「スパコンをノートPCサイズへ」――IBMがCPUコア間通信を高速化する新技術を披露

 米国IBMは12月6日、電気の代わりに光パルスでCPUコア間のデータ伝送を行い、伝送速度を従来より最大100倍高速化する新技術の研究成果を発表した。この技術が実用化されれば、スーパーコンピュータがノートPC並みのサイズになる可能性があるという。

 IBMのリサーチ・サイエンティスト、ウィル・グリーン(Will Green)氏は、シリコン・ナノフォトニクスと呼ばれるこの技術について、「極細の光ファイバでCPUの配線の一部を代替し、CPUコア間におけるデータ伝送速度と電力効率を大幅に向上させるものだ」と述べている。

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コアに搭載されているモジュレータ

 シリコン・ナノフォトニクスは、最大数センチの距離内でのデータ伝送が可能で、現在CPUの配線に用いられている銅配線と比べると、データ伝送速度を最大100倍高速化し、消費電力も約10分の1に低減するという。

 「シリコン・ナノフォトニクスは、CPUコア間の通信を高速化しつつ省電力化も実現する技術だ」(Green氏)

 シリコン・ナノフォトニクスの研究基盤は、光ファイバによるインターネット通信と同じ技術に基づいている。シリコン・ナノフォトニクスは、マイル単位ではなく、数センチという超近距離で光通信を可能にするものだと、Green氏は述べている。

 シリコン・ナノフォトニクスが実現するデータ通信の高速化と電力効率の向上により、スーパーコンピュータのような莫大な処理能力を持ったコンピュータがデスク上で利用できるようになると、Green氏は言う。「数百、あるいは数千のコアをチップに搭載できるようになる。例えば、仮想世界がリアルタイムでレンダリングされ、より豊かなゲーム体験が可能になるだろう」(Green氏)

 シリコン・ナノフォトニクスに基づくCPUでは、各コアに搭載されたモジュレータが電気を光パルスに変換し、それがCPU上に形成された光ファイバで伝送される。なお、コアに搭載されるモジュレータは、さほどスペースを必要としない。

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モジュレータが電気を光パルスに変換し、コア間での光通信を実現している

 Green氏によると、シリコン・ナノフォトニクスはIBMにとって長期的な研究プロジェクトの1つであり、その成果は10~12年以内にCPUに実装される見通しだという。

 パフォーマンス向上を目的としたCPUのマルチコア化が進められているが、CPUのコア間を接続する現在の銅配線では、コアが増加していくと高速データ伝送が困難になる。銅配線は熱を発するため、データ伝送にはコア間の距離が数ミリ以内という制限が加わるからだ。それ以上の距離では熱により配線が切れてしまう。

 シリコン・ナノフォトニクスは、CPUのデータ伝送線として使われている銅配線に取って代わる可能性があるが、現状では銅配線のほうが有用である。なぜなら、CPUのトランジスタ間通信に銅配線は不可欠であるからだ。一方で、シリコン・ナノフォトニクスはCPUコア間通信での利用が想定されている。「つまり、われわれは銅配線に光通信技術を組み合わせることで、CPUの高機能化を助長しようとしているのだ」とGreen氏は語る。

 Green氏によると、IBM以外にも、複数の新興企業や研究所が米国でシリコン・ナノフォトニクスの研究開発に取り組んでいるという。なお、IBMのプロジェクトは、米国国防総省高度研究計画局(DARPA:Defense Advanced Research Projects Agency)から資金の一部を助成されている。

(Agam Shah/IDG News Service サンフランシスコ支局)

米国IBM
http://www.ibm.com/

提供:Computerworld.jp