともにOracle、Intel、Jefferies & Company社からのメンバーが参加する予定であり、金融市場に身を置くCIOたちがLinuxをどのように認識しているのか、またそのようなCIOたちから反対意見が出た場合にどう対処するべきかなどについての議論がモデレータ付きで行なわれることになっている。Zachary氏によるとこのような議論はベンダにとってこの分野で競争力を維持していくのに重要なのだという。

 Zachary氏によると「金融サービス企業は先陣を切ってLinuxなどのオープンソース技術のエンタープライズでの採用を行なっている。そのため金融サービス企業の消費パターンを観察することで、オープンソースベンダはビジネスとして成立する製品やサービスのタイプを正確に把握することができる」とのことだ。

 またZachary氏は「現在金融サービス企業はオープンソースプロジェクトの開発者の採用に力を入れており、企業内部に専門家を抱える傾向が強くなってきている。問題は、オープンソース分野の優秀な人材に対する需要が急速に伸びている一方で、そのような人材の数はそれほど増えていないということだ。特に、人気のあるオープンソースプロジェクトに貢献している開発者に対する需要は高く、職を得るには良い状況にある」ともしている。

 さらにZachary氏によるとウォール街では、すでにプロプライエタリなハードウェア/ソフトウェアに対する何百万ドルもの投資が行なわれているという事実にも関わらず、それ以外の代替物の検討の価値も理解できるはずなのだという。Zachary氏は「金融サービスにおけるオープンソースの利用は単にコストの問題ではなく、大きな理由の一つは、標準規格という点だ。標準規格には例えば、寿命が長い、将来的な移行が簡単、専門家の獲得が容易、などといった利点がいくつもある」と説明する。

 しかしフリー/オープンソースソフトウェアの利用にはリスクがまったく存在しない訳ではない。HPのOSLO(Open Source and Linux Organization)エンジニアリング部門担当マネージャであるPhil Robb氏は、「Open Source Governance: Recognizing and Dealing with the Unique Risks Associated with Free Software(オープンソースとの付き合い方:フリーソフトウェア特有のリスクの認識と対処)」と題するプレゼンテーションを行なう予定であり、オープンソース製品の利用に伴う法的/技術的な落とし穴にはまる可能性を企業が自ら回避するのに役立つ最良の策を議論する。

 一方、同OSLOマーケティング担当ディレクタのDoug Small氏によれば、金融サービス企業はオープンソース採用に関する潜在的な難点にも関わらず、ビジネスモデル内にオープンソースを取り込むことに非常に前向きということは今までの経緯を見れば明らかなのだという。

 Small氏によると「金融サービス企業はLinuxを早くから採用してきた。まずLinuxを使うウォール街の企業が現れ、次にLinuxを使う銀行や投資信託会社が現れた。現在ではLinuxをより幅広く使おうとしてる保険会社が現れてきている。しかもLinuxは年々重大な場面で導入されるようになってきている」とのことだ。

 またSmall氏によると「金融サービス企業ではLinuxだけではなくオープンソースソフトウェア全般の果たす役割が大きくなってきており、そのため多くの企業でオープンソースソフトウェアの利用に関して管理の方針や手続きを拡充してきている」とのことだ。

 今回まる一日をかけて開催されるコンファレンスでカバーされるトピックは多岐に渡るが、主催者のRussell Flagg氏は、例年通り参加者は(各論ではなく総論として)Linuxとオープンソースがウォール街の世界にいかにうまく適合するかということを理解して帰ることになるだろうと考えている。Flagg氏によると「このコンファレンスの直接的な結果として実世界でLinuxやオープンソースソフトウェアの導入が実現したという話はあまり聞かないが、コンファレンスが毎年成功しているということは、オープンソースの採用が確実に検討されているということの現れだと考えている」とのことだ。

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