Linuxサーバ売り上げ低下の真相

 Peter Galli氏によるeWeekの記事を読んで、Linuxベンダの今後が心配になった。x86ハードウェアでのLinuxサーバの売り上げが頭打ちになり、その変化率は過去6四半期で53%の増加から4%の減少にまで落ち込んでいるというのだ。しかし、少し調査してみると、その記事の主張の間違いを容易に突き止めることができた。

 Galli氏は、売り上げデータの出所をIDCのQuarterly Server Tracker(QST)としている。そこで、その報告書をIDCのサイトで探していると、8月の報告書に次のような記述が見つかった。「Linuxサーバの売り上げは5四半期連続で増加、前年比で19.0%の成長になり、この四半期の総売上額は18億ドルに及ぶ。また、全サーバの売り上げに占めるLinuxサーバの比率は、前年の12.1%から現在13.6%に伸びている」

 とにかく減少には転じていないことを知ってにわかに元気づき、Galli氏が引用したQSTを探し続けたのだが、結局見つからなかった。どうやら有料会員しか閲覧できない報告書らしい。仕方なく、この報告書の写しをくれるようにWebサイトからIDCの広報部に依頼し、翌日電話で状況を確認した。該当するQSTの写しはもらえなかったが、IDCのMike Shirer氏は確かにこう言った。「例のGalli氏の記事はかなりひどく事実を曲解したものだ」

 その後、Galli氏の記事にMicrosoftのBill Hilf氏の言葉が引用されていることに気づいた。MicrosoftのCEO、Steve Ballmer氏その人を別にすれば、Linuxについて訊く相手としてはこの地球上で一番信用ならない人物だ。(Linuxを取り上げた記事の)一次情報源にMicrosoftが含まれていること、当のIDCがGalli氏の記事を“事実の曲解”だと言い切ったことから、すべてはでっちあげにすぎず、結局Linuxサーバは市場のシェアを失ってなどいないのではないか、という気がしてきた。

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過去6四半期にわたるRed HatとNovell(Linux事業)の売り上げ

 そこでもう少し独自に調査を進めることにして、Linuxの営利事業で最も成功しているRed Hatの売上高とNovellのLinuxプラットフォームに基づく売上高を過去6四半期にわたって調べてみた。驚いたことに、そのグラフからわかったのはFOSSプラットフォームを市販する最大手であるこれら2社のLinuxサーバの売り上げが減少どころか増加していることだった。両社とも四半期ごとに最高値を更新し続けている。

 では、Galli氏が参照したというIDCのQSTに誤りがあったのだろうか。だが、その調査報告書が参照できないので何ともいえない。実際には、今回の件で過ちを犯したのはIDCではなくGalli氏のほうではないかと思われる。しかし、IDCが工場レベルでのサーバの出荷台数だけをカウントしているとすれば、実世界におけるLinuxとWindowsの比較という点では無意味なデータを用いていることになる。Red HatもNovellも、(Linuxに関する)収益のかなりの部分をサブスクリプション(一定期間内の利用契約)形式によるサーバソフトウェアの有償サポートで得ているからだ。

 たとえば、Red Hatの直近の四半期で見ると、売上高1億2720万ドルの85%がサブスクリプションによるものである。そのため、サーバの出荷台数は市場の規模、成長性、持続性のいずれも反映していない。このことがなかなか理解できない人もいるようだ。ちなみに、オープンソースの利用率を数値化する難しさについては前に記事を書いた

 コンピュータ業界の報道に多数のあてこすりが見られることは認めざるを得ない。とりわけ、Linuxの目を見張る成長を認めまいとして次のような発言を載せる記事が非常に多い。「まあ、当然のことだろう。取りやすいところを早々に取り尽してしまった反動が来ているのだ」。

 そうした評論家たちはこの20年間どこにいたのだろうか。それはちょうどMicrosoftがUNIXキラーを自称し、UNIX市場の全シェアを手に入れると公言していた時期にあたる。本当に、Linuxの増加がUNIXマシンのシェアを取り込んだ結果であって、その数がMicrosoftによるUNIXマシンのシェアの奪取よりも多い、つまり、Linuxの新たなインストール先になっているのがWindowsマシンではなくUNIXマシンであれば、彼らもそれほど問題にはしないだろう。Linuxは依然として、かつてMicrosoftが狙いをつけ、割り込んで、奪取を宣言したマシンを取り込み続けている。今やMicrosoftはUNIXから奪い取ると宣言していたサーバと獲得を目論んでいたマシンを失いつつあるというのが実状である。そして、それらを奪っているのはLinuxなのだ。これ以上説明は要らないだろう。

 何年か前に出回ったある調査の内容を思い出した。小規模事業者はLinuxへの関心を失いつつある翻訳記事)という調査結果で、それを発表したInfo-Techというカナダの調査グループはその結果の公表後にMicrosoftから金を受け取っていたのだ。Microsoftはこの作り話を顧客に吹き込むのに必死で、その調査結果を自社のWebサイトに貼り付ける始末だった。

 2年前の状況を振り返ってみよう。Red Hatは四半期末の2005年2月28日に5750万ドルの売り上げを発表していた。ところが、今年の同じ四半期の売り上げは1億1110万ドルで2年前に比べて93%以上増えている。一体どこの会社がLinuxに対する関心を失ったのだろうか。これに対し、Microsoftの売り上げは、2004年の大晦日を最終日とする四半期末とその2年後2006年の同じ四半期で比べると、18%しか増えていない。Microsoftのほうは、取りやすいところを見つけることさえ難しいらしい。

 要するに、Linuxは成長を続けているが、Microsoftのほうは(成長のために)最善の手を打ち続けているというわけだ。Linuxのユーザ層は日々増え続けて拡大しており、一方のMicrosoftは人々を欺く情報をばらまいている。Galli氏のほか、Peter Judge氏、Stan Beer氏といった評論家たちが ― 過去2年間の売上高の伸びがRed Hatの93%に対してMicrosoftは18%しかないという事実にもかかわらず ― Linuxの衰退を執拗に触れ回っていることに注意が必要である。もし、壁にぶち当たっている会社があるとすれば、それはLinuxベンダではないはずだ。

Linux.com 原文