データセンターに効く「局所集中型」の冷却システム――冷却効率向上と電力コスト抑制を両立

 省エネルギーへの関心の高まりを背景に、企業のデータセンターでも冷却システムを見直す動きが活発化してきた。特に、熱源の近くで集中的に冷やす局所集中型の冷却システムが、冷却効率の向上と電力コストの抑制を両立できる方式として注目を集めている。本稿では、この方式の冷却システムについて、具体的な製品を交えながら解説する。
ポール・ベネチア
InfoWorld オンライン米国版

 今、データセンターは過渡期を迎えている。サーバ、冷却システム、UPS(無停電電源装置)といった基本構成は変わらないものの、データセンターで消費される電力に着目する企業が増え、データセンターの実装方法が変わりつつある。

 費用対効果の高いデータセンターの新設/改装を目指す企業にとって、おそらく必要不可欠な技術はサーバ仮想化であろう。しかし、仮想化技術は予想外の電力コスト高騰をもたらす可能性がある。電力コストを引き上げる「犯人」は熱だ。

 例えば、消費電力が1キロワットのサーバ12台分の作業量を、2キロワットのサーバ1台に統合すると、ほとんどの場合、仮想化ハードウェア・プラットフォームのラック当たりの発熱量は個々のサーバより増えてしまう。

 さらに、複数の仮想サーバを1基の高密度ラックに詰め込むと、熱が停滞しやすい「熱スポット(hotspot)」が発生することがある。サーバ・ルーム全体が華氏68度(20℃)に保たれていても、一部のサーバは隣接したラックも含め、部分的に高熱をため込んだ状態で稼働することになる。

 特にブレード・サーバは巨大な電力を必要とし、シャーシ(筐体)に相当量の空気が通るため、熱処理が問題になる。サーバの仮想化技術がデータセンターのエネルギー・コストを削減することは確かだが、それだけでは根本的な解決にはならない。冷却システムに関するこれまでの考え方を変える必要があるのだ。

ラックの列単位で冷却

 ほとんどのデータセンターは、天井備え付け式あるいは高床式の巨大なエアコンを備えている。しかし、省電力のデータセンターを新設、あるいは既存の建物を改装して省エネルギー化を目指している企業は、こうした空調設備だけでは不十分と考えているようだ。彼らの多くは、ラックの列ごとに冷却する「列単位冷却式(in-row cooling)」を中心とした「局所集中的な冷却システム(localized cooling)」に期待を寄せている。

 列単位の冷却装置を提供している米国APCの北米担当ビジネス開発ディレクター、ロバート・バンガー氏は、この冷却方式には大きな効果があると語る。

 「(列単位冷却は)もともとはブレード・サーバ用にデータセンターの熱スポットを解消する目的で設計した。ところが、この方式の冷却装置を実際に試してみたところ、熱の発生源の近くで冷却を行うために非常に効率のよい冷却システムであることがわかった」(同氏)

 部屋全体を冷却する「巨大エアコン方式」とは異なり、APC製品に代表される列単位の冷却システムは、ラック間に配置され、後部から暖かい空気を吸い込み、冷たい空気を前部に向かって送り出す仕組みになっている。天井や床から無差別に冷やすのではなく、熱源から数インチの位置で冷却するため、熱スポットの発生を防ぐことができる。

 また、部屋全体のサーモスタット(温度自動調節器)に依存せず、熱の発生源となるラックの前に取り付けられた温度監視計の情報を基に、それぞれの冷却装置が独立して機能し温度を一定範囲内に保つ。特定ブレードのシャーシに負荷がかかって高温になると、その列の冷却ユニットからの冷気量を増やして温度を下げてくれるのだ。

 さらに、サーバが待機状態になるとユニットは冷却作業を徐々に減らし、経費削減に貢献する。

 以上のように、局所集中式冷却システムの利点は非常にわかりやすい。調査会社Gartnerは、2011年までにはほとんどのデータセンターで列単位冷却システムが採用されると予測している。

モジュール冷却の利点と欠点

 APCは、局所集中冷却システムの導入を検討している企業向けに、空気冷却と液体冷却の2つのオプションを用意している。双方ともに8キロワット~80キロワットの冷却に対応しており、小規模ユニットの「ACRC100」と「ACSC100」は高さ、奥行きともに一般的な42Uラックと同サイズで、幅は半分。大容量のACRPシリーズは42Uラックと同じフォーム・ファクタを持つが、小規模ユニットと比較するとかなり大量の空気を送ることができる。

 電力/冷却機器大手の米国リーバートも、局所集中型の冷却システムを開発した。同社のXDシリーズは列単位冷却式および液体式の「スポット冷却」を採用し、APC製品とほぼ同等の機能を持つ。

 APC、リーバートともに、ラック後部に取り付ける空調・冷却システムを開発、こちらはプレナム(空気を循環させる通風スペース)に送り込まれた熱気が冷却されてから排出される仕組みだ。さらにリーバートは、サーバのラック上部に取り付けることで熱気を上に逃がすタイプのユニットも製造している。

