己を高く売り込むための“ITスキル12選”

 生き馬の目を抜くIT業界。今日もてはやされていた技術が、明日には見向きもされなくなることも日常茶飯事だ。せっかく苦労して習得したスキルでも、役に立たなければ意味がない。IT業界で生き残るためには、企業が求めるスキルを見極め、しっかりと身につけておく必要があるのだ。

メアリー・ブランデル/Computerworld オンライン米国版

IT業界は空前の人手不足?

 一昔前には「オフショアリングの影響で、米国(または先進国)のプログラマーは、絶滅の危機に瀕している」とまで言われていた。しかし現実は、それとは正反対の様相を呈している。

 米国Googleでシニア・エンジニアリング・マネジャーを務めるケビン・スコット氏も、「シリコンバレーで日常的に私が目にしているのは、ITプロフェッショナル不足に悩む企業幹部の姿だ」と、人手不足の現状を認める。また、米国計算機協会(Association for Computing Machinery:ACM)で教育委員を務めている同氏は、「大手企業から新興企業に至るまで、(人手不足を解消するために)積極的に求人活動を行っている」との現実を指摘する。

 現在、多くのリクルーターが、IT業界は「売り手市場」にあると分析している。ウィスコンシン州ミルウォーキーにあるマルケット大学で情報技術学の助教授を務めるケイト・カイザー氏によると、企業は学生たちの「青田買い」を必死に進めているという。

 「今年1月、システム分析・設計のクラスで、5月に卒業を控えた学生34人に就職状況を聞いたところ、24人が1社以上の内定をもらっていると答えた。(5月の)卒業までには、全員が内定をもらっていたはずだ」(カイザー氏)

 IT関連のスキルを持つ人材にとって、今は“就職(転職)貴族”の時代であると言える。ただしそれは、企業が求める適切なITスキルを持っていれば、の話だ。では、どんなITスキルを求めているのだろうか。

 以下の12の項目は、リクルーター、コンピュータ・サイエンス学教授、業界アナリストら8人が挙げる、「企業が求めるITスキル」のトップ12である。自分を“高く売る”ために、ぜひ参考にしていただきたい。

1 マシン・ラーニング

 Googleのスコット氏が真っ先に挙げたのが、この「マシン・ラーニング」である。マシン・ラーニングのスキルとは、コンピュータの性能を向上させるアルゴリズムとテクニックを熟知し、それをマシンのデザイン(設計)に生かす能力である。

 「今、膨大なデータの中から、特定のパターンを認識するスパム・フィルタリングや不正検知アプリケーションを導入する企業が増えている。そういったソフトウェアを導入する際に必要とされるのが、マシン・ラーニングのスキルだ」(スコット氏)

 スコット氏によると、スパム・フィルタリングや不正検知アプリケーションを扱うためには、データ・マイニング、統計モデリング、データ構造などに関するスキルも要求されるという。「新時代のITキャリア」の「上流プログラマー」で紹介したとおり、不適切なデータ構造やアルゴリズムを選択してしまうと、マシンに10倍から100倍もの性能差が表れることも珍しくないからである。

 マシン・ラーニングの知識は、現場での経験を通じて、あるいは大学/大学院で習得できる。

2 モバイル・デバイス向けアプリケーション開発

 「モバイル・デバイスを対象にした現在のコンテンツ・サービス競争は、インターネットを巡る1990年代の熱狂的な競争と似ている」と指摘するのは、フロリダ州にある人材サービス企業、スフェリオン・パシフィック・エンタープライゼズのプロフェッショナル・サービス担当副社長、ショーン・エブナー氏である。

 「BlackBerry」や「Treo」などのモバイル・デバイスは、すでにビジネス・パーソンにとって必須アイテムとなっている。企業は、今までイントラネット内で利用していたERP、物資調達、経費承認などのアプリケーションを、これらのモバイル・デバイスからもアクセスできるようにしたいと考えている。

