「液体冷却」時代を迎えるデータセンター――課題は標準冷却仕様の“不在”

 電力コストの急増やサーバの発熱問題に直面しているデータセンターにとって、唯一残されている解決策は液体冷却だ。しかし、標準と呼べる“仕様”が存在しないなど、液体冷却にも課題はある。

 データセンターはいよいよ「液体冷却」の時代に入る──こう言い切ってしまっても、実情をよく知るIT管理者は異を唱えないだろう。電力コストの急増を抑え、増え続けるサーバからの発熱に対処するのに、これ以外の選択肢があるとは到底思えないからだ。「当社はまだ大丈夫」などと考えていると、大きな代償を払うハメになる。データセンターの液体冷却化は、思いのほか早くやって来るとみて間違いない。

 「もしこの取り組みがわれわれエンジニアの側に一任されていたら、液体冷却されたデータセンターはすでに5年前に登場していたはずだ」と語るのは、米国IBMに25年勤務するエンジニア、ロジャー・シュミット氏。水冷式メインフレームの設計で豊富な経験を持つ同氏は、現代のデータセンターもメインフレームと同じ道をたどると見ている。

 ヒューレット・パッカード(HP)によれば、この8年間でサーバの性能は75倍向上し、電力1ワット当たりの性能も16倍に伸びた。しかし、使われるプロセッサの数は減るどころか、これまでにない勢いで増え続けている。データセンターに設置されたサーバの消費電力密度は、絶え間なく上昇し続けているわけだ。

深刻化するサーバの発熱

 サーバの消費電力が上昇を続けると、2つの問題が生じる。1つは、電力コストの高騰だ。各種機器で個別に消費電力が測定されているわけではなく、かつ電力コストがIT予算に含まれていないことも多いため、この事実を認識しているデータセンター管理者はさほど多くはない。しかし、このまま電力コストが上昇し続ければ、彼らの問題意識も高まり、いずれ現実に即した形にデータセンターを改修せざるをえなくなるのは明らかである。

 もう1つの問題は、消費した電力が熱に変わることだ。30キロワット対応ラックでの発熱処理がどのようなものかを知りたければ、家庭用のオーブンを最高温度に設定してドアの中に手を入れてみるとよい。このとき、消費電力はおよそ3.4キロワットで、このフル稼働状態のオーブン9台をラック1基に押し込め、24度以下の温度に維持するのである。

 電力/冷却機器ベンダーのリーバートで環境応用エンジニアリング担当マネジャーを務めるデーブ・ケリー氏によると、現行の空気冷却技術でこのレベルの発熱に対応できるのは、せいぜい35キロワット前後のラックだという。5年以内には50キロワット対応のラックが登場する見込みだが、今のまま発熱量が上昇し続ければ、すぐに限界が来るのは目に見えている。

 HPの上級エンジニアであるクリスチャン・ビレーディ氏は、消費電力と発熱の問題に早急に取り組むよう、データセンター管理者への教育を徹底するべきだと主張する。「こうした問題を早く解決しなければ、データセンターの効率性はいずれ大きく損なわれる」(同氏)

 まずはサーバからの発熱をデータセンターから取り除かなければならない。サーバ1台当たりのインフラ・コストが高騰している大きな理由は、この排熱にあるからだ。

 サーバのハードウェア価格が下落傾向にあるなか、1台のサーバを3年サイクルで運用するのに要するコストは、2003年時点のサーバ価格を上回っていると、ビレーディ氏は指摘する。実際、サーバ1台にかかるエネルギー・コスト(電力および冷却コスト)は今年、サーバ購入額に追いつくと見られている。そして来年には購入額を上回り、サーバのTCO(総所有コスト)の中で最も大きな額を占めるという。

液体冷却仕様の標準化を!

 サーバの冷却コストは、空気冷却よりも効率的にサーバを冷やすことで抑えることが可能だ。そこで登場するのが液体冷却技術である。ラックに収められた各種コンポーネントに冷却剤または冷水を直接送り込むことで、サーバをダイレクトに冷却するわけだ。液体冷却は、空気冷却よりもはるかに効率的な手法であり、将来は必須のテクノロジーになると目されている。

 ならば、この技術が広く出回るのはいつごろなのだろうか。リーバートは現在、IT機器ベンダーと共同でプロジェクトを進めており、同社のケリー氏はその内容を明らかにできないとしているが、2年以内には(冷却剤を流すパイプを)プロセッサに直接挿入できる技術が開発されるとの見通しを示した。

 既存のインフラに効率的な設計を施しても、データセンターにおける冷却コストを低減することは可能だ。最良の設備と最適化をもってすれば、すぐにでも効果が見込める。

 30キロワット近い電力を消費するサーバ・ラックの冷却については、ラックの真上、あるいは近くから冷風を吹き付ける熱交換器に冷却液を送り込む「スポット冷却システム」が最近注目されつつある。これは、いわば電算室の空調ユニット用冷却水をラック単位で供給するというもので、空調ユニットよりも短距離で冷風をサーバに吹き付けることができる。

 このコンセプトをさらに発展させれば、パイプをラックそのものに拡張し、直接冷却液を配管に流すという方式に行き着く。これによって熱交換器は不要になり、冷水または冷却剤を送り込むための挿入口を持つシャーシ(例えば「IBM BladeCenter」)にいずれ置き換わっていくだろう。

 もっとも、ラック単位で直接冷却すると言っても、そのやり方は各社でまちまちというのが実情だ。冷却剤の種類や配管の組み合わせなどに、標準と呼べる仕様は今のところ存在しない。

 「今行動しなければ、すべてがどんどんプロプライエタリ化するだけだ。そしていざ液体冷却の時代になったときに、相互運用性を確保できなくなる」と、ビレーディ氏は警告している。

(ロバート・ミッチェル/Computerworldオンライン米国版)

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