企業コンピューティング15領域のテクノロジー・トレンド予測[後編]

空飛ぶ自動車、考える機械、部屋を掃除する子供たち──こうしたたぐいのものであっても、今はともかく、現実のものとなる日が来るかもしれない。だが、本稿で提示するのは、このようなあてずっぽうの占いではない。企業コンピューティングの15領域に関して、今日のテクノロジーをベースとして「次に来るテクノロジー」の予測を示す。なかには外れるものもあるだろうが、企業コンピューティングの未来像を考えるうえで、議論を深める一助になればと願っている。

InfoWorld米国版

11. ビジネス・モデル
ユーザーは真に価値のあるものに料金を払うようになる

IT業界におけるソフトウェア料金モデルは大きく変わりつつある。サブスクリプションの普及でユーザーは製品を適切に評価するようになるだろう。 デビッド・マーグリウス/InfoWorld米国版

 ビジネス・モデルの領域で次に来るのはサブスクリプションであり、今後10年間、ITベンダーと顧客の双方に大流行するだろう。ただ、少し煩わしい面もなくはない。

 少し歴史を振り返ってみよう。ビジネス・モデルは過去10年間、世界経済のあらゆる分野で変動してきた。インターネットは消費者に主導権と透明性を与え、だれでも平等に競争できる場を提供した。ITの分野では、パッケージ・ソフトがサービスとオープンソースからの挑戦を受けるようになった。

 サブスクリプションのルーツは、ベンジャミン・フランクリンの時代、当時出版社が印刷に必要な固定費と変動費(印刷機、用紙、インク、製本)を最小限に抑えるため、前払い方式を採用したことにさかのぼる。その後、電話やケーブルテレビ、Netflix(ネット配信の映画レンタル)へと受け継がれていった。

 次に、高速インターネットがソフトウェアの展開/統合にかかる変動費を低減させ、Salesforce.comなどがSaaSの有効性を実証してみせた。その一方で、ユーザーはインストールに多額の料金を払わされ、しかも次回からそのベンダーからしか買えなくなるという従来のソフトウェア・ライセンス型の導入モデルにますます不満を抱くようになった(「髭剃りと替え刃」、あるいは「ドラッグ・ディーラー」モデルとも言える)。サブスクリプションでコストが低減すれば、ユーザーはベンダーにソフトウェアの価値を高め続けるよう圧力をかけられるようになる。

 それでは、煩わしい面とは何か。サブスクリプションは消費者のロイヤリティ・プログラムや金融商品のように、はるかに複雑化、専門化していくことになるだろう。シート当たり月額75ドルといった単純明快な料金体系は、あらゆるニーズや顧客セグメントに対応するために細分化されていく。ロイヤリティにはそれ相応の見返りが与えられ、サービス・レベルはセグメント化されて先物オプションのようなシステムが取り入れられる。

 長所としては、サブスクリプションがライセンス契約と同じくらい複雑になったとしても、ライセンスよりは透明度を維持し、何にいくら払うかを正確に把握できることだ。

 ベンダーが新規顧客の開拓のためにゴルフや酒席で接待する時代は終わった。これから成功するモデルは、営業担当者を減らしてその給与分を製品開発に向け、正規のサブスクリプション料金を払う顧客をより多く獲得できるように注力することだ。

 表面化しないコストや腹の探りあい、延々と続く交渉はもういらない。ヘンリー・フォードの再来である。高い価値に対して相応の金額を支払うということだ。

12. オープンソース
複数のOSSの組み合わせがイノベーションを促進

複数のオープンソースを組み合わせ、商用ソフトにはない新しい価値を創出するのが、これからのオープンソース・ムーブメントのあり方だ。 デイブ・ダーゴ/InfoWorld米国版

 今日、ソフトウェアのビジネス・モデルには、単にソフトウェアを記述して提供することだけではなく、それを利用可能なシステムとして構築し、稼働後のシステムを保守することも含まれている。オープンソース・ムーブメントはまさにそうしたものだ。

 これまでのオープンソース・ムーブメントにおいては、商用ソフトに類似したソフトウェアを開発する傾向があった。だが、今後は新しいものを開発する方向に向かうだろう。オープンソースの自由さによって、必要とする部分だけを抜き取り、それぞれを組み合わせて新しいアプリケーションに作り変えることで、市場投入までの期間を短縮できるようになる。