 それを実現するためには、当然、既存のアプリケーションをモバイル・デバイス仕様に作り直すことのできる人材が必要となる。企業は今、このスキルを持った人材を、血眼になって探しているのである。

3 ワイヤレス・ネットワーキング

 IT 業界で実務能力基準の認定活動を行っている業界団体「コンプティア(CompTIA)」で、技能育成担当副社長を務めるニール・ホプキンズ氏は、Wi-Fi、WiMax、Bluetoothといったワイヤレス規格の普及に伴い、セキュアなワイヤレス・ネットワークを構築できる能力が求められていると指摘する。

 「複数のワイヤレス技術が普及した現在、企業は有線ネットワークよりもはるかに危険性の高いワイヤレス・ネットワークに、どのようなリスクが潜んでいるのかあらためて不安を感じているのだ」(ホプキンズ氏)

 情報システム・セキュリティ協会(ISSA)の会長で、米国eBayでCISO(最高情報セキュリティ責任者)とCSS(最高セキュリティ・ストラテジスト)を務めた経験を持つハワード・シュミット氏も、ホプキンズ氏と同様の見解を示す。

 「もし、私がワイヤレス・ネットワーキングの専門家を採用するなら、ネットワークを構築する際に、あらかじめセキュリティ設定を制御できる機能を組み込める人材を選ぶだろう」(シュミット氏)

 同氏はまた、「今後は、ワイヤレス・ネットワークと有線ネットワークの連携方法を熟知しているネットワーク管理者が求められる。単にワイヤレス・ネットワーキング関連の認定資格を持っているだけでは意味がない」とも指摘している。

4 ヒューマン・コンピュータ・インタフェース

 Googleのスコット氏が急速に需要が伸びている職種として挙げるのは、Web/デスクトップ・アプリケーション向けユーザー・インタフェースの設計を手がける、「ヒューマン・コンピュータ・インタフェース」だ。

 「『iPod』のようなデザイン性を重視した製品の影響で、コンシューマーは優れたデザインを当たり前だと思うようになってきた。当然、彼らはそれと同じレベルのデザイン性を、ソフトウェアにも求めるだろう」(スコット氏)

5 プロジェクト管理

 プロジェクトを管理するプロジェクト・マネジャーに対する需要が高いのは、今に始まった話ではない。

 カンザス州にあるIT専門スタッフ・サービス会社のイントロニック・ソリューションズ・グループでマネジング・ディレクターを務めるグラント・ゴードン氏は、「雇用側が求めるのは、実際にプロジェクト管理の経験がある人材だ」と指摘する。

 ゴードン氏によると、プロジェクト・マネジャーの採用プロセスは、1年前よりも複雑になっているという。これは、企業が求める条件に見合う人材が不足しているためだ。

 「これだけ人材難なのだから、採用が決まった人材は、給与などの条件面で、もっと自分の希望を主張したほうがよい」(ゴードン氏)

 ちなみに同氏が勤めるイントロニックがプロジェクト・マネジャーの面接を行う際には、社内の専門家が面接を担当し、応募者が過去に担当したプロジェクトで起きたトラブルや、その問題解決のプロセスを説明させるという。

 「応募者が暗記してきた『PMBOK』(Project Management Body of Knowledge:管理に関する知識体系)をしゃべらせたところで意味がない。実際に現場で起きた問題と、その解決方法を聞けば、応募者が自分の仕事をほんとうに理解しているかどうかがわかる」(ゴードン氏)

 同氏は過去に、「飛距離を伸ばすためには、ゴルフ・ボールの表面のくぼみをどう設計すればよいか」との質問を応募者にしたことがあるという。

 「この質問に正解はない。しかし、その回答で、面接相手の思考プロセスが理解できる。同時に、あいまいな質問の問題点を整理し、分析できる能力があるかどうかを見極めることができる」(ゴードン氏)