 こうしたモジュール・タイプの冷却装置は、新規にデータセンターを立ち上げる際の経費節約につながる。部屋全体を冷却するシステムの場合は、将来の拡張を念頭に置いてサーバ・ルームを設計しなければならないが、モジュールを利用した局所集中冷却式は必要に応じて増設が可能だ。スペースの使用率が30%ならば、冷却装置の設置初期費用も(スペース利用率が100%時の冷却コストの)30%で済む。

 ただし、局所冷却ユニットにも弱点はある。媒介が液体の場合、部屋全体を冷却する中央集中システムと比べ、かなり多量の液体パイプをサーバ・ルームの天井もしくは床の内部に配置しなければならない。また、空冷式ユニットの場合も、データセンターの天井裏に設置したプレナムに相当の熱気がたまるため、空調や熱の排出に問題が残る。

 さらに、局所冷却システムは必要なときに必要な分しか稼働しないため、1つのユニットが故障した場合の負担は大きい。

 省エネ対応のデータセンターを新規設計するにしても、既存のデータセンターを改装するにしても、局所冷却システムを導入する前に、建物全体の環境システムやデータセンターが発する熱負荷の予想値などを総合的に理解することが大前提となる。

“芯”まで冷やすシャーシ取り付け式

 個々のサーバにかかる負荷が高いときは、より的を絞ったピンポイントの冷却方法が効果的だ。こうした需要に対応するため、ラック単位よりもさらに熱源に近い位置で冷却を行う「シャーシ取り付け型冷却式(in-chassis cooling)」が開発され、話題を呼んでいる。

 米国スプレイクールが開発した液体冷却システム「M-Cool」は、サーバのCPUが発する熱を直接とらえ、ラックに組み込まれた冷却装置に通す水冷式だ。熱は水冷パイプを通過する間に取り除かれ、ラックにも部屋にも熱を残さないようになっている。

 米国クーリジーも同様にシャーシ取り付け型の水冷システムを提供しているが、スプレイクールの「Gシリーズ」はさらに一歩進み、非導電の冷却液をシャーシに直接噴射することでサーバの熱を逃がす。まるでブレード・サーバ用の自動洗車機のような設計だ。

 ただし、シャーシ取り付け型の冷却システムは、部屋単位や列単位の冷却システムと比べると非常に複雑だ。設置可能なサーバが限定されることも留意しておくべきである。

高電圧システムへの切り替え

 サーバ仮想化や効率的な冷却システム以外にも、電力コストを下げる手段はある。データセンターの省電力化を進めるアプローチとして、従来の120ボルトから208ボルト電圧を利用した電源に切り替える方法が米国で注目されている。

 米国で最初に配電網が整備された当時、電球のフィラメントは非常に繊細だった。220ボルトの電圧を使うとすぐに切れてしまったが、110/120ボルト電源を使用すればフィラメントの寿命を伸ばすことができたため、米国は120ボルトで標準化された。

 一方、ヨーロッパを含めた世界の各地域で配電網が整備されたころには、フィラメントの設計が見直され、高電圧にも対応できるようになった。こうしたことから、多くの地域で208/220ボルトの電力システムが採用されている。

 ここで重要なポイントは、電圧を下げるために変圧器を通すと、そのたびに電力が失われるという点だ。変圧器1台ごとに無駄になる電力はわずか1~2%かもしれないが、これが大規模データセンターで長期にわたるとすれば、決して小さくない浪費となる。

 208ボルトのシステムに変更し電力網から変圧器を1つでも減らせば、節電につながる。さらに208/220ボルト電圧は安全で効率がよいという利点もある。 120ボルト電圧は、同じワット数を出すのに208/220ボルトよりも多くの電流を必要とするため、電力が移動する間のロスも高くなる。

 大多数のサーバやルータ、電源装置は120/208ボルトの両方に対応し、自動スイッチを備えているため、設備を変更することなく208ボルトの電圧システムに切り替えることが可能だ。高電圧に変更したからといってすぐに著しい変化が見られるわけではないが、電力コストの上昇を抑えるうえで、208ボルトへの切り替えは有効な手段となるはずだ。

省エネ・省コストのデータセンターに向けて

 サーバ・ルームの設置・維持に必要なハードウェアを見積もるのは、さほど難しいことではない。一方、システム全体に供給される電力コストとなると話は別で、予測は不可能だ。電気料金のわずかな値上げが大きなコスト増になり、大打撃を受ける可能性もある。

 サーバ仮想化、局所冷却システム、高電圧への切り替えといったソリューションは、データセンター設計の基本原理を、よりよいエネルギー効率を求める方向へと変えるものだ。非効率的アプローチで冷却や電力供給を考える時代は、(ガソリンが1ガロン85セントの時代と同様)もはや過去の話である。データセンターの改善は初期コストのかかる難しい作業だが、避けては通れない道であるのも確かなのだ。

(Computerworld.jp)

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