 最初に目にする変化は、サーバ向けの汎用OSがなくなることだ。データベース・サーバ、アプリケーション・サーバ、Webサーバを展開したいだけなのに、セキュリティとアベーラビリティの面で多くの問題を抱える無意味な機能コンポーネントに引きずり回されるのはごめんだ。

 一方、LinuxはすばらしいOSである。これを機能コンポーネントのリポジトリとして見ても非常にすぐれている。新興企業はオープンソースを使うことで、Linuxコンポーネントの一部と、必要な他のオープンソースを組み合わせるという、新しい手法で新機能を作り上げることができるようになる。

 すでに、さまざまなソフトウェア・コンポーネントを組み合わせながら目的に応じたソリューションを開発できるような構成でLinuxを設計し始めている企業もある。オープンソースにより、動作保証済みのソフトウェア・スタックという古臭い伝統から、特定のニーズに即した真に統合型のソリューションへと移行できるわけだ。

 オープンソースのライセンスは、このような形でイノベーションを促進させる。市場はこれを邪魔するプロプライエタリなライセンス・モデルに対して最終的にノーを突きつけるだろう。革新する自由は、あらゆる自由の中で最高のものだ。そのための材料であるオープンソースのコードは、この自由を過去にない次元にまで引き上げるはずだ。

13. アプリケーション開発
デスクトップ/Webの隙間を埋めるRIAの可能性

デスクトップ・アプリとWebアプリの隙間を埋めるRIA。この新形態のアプリケーションはデスクトップ/Webの長所だけを組み合わせたものだ。 マーティン・ヘラー/InfoWorld米国版

 現在のアプリケーション開発は大きな断絶によって2つに分断されつつある。一方はデスクトップ・アプリケーション、もう一方はWebアプリケーションだ。そして、その裂け目には、数十社のベンダーが入り込もうと競争している分野がある。これからの数年間、飛躍的に伸びそうなRIA(Rich Internet Application)である。

 デスクトップ・アプリケーション陣営は、早速対抗する姿勢を見せ、ローカル・マシンのリソースをフル活用しながら、複雑なユーザー・インタフェースを美しい装飾で彩るようになった。だが、これはインストールが必要なうえに、他のソフトウェアとコンフリクトしないように互換性に配慮しなければならない。特に、アップデートの際に互換性に問題が生じることがあるというのは大きなデメリットだ。

 これに対し、Webアプリケーションはインストールが不要で、常に最新状態で利用できるうえ、互換性も確保できる。短所はレスポンスが鈍くなりがちなこと、ユーザー・インタフェースの操作方法に制限があること、サーバ側の問題で作業が中断される可能性があることといったところだ。

 RIAは、これら2つの長所だけを組み合わせようとする試みである。レスポンスを高速にするとともに、必要に応じてユーザー・インタフェースを複雑化できるよう、インタフェースのほとんどをクライアント側に置く。そのため、インストール作業が必要となることがあるが、通常はランタイム・エンジンだけであり、これはサイズが小さいうえ自動アップデート対応のものがほとんどだ。

 一般的にRIA自体はリモート・サーバから起動し、多くの場合、間欠接続が可能だ。例えば、データベースを利用する必要があるときにローカル・マシンがインターネットから切断されたら、ローカル・データベースが起動する。再度接続されると、アプリケーションはローカル・データベースと中央データベースの同期を取る。

 私は、世界中のアプリケーションがRIAに置き換わるとは微塵も考えていない。今後もデスクトップ・アプリケーションやWebアプリケーションが適した用途はあるはずだ。私が自信をもって言えるのは、RIAはデスクトップ・アプリケーションとWebアプリケーションの隙間を埋めるうえでいっそう重要な役割を果たすようになるということ、そして、最終的には全アプリケーションを統一するテクノロジーが少なくとも1つは登場するだろうということだ。

 そのテクノロジーがどのようなものなのかは現時点では判断できない。すでに存在するテクノロジーであるかもしれないし、これから生まれてくるものなのかもしれない。だが、5年以内にはその姿が明らかになるのではないかと筆者は考えている。

14. CPU
チップのマルチスレッド化は仮想化にも貢献

コアの増加で筋骨隆々としたCPUの時代は峠を越した。これからはスループットを高めるためにCMTという新たなアプローチが取られるだろう。 トム・イェイガー/InfoWorld米国版

 1つのチップ上にできるだけ多くのCPUコアとキャッシュ・メモリを詰め込もうとするx86アーキテクチャの方針は、いずれ限界に達することになるだろう。サイズも発熱も大きいCPUコアをチップ上に増やしていくのは、長期間にわたって膨大なワークロードを扱うというサーバ・マシンの役割を考えれば、賢明な方法とは考えられない。