6 ネットワーク管理 ~初級~

 IT関連の職業に就きたいと考えているのであれば、「ネットワークは専門外なので…」と言い逃れすることはできない。ソフトウェア開発のようなネットワークに直接かかわりのない職種の人でも、ネットワーク概念を理解しておくことは必須である。

 最低でもTCP/IP、Ethernet、光ファイバなどのネットワークの基礎を頭にたたき込み、分散ネットワークやネットワーク・コンピューティングに関する知識を身につけておく必要がある。

 「例えば、データセンターで導入するアプリケーションを開発しているとしよう。その際に必要なのは、ネットワークのメリットを生かしたアプリケーションを設計できる開発者なのだ」(スコット氏)

7 ネットワーク管理 ~上級~

 VoIPを導入する企業が増えるのに伴い、LANやWANだけでなく、電話やインターネットなどあらゆる通信技術を理解し、これらを統合することのできるネットワーク管理者が求められている。

 CompTIAのホプキンズ氏は、「われわれの調査によれば、テレコミュニケーションの世界にいながらもITネットワークを理解している人、あるいはITネットワークの管理者でありながらテレコミュニケーションの知識があり、両者を融合させる手法を知っている人材の需要が急増している」と指摘する。

8 オープンソース・プログラミング

 スフェリオンのエブナー氏は、現在注目されているのは、オープンソース系の開発者だと主張する。

 「かつてはオープンソースを斜陽分野だと見る向きもあったが、それは大きなまちがいだ。今求められているのは、オープンソースのOSと、その上で稼働するオープンソース・アプリケーションの両方を開発できる人材だ」(エブナー氏)

 同氏によると、いわゆる「LAMP(Linux、Apache、MySQL、PHP/PERL)」の開発/管理を手がけた人材は、引く手あまたの状況にあるという。

9 ビジネス・インテリジェンス

 「ビジネス・インテリジェンス(BI)」関連分野も、完全に売り手市場だ。特にCognos、Business Objects、HyperionなどのBI製品に精通し、それらを活用できる人材は、企業間で争奪戦が繰り広げられているという。

 エブナー氏は、「われわれの顧客は現在、BIに多額の資金を投じている。彼らが求めているのは、スクリプトやクエリーを書くことのできる“単なる技術者”ではない。ビジネスの本質を理解し、必要なデータを的確に分析できる知識を持ち合わせた人材だ」と指摘する。

10 組み込み型セキュリティ

 セキュリティ・プロフェッショナルに対する需要は、ここ数年伸び続けている。ISSAのシュミット氏によれば、最近はすべてのIT職種で、セキュリティ関連のスキルと資格を保有していることを条件とする企業が急増しているという。

 「ここ6カ月間の求人情報を見ると、すべての職種に『セキュリティ』という単語が含まれている。雇用側はメール・サーバの管理者であれ、ソフトウェアの開発者であれ、セキュアな環境を構築できる人材を求めている」(シュミット氏)

 同氏は、こうした企業のニーズによって、セキュリティは「スペシャリストによる付加的な機能」から「すべての工程/運用に組み込む機能」へと変化しつつあると指摘している。

11 デジタル家電サポート

 デジタル家電市場は大きな発展を遂げ、家庭向け家電にもコンピュータが組み込まれるようになった。しかしながら、これらの製品の修理やサポートをすることのできる人材は限られている。

 CompTIAは米国家電協会(CEA:Consumer Electronics Association)の協力を得て、「デジタル・ホーム・テクノロジー・インテグレーター」という新たな認定資格を設立した。ホプキンズ氏によれば、これは「今、最も注目されている“ホット”な資格」だという。

12 複数の開発言語+α

 .NET、C#、C++、Javaなど、どれか1つの開発言語をマスターすれば企業からお声がかかったのは、もはや過去の話だ。

 イントロニックのゴードン氏は、「単なる“コード屋”は、必要とされていない。今求められているのは、Javaなどの知識を持ちながらチーム・リーダーとして、あるいはプロジェクト・コーディネーターとして活躍できる人材だ」と指摘している。 

(Computerworld.jp)

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