BarracudaがTrend Microに対して不本意な反訴

 これまでのところでもすでにたちの悪い状況になっていたのだが、現在米ITC(国際貿易委員会)の立ち会いのもとでの証拠開示手続き中のBarracuda NetworksTrend Micro訴訟翻訳記事)は、ここに来てさらにたちの悪い状況に発展した。Barracudaが最近取得した3件の特許に基づいて、同社の側からも特許侵害の申し立てをTrend Microに対して行ったのだ。この反訴は、人気の高いフリーソフトウェアアプリケーションClamAV(Clam Antivirus)を製品に含めることでBarracudaが自社の特許を侵害しているとするTrend Microによる申し立てを受けて行われたもので、Trend Microに対して和解交渉に持ち込むようにプレッシャーをかけることが目的のようだ。

 Barracudaの社長兼CEOを務めるDean Drako氏は次のように述べた。「本来であればインターネットをより安全な場所にするために使えたはずのわれわれの時間やエネルギーやお金を、このようなばかばかしい訴訟関連のことに使わなければならないのは残念だ。悲しい気持ちになる」。

 一方Trend Micro広報担当のMichael Sweeny氏は取材に応じて、「今回Barracudaがわれわれに対して起こした最新の訴訟については、まだ連絡を受けておらず内容も調査していないためコメントは特にない」とし、この争議のそもそもの最初の動きは2007年3月にBarracudaの側から確認判決を要求したことであるという点を強調した。

 今回Barracudaが起こした訴訟に関連するのは、ダウンロードされたコンテンツに基づくファイアウォール規則の作成に関する米国特許第7093287号と、トロイの木馬とバックドアの検知に関する第7093294号と、ウィルスのスキャンに関する第7103913号の3つの特許だ。

 これらのどの特許も、少なくとも、Trend MicroがBarracudaに対して起こした訴訟の中心となっている、ゲートウェイ上のウィルススキャンに関する米国特許第5623600号と同じくらいには広範囲な内容だ。過度に幅広い内容の一件の特許に対して同様の3件をもって対抗することのばかばかしさはDrako氏も承知しているようで、その類似性を指摘すると「似ている?それは私がいかにありきたりな人間なのかということなのだろう」と笑って応じた。

 しかしDrako氏はすぐに真剣な口調になり「しかしわれわれにはこれ以外の選択肢がない」と付け加えた。

 Drako氏は詳細について述べることを控えたが、3件の特許はこの半年以内――つまりTrend MicroがBarracudaに対する訴訟を起こした後――にIBMから購入したものなのだという。Drako氏によると「オープンソースコミュニティを守るために力を貸してもらえないかとIBMに話を持ちかけたところ、個人で特許を販売している人々を紹介された」とのことだ。

 Drako氏は詳しくは述べなかったが、話から推測するとIBMは、コミュニティを救う目的でBarracudaに特許を売ったということのようだ。ただしDrako氏は購入に伴う金額や(あるとすれば)条件などの詳細は明かさなかった。

 なおこの3件の特許は、2005年にIBMがFOSS(フリー/オープンソースソフトウェア)コミュニティに対して主張することはしないと誓約した500の特許の中には含まれていない。

防御的な特許、誓約、ポートフォリオ

 とは言え、購入の際の条件だったにしろ自らの意向にしろDrako氏は「われわれは、この特許ポートフォリオを防御の目的で使用するつもりだ」と宣言した。「特許は防御的な目的においてのみ使用するべきだと考える、この業界の仲間たちに私は強く共鳴している。Red HatやSunも同じ考えだと思う。この訴訟は何も好き好んでやっているわけではないのだ。しかしTrend Microに訴えられている身としては、そうでもしないと大変なことになってしまうので他に選択肢がない」。

 Drako氏は、Barracudaの特許から発生した利益は――期日や方法については明らかにしなかったものの――すべてコミュニティに寄付するつもりだとした。

 加えてDrako氏は、これらの特許をFOSSプロジェクトに対して行使しないと約束してコミュニティを安心させる方法を現在「検討中」だとした。なお、共有の特許ポートフォリオ構築を目的とした組織のOIN(Open Invention Network)にはこの訴訟が起こった始めの頃に連絡を取ったことがあるとして次のように述べた。「残念ながらOINはClamAVをLinuxの一部とはみなしていなかったので、ClamAVにまで支援の手を広げることには気が進まないようだった」。

 そのためDrako氏は、FOSSのための共有ポートフォリオをBarracuda自身で作成/管理するべきなのか、同じ目的の既存の共有ポートフォリオに特許を寄付するべきなのかを熟考中なのだという。Drako氏は「今はまだ本格的に吟味する時間がないが、今後必ず行う」と約束した。

新たな訴訟とより大きな戦略

 Trend Microの特許が無効になるとおぼしき先行技術についての宣誓証言翻訳記事)をスウェーデン人開発者/企業家のGoran Fransson氏が最近ITCの面前で行ったことを考えると、Barracudaの今回の申し立ては予想外の進展だ。またDrako氏も、現時点では「まだ詳しく言える段階ではない」としながらも、むしろ「訴訟はBarracudaの観点から言って良い方向に進んでいる」としている。

 そのような状況にも関わらず今回の戦略を取った理由を部分的に説明する点としてDrako氏は、訴訟のプロセスが低速で時間がかかるということを指摘した。「これまでのところは基本的に、証拠開示手続きの主張の整理や証拠の収集を延々と行っている。判事はまだ関与さえしていない」。

 さらにDrako氏は次のように説明した。「われわれがこのようなことを行っているのは、オープンソースコミュニティとClamAVを守るためだ。しかし特許システムと米国でのその現状においては、防御には多大なコストがかかる。そのため合理的な結果を得ようとする気が少しでもあるのであれば、攻撃手段も持っておく必要がある」。

 Barracudaの法的な戦略における今回の反訴の位置づけについてDrako氏は詳しくは語らなかったが、一般的なコメントとして次のように述べた。「言うまでもないことだが、われわれが彼らを訴え、彼らがわれわれを訴えているという状況では、交渉の席に着いて折り合いを付けるのが両者にとって賢明なことになるだろう」。

 Drako氏は次のように締めくくった。「フットボールに例えて考えている。史上最強の防御チームであっても、攻撃をしなければ試合に勝つことはないだろう。そのため攻撃する必要がわれわれにはあった。本当のところは攻撃モードになりたいわけではないのだが、そうせざるを得ないという状況に追い込まれている」。

Bruce Byfieldは、Linux.comに定期的に寄稿するコンピュータジャーナリスト。

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