LinspireがUbuntuベースに

昨日Linspire社とCanonical社が共同声明を発表した。内容は、Linspire社が同社のディストリビューションのベースとしてこれまでのDebianではなくUbuntuを利用し始めるということと、UbuntuのユーザがFeisty Fawnリリース以降、プロプライエタリなアプリケーションやドライバのインストールにCNRを利用することが可能になるというものだ。

Linspire社はFreespire 2.0よりLinspireとFreespireの2つのディストリビューションのベースとしてUbuntuの利用を開始する。なおFreespire 2.0はUbuntuの次期リリースであるFeisty Fawnをベースとする予定だ。またFeisty Fawnは4月にリリースされる見込みとされており、Feisty FawnベースのFreespireのリリース時期については、プレビューリリースが今年の第1四半期中に始まり、最終版のリリースはFeisty Fawnリリース後の第2四半期になるとのことだ。

Linspire社CEOのKevin Carmony氏によると今回の動きは突然の出来事ではないとのことだ。Carmony氏はUbuntu創設者でCanonical社CEOのMark Shuttleworth氏に「3年かそれくらい前」に会い、提携を検討するプロセスをすでに開始していたという。しかしその一方でLinspire社はDCCA(DCC Alliance)(旧称Debian Common Core Alliance)にも参加し、DCCがリリースするディストリビューションをベースにすると発表していた。

しかし実際にはDCCベースのLinspire社のディストリビューションは実現しなかった。またCarmony氏は現時点でのDCCAにはあまり実質的な意味がなくなっていることを認めている。Carmony氏は「本気でその状態を改善しようと思ったことがなかったからなのですが、DCCAにはあまり勢いがありませんでした」と言う。Carmony氏はまた、自分はどちらかと言えば標準は市場が決めるものであるという考え方の「ファン」であるとした。これはUbuntuの方がうまく成し遂げたことであり、DCCAの場合はうまくできなかったことだ。

DebianからUbuntuへ移行したディストリビューションとしてLinspireは最新のケースであり、またそのような移行を行なった最も有名なディストリビューションであるかもしれないが、しかし唯一の例というわけではない。Ubuntuは派生ディストリビューションの作成用に人気が高まっており、元々Debianをベースにしていた、かなりの数のプロジェクトがUbuntuへ移行している。中でもそのような移行を行なった最初で良く知られたケースとしてMEPISがある。MEPISは今から約1年前に移行を発表した。

つまりMEPISはすでに同じ道を通っている経験者であるわけだ。そこでMEPIS創設者のWarren Woodford氏に移行についての体験談とUbuntuへの移行の際に何かマイナスに働いた点があったかどうかを尋ねたところ、Woodford氏は移行に満足しているようだった。

Woodford氏によると「Ubuntuへの移行は僕らにとっては非常にうまく行ったね。理由は主にパッケージ群が安定していることと、新しいリリースがすぐに採り入れられること。…Debianの代わりにUbuntuを使うことでマイナスになったことはないよ。ただもしかすると一部の人たちの一般的な認識として、僕らがUbuntuときっとまったく同じだろうからということで、試してみる価値もないUbuntuの単なるパクリだというレッテルを張られてしまっているような気がするけど。もちろんそれは1,000%間違った認識だよ」とのことだ。

Canonical社と現在交渉を行なっているディストリビューションは他にもあるのだろうか?Canonical社のサポート・サービス担当部長のSteve George氏によると、Canonica社は現在他のベンダとの話し合いの最中であり「来週Linspire以外の人たちがUbuntuをプラットフォームとして使用するという発表がいくつかあると思います」とのことだ。

Debianへの影響?

LinspireがUbuntuベースへ移行したことによって、Debianが何らかのマイナス影響を受けるということはあるのだろうか?例えばUbuntuがさらなる一般ユーザ層を獲得することになり、(少なくとも理論的には)開発の労力がDebianではなくUbuntuにより多く費やされることにならないだろうか。私はDebian Project LeaderのAnthony Towns氏に今回の発表についてのコメントを求めたが、本記事の執筆時までに回答を得ることができなかった。

一方、このことについてのWoodford氏のコメントはUbuntuがDebianに暗い影を落すことを思わせるものだ。「Mark(Shuttleworth氏)は、コミュニティをつついてより実用主義的な方向へ持っていくことを見事にやってのけたと僕は思うよ。Debianコミュニティのますます多くの部分が今やUbuntuコミュニティになってきている。最近参加し始めた新しい人たちは、(Debian関連のコミュニティであっても)オープンソースソフトウェアについて多様な考えを持つことを許されているんだよね。筋金入りの純粋主義者たちはDebianに固執するんだろうけど、5年もたったらそのような人の数は1970年代のMIT大に残ったハッカーの数ほどにしかいなくなるかもしれないよ」。