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写真1:CMTを採用するサン・マイクロシステムズのUltraSPARC T2プロセッサ

 今後数年間、AMD、IBM、Intel、Sun Microsystemsは、SunのUltraSPARC T2(開発コード名:Niagara 2、写真1)のような、いわゆるCMT(Chip Multi Threading)と呼ばれるスループットを高めるアプローチを採用するようになるだろう。

 x86の世界では、Pentium 4のNetburstマイクロ・アーキテクチャにおいてCMTに近いハイパー・スレッディング技術が採用されていた。これは、1つの物理CPUを2つの論理CPUに分割する技術だが、実装されているのが複雑で扱いにくいCPUアーキテクチャの上というのが問題だった。

 結局、周知のとおりIntelは、Netburstを捨ててCoreマイクロ・アーキテクチャに移行することになった。このときにハイパー・スレッディングをいったん棚上げしたが、よりシンプルなアーキテクチャに移ったことから、ハイパー・スレッディングを復活させる道筋ができたわけだ。ただし、そうする前にIntelは、CPUの世代が新しくなるたびにコアを増やし、キャッシュ・サイズを大きくし、クロック・スピードを高速化しなければならないという強迫観念を取り去ることが先決だろう。

 実現には数年かかるかもしれないが、IntelとAMDがマルチスレッディングで行くことはまちがいなさそうだ。ほかのCPUベンダーも、その道を選ぶだろう。CPUコアはキャッシュとメモリ、I/Oというしがらみにとらわれているが、ハードウェア・スレッディングが適用されれば、コアが提供する全リソースを仮想化に最も適した形に分割できるからだ。

 また、CPUが複数の仮想パーティションをどのようにサポートするかをシステム・ソフトウェアが把握しなければならない仮想化の拡張機能とは異なり、CMTはOSと仮想化ソフトに組み込まれているプログラムさえあれば、複数のCPUを扱うことができる。

 結局、サーバのスループットを高めようとしたら、そうした処理をなるべくソフトウェアで実行しないようにするのが一番なのだ。

15. HPC
スーパーコンピュータもコモディティ化に向かう

スーパーコンピュータはユーザーの裾野を広げつつある。科学技術や設計といった領域だけでなく、ビジネスでもHPCは大いに役立つ。 ジョン・ウェスト/InfoWorld米国版

 HPC(High Performance Computing)は、もはや科学者やスパイのためだけのものではない。今後、企業が収益を上げるためにも、重要な役割を担うようになるだろう。

 政府機関や大規模な科学・工学研究施設は、物理学の複雑な公式を解くため、何十年も前からスーパーコンピュータによるHPCを利用してきた。また、スーパーコンピュータは、プロトタイプの製作前に新型車がどれだけの衝撃に耐えられるかを予測したり、地質学者が新たな油田から原油を採掘する最適な方法を予測したりするのに役立ってきた。

 だが、HPCはさまざまな企業のビジネスにとっても大きなメリットがある。今や古風なタイプの企業でさえ、コア・ビジネスの経営にスーパーコンピュータを活用し始めているのだ。例えば、製造施設は鋳型部品に対する最適な流量を算出するためにHPCを使っており、試行錯誤を繰り返すことによる無駄なコストを省いている。また、配送業者はスーパーコンピュータを使って最も効率的な経路を計算し、時間と燃料の節約に役立てている。

 およそ10年前から、スーパーコンピュータにカスタムCPUでなく、一般的なCPUが採用されるようになった。このおかげで、一般的な部品からスーパーコンピュータを作る方法に関する膨大な知識が蓄積されてきた。つまり、政府機関向けのスーパーコンピュータに採用されるのと同等のテクノロジーを、今や100CPUのマシンを構築するのに利用できるようになったわけだ。価格を見てもわずか1万ドルにすぎない。構成済みのスーパーコンピュータをWebサイトで直販しているベンダーもあるぐらいだ。

 地元の配送業者は今のところ256CPUしか持っていないかもしれないが、給与の支払いから人事管理に至るまで、ビジネス・プロセスを改善する新たな機会が生まれれば、はるかに巨大なスーパーコンピュータを必要とするだろう。そう遠くない未来において、政府機関やグローバル企業と同じように、世界最大のコンピュータが地元の食料雑貨店にも導入されることになるかもしれない。

(月刊Computerworld 2007年12月号に掲載)

提供:Computerworld.jp