「Wikiのビジネス利用は課題山積」──Wiki関係者が指摘

 Wikiは将来的に企業内のコラボレーションを向上させて、ネットワーク・トラフィックを軽減するとともに、記録保持の法令順守にも役立つ可能性がある──。Wikiの関係者が、9月21日に行われた「Interop New York 2006」(9月18〜22日)の基調講演で、このような展望を語った。

 基調講演の壇上に立った米ソーシャルテキストのCEO、ロス・メイフィールド氏は、「ユーザー間で情報のコントロールを共有することは、イノベーションにつながる」とWikiの潜在的なメリットを訴えた。

 一方、同氏と共同で基調講演を行った米ハーバード・ビジネス・スクールのアンドリュー・マカフィー教授は、「企業はWikiによるメリットを享受する以前に、まず、社内でWikiへの取り組みをどのように始めるかという基本的な問題に直面することになる」と指摘した。Wikiは一般に、複数のユーザーが共同でコンテンツを容易に作成、削除、編集できるWebサイトやそのコンテンツ管理システムを指す。

 「極力シンプルに、使いやすいかたちで運用しなければならない。Wikiの競合技術にあたる電子メールでは、ユーザーは『送信』を押すだけでコミュニケーションができるのだから」(マカフィー氏)

 部門内や社内全体に一斉に送信される連絡メールは、ときに「職場スパム」として迷惑がられる場合がある。メイフィールド氏は、Wikiを活用すれば、そうした事態を解消できるかもしれないとしている。

 また、Wikiでは社内のだれもが作業に参加できるため、グループの意思決定が閉じたプロセスで行われる場合よりも革新的だとマカフィー氏は指摘している。さらに、Wikiでは変更が加えられるたびにバージョンが記録されるため、決定までのプロセスを示す文書証跡も得られるという。したがって、企業の意思決定の過程を示す記録の保持を義務づける規制を順守するうえで、セキュリティが確保された社内Wikiが役立つ可能性もある。マカフィー氏は、「規制当局がWikiを調査し、企業の意思決定者がルールに従っていたかどうかを判断するといったことが、将来行われるかもしれない」と述べている。

 だが、メイフィールド氏とマカフィー氏が述べたようなWikiの価値を企業が享受できるようになるには、まだまだ時間がかかりそうだ。というのも、Wikiが効果を発揮するには、どれだけのアクティブ・ユーザーが必要かが不明だからだ。例えば、Wikiの成功事例と言われるオンライン百科事典「http://www.wikipedia.org/」でさえ、実際に編集作業に参加しているユーザーは500人程度と、Wikipediaユーザー全体のうちの微々たる割合にすぎない。

 「Wikipediaにおける貢献者の割合はきわめて小さい。この割合を企業に当てはめると貢献者は0人という計算になってしまう」(マカフィー氏)

 さらに、Wikiでは、個々のユーザーの性格に基づく行動が、かえってコラボレーションを阻害してしまうおそれもある。「隠れていたい人は隠れることができるため、そうした消極的な人はコラボレーションに参加せずにいられる。一方、無神経な人はますます無神経な行動をとってしまう」とマカフィー氏は指摘する。

 同氏は、「今のところ、Wikiをビジネスで活用するには、さまざまな課題を解決しなければならないが、その可能性を探るために社内で限定的に導入する価値はある」と述べたうえで、Wikiは枠組みを押しつけることの対極にあるものだが、それは必ずしも混沌を招くとはかぎらない」と強調した。

(ティム・グリーン/Network World オンライン米国版)

提供:Computerworld.jp