一方Carmony氏はUbuntuが好まれる傾向がDebianにマイナス影響を与えるかどうかについては「何とも言えない」と言う。「Ubuntuのための開発作業でさえ、多くの開発作業の場合、まずはDebianのための開発作業から始めることが多いのです。…つまり開発者たちが特に重点を置く場所がどこであるかというだけの話であり、単に今現在は優れた開発作業の多くがUbuntuに対して行なわれているというだけのことではないでしょうか。そしてそれはオープンソースにとってもLinuxにとっても好ましいことなのです。…重点がどこに置かれていようと、活発に活動しているというのは好ましいことですから」。

そしてShuttleworth氏は「これまでにもDebianとその派生プロジェクトとの間には常に、わずかながらもピリピリしたムード」があったと言う。とは言えShuttleworth氏によるとCanonical社の場合には「Debianとの協働作業のために非常に多くの時間と労力を投資しています。でも他の多くの派生プロジェクトの場合にはそうするだけの時間も労力もただただ不足していてそうもいかないでしょう」とのことだ。

またShuttleworth氏は「DebianとUbuntuとの間のやり取りにも、もちろん摩擦はつき物です。それでもやり取りが実際に行なわれているということに間違いはなく、私たちは常にその関係を保ち続け向上させることに取り組んでいます。私が願っていることは、私たちのそのような取り組みがUbuntuから派生した他のプロジェクトのためにもプラスとなるということです。というのもUbuntuから派生した他のプロジェクトが私たちと協力して行なう作業には、それが一般的な利益につながるものであるのならば、Debianに取り入れられる見込みもそこそこあるからです」とした。

UbuntuにおけるCNR

Linspire社がCNRをLinspire社以外のディストリビューションにも開放したのは先月のことだが、CNRのサポートを発表したディストリビューションはUbuntuが最初だ。George氏によるとCNRのコンポーネントはUbuntuの標準のパッケージ管理ユーティリティに取って代わるわけではなく、単にUbuntuの付加的なコンポーネントの一つになる予定とのことだ。

Shuttleworth氏によるとUbuntuコミュニティのCNRに対する需要は以前からあったという。「私たちがUbuntu Forumsでの議論を見たところ、多くの人たちがCNRサービスを欲しがっているのは明らかでした。ですから私はLinspireが今やUbuntuユーザにもCNRを利用可能にしているということが嬉しく、わくわくしています」。

Carmony氏によるとユーザには2つのオプションが用意されるとのことだ。一つはUbuntuが提供する、カスタマイズされたCNRソフトウェアを利用するというものだ。そしてもう一つは「純粋なCNR体験」を提供する「プラグイン」をLinspireからダウンロードするというものだ。ただしカスタマイズ版の方はFeisty Fawnのリリースまでに利用可能になる可能性が低いため、ユーザはLinspireからの「純粋なCNR」版から使い始めなければならないようだ。

Carmony氏によるとLinspire社はLinspireとFreespireをUbuntuベースで構築することに関連してサポート料や技術料などをCanonical社に対して支払うことはしていないとのことだ。しかしUbuntuユーザがCNR Warehouse経由でソフトウェアを購入した場合には収益を分け合う予定だという。「ユーザはCNRを使ってDVDプレーヤやCrossOver Office等々を購入することができます。…Linspire社とCanonical社とで(売り上げの)マージンをベンダと分け合うことになります」。

Shuttleworth氏によると契約内容は機密事項とのことだ。「私たちとビジネス上の関係を結んでいるディストリビューションもありますし、そうでないディストリビューションもあります。実際私たちはビジネス上の関係を結んでいないパートナーとの協力にもオープンでいるよう努力していますし、当然のことながらCanonical社は今となってはUbuntuコミュニティ全体のほんの一部分でしかありません。しかしそれでもやはり、Ubuntuから派生したディストリビューションの中には、正規のビジネス上の契約を交した上で私たちの持つノウハウやテクノロジーを活用したいという人たちもいるのです」。

DebianからUbuntuへの移行がLinspireにとって今後どうプラスに働くのかを観察するのは興味深いことになりそうだ。Woodford氏はLinspireの今回の決断について「Linspireにとっては、うまく行くことを信じて清水の舞台から飛び降りた」ということだろうと表現した。

「Linspireは、自分たちのビジネスの古い考え方を捨て去り、オープンソースの時代の流れに従わなければならないだろうね。Debianベースのときには、LinspireはDebianと非互換になっても何から何まで自分たちでパッケージし直していた。でもMark(Shuttleworth氏)はそれをやめるように言っているんじゃないかな。またLinspireはCNRのコードを公開しようとしている。ということは潜在的には誰でもが、そのコードを使ってLinspireと競合するサービスを提供することができるということだ。実際にそれを実行に移すには度胸が要ると思うけど。あるいはひょっとすると自暴自棄なのかもしれない。それがどちらなのかを言う立場に僕はいないけどね」。

NewsForge.com 原文