Mac対応仮想化ソフトの普及を促すApple──Windowsユーザーの関心を喚起し取り込みをねらう

 米国AppleのCEO、スティーブ・ジョブズ氏は、イベントの基調講演で自社の製品と技術を宣伝するのが常だ。6月11日の週に開催された同社の年次コンファレンス「Worldwide Developers Conference(WWDC)2007」での基調講演もその例外ではなく、同氏は「iPhone」、「Safari 3」、そして特に「Mac OS X 10.5」(開発コード名:Leopard)のアピールに努めた。

 しかし、同氏はまた、Apple製ではないだけでなく、Leopardの主要コンポーネントと競合すると見られる2つの製品にも賛辞を送った。「Boot Camp」(IntelMac上でWindowsを動作させることができるApple製アプリケーション)について説明した際、ジョブズ氏は、ほぼ同様の機能を持つ2つの仮想化プログラム、すなわち「Parallels Desktop for Mac」と「VMware Fusion for Mac」に言及した。

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「VMware Fusion for Mac」のユーザー・インタフェース(クリックで拡大)

 Boot Campは、今年10月に出荷予定のLeopardに搭載されることになっている。だが、Boot Campを使ってWindows XPやVistaを動作させるには、Mac OS Xを編集する必要があるほか、マシンを再起動してWindowsに切り替えなければならない。

 これに対し、ParallelsのParallels DesktopやVMwareのVMWare Fusionの場合は、Mac OS X上で仮想OSが1つのプロセスとして動作する。つまり、ユーザーはWindowsとMac OS Xを並行して動作させることができる。

 このため、ジョブズ氏は聴衆に向けて、Boot CampはParallels DesktopとVMWare Fusionの「優れた補完ソフトウェア」だと語った。さらに同氏は、「Mac上でWindowsを動作させる場合、3つの素晴らしい方法が利用できる」と付け加えた。

Mac仮想化市場を支持するApple

 ジョブズ氏のコメントは重要な意味を持つ。Mac上でWindowsを利用可能にするプログラムの市場をAppleが独占しようとするのではなく、この新しい仮想化市場へのサードパーティ開発会社の参入をAppleが全面的に歓迎していることを示しているからだ。

 またこのことは、Appleがクロスプラットフォーム・アプリケーションをMacにとって重要な分野と位置づけており、より多くの開発会社がソリューションを提供するほど、市場が健全に発展すると考えていることを示唆している。

 こうしたAppleの支持をバックに「Mac+Windowsアプリケーション」を実現するアプローチが広がれば、WindowsユーザーがMacに高い関心を持つ可能性もある。

 OSを乗り換えるのは、ビジネス・ユーザーにとってもホーム・ユーザーにとっても、多くの検討を要することだ。だが、Boot CampやParallels Desktop、VMWare Fusionのようなプログラムにより、MacとWindowsを切り替えて使うことができれば、Appleが取り込みをねらうWindowsユーザーにとって、Macを試さない理由が1つ減ることになる。

 Parallelsのコーポレート・コミュニケーション担当ディレクター、ベン・ルドルフ氏は、「AppleがMac上でのWindowsの利用にお墨付きを与えているのは、大きな方向転換だ。Windowsは重要な存在であり、ユーザー基盤も大きい。Appleの変化はユーザーにとって良いことだ」と語る。

 実際、仮想化プログラムへの需要は高いようだ。VMwareはVMware Fusionのパブリック・ベータ版がこれまで20万回ダウンロードされたと報告しており、Parallelsは自社製品のアクティブ・ユーザーが50万人に上るとしている。ジョブズ氏はWWDCの基調講演で、Boot Campのベータ版は2006年のリリース以来、250万回ダウンロードされたと述べた。

仮想化のメリット

 Mac上でWindowsを利用できるようにする方法としてはエミュレーションもある。しかし、仮想化プログラムはエミュレーション・プログラムと比べ、Mac上でPCソフトウェアをWindowsマシンの場合と同等の速度で実行できるという強みがある。

 VMwareのMac製品担当シニア・プロダクト・マネジャー、パット・リー氏は、「IntelMac上の仮想マシンでソフトウェアを実行すれば、その高いパフォーマンスをそのまま活用できる」と語る。

 WindowsとMac OSを並行して動作できることも、仮想化プログラムの強みだ。これは、Windowsプログラムをたまにしか使う必要がないユーザーにとって特に便利だ。「両OSを使う人にとって、この機能は非常に重宝する。この機能により、両OSに実際に触れながら徐々に特徴をつかんで、自分に最適な使い分けができるようになる」(Parallelsのルドルフ氏)

 ただしAppleは、Leopardに搭載するBoot Campでは従来どおり、Windowsを利用するには再起動が必要という仕様を維持することを決めている。

 Parallelsのルドルフ氏は、「彼ら(Apple)がわれわれの製品のようなネイティブな仮想化ソリューションを提供することはないだろうと、95%確信していた。AppleがWindowsや他のOSを、そこまでサポートするとは到底思えないからだ。とはいえ、われわれにできるのだから、Appleがそうしたソリューションを提供することも可能なはずだ」と話している。

(ジム・ダルリンプル/Macworld.com)

米国Apple
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提供:Computerworld.jp