エストニアの選挙に見るインターネット投票の限界

最近、エストニアで地方選挙がオンライン選挙として実施され、オープンソースソフトウェアを使った電子投票が導入された。だが、WebサーバでLinuxが使用されることと、投票コードを誰もが閲覧できることは必ずしも等しくない、と専門家は警告する。インターネットに依存するシステムには危険が見え隠れする。

エストニアは、ITとインターネット接続で東欧諸国をリードする存在である。先月の地方選挙では、このWeb普及度の高さを利用して、全国規模のインターネット投票を実施した。もちろん、これほどの規模のインターネット投票は同国史上初めてのことであり、2007年に予定されている国政選挙レベルでのインターネット投票に向けた足慣らしの意味合いを持っている。今回の選挙には、Linuxベースのシステムが使用された。

だが、オンライン選挙にLinuxベースのサーバを使用することは、ワームやハッキングの危険を減らすうえでは有効ながら、万人に公開されたオープンソース選挙コードの使用からは程遠い、とカリフォルニア州書記官Bruce McPhersonの顧問、電子投票の専門家でもあるDavid Jeffersonは言う。さらに、他の専門家と声をそろえて、票の集計をインターネットに依存する選挙は危険だ、とも言う。セキュリティが保証されていないし、外部からの影響も排除できない。

「インターネット投票にはいろいろと問題があって、エストニアがそうした問題に適切に対処したとはとうてい言えません。インターネット選挙の成功例などと喧伝されてほしくないですね。そんなことは、エストニア国民を含め、誰にもわからないことですから。まねする国が出てこないよう、祈る思いです」

Verified Voting Foundationの創設者、David Dillも同意する。「[インターネット投票など]信頼できませんよ。信頼できるものにするためには、まだいくつもの高いハードルを越えなければなりません。エストニアのシステムの詳細は知りませんが、基本的な問題が解決されているなんて信じられる理由がありません」

電子投票の専門家、Johns Hopins大学のAvi Rubin教授も同意見である。インターネット投票に内在する困難や問題には、オープンソースソフトウェアと言えどもまだ太刀打ちできない、と言う。「インターネット投票というのは、いろいろな理由から誤った考えだと思います。問題は多く、オープンソースで解決できるものはごく一部にすぎません」

オープンソース投票とは何か

とはいえ、選挙ソフトウェア/システムにオープンソースを使うことの価値と正当性を疑う専門家はいない。ただ、異口同音に、オープンソースの定義を「万人が閲覧できるコード、すなわち公開ソース」とするように求める。

この問題について議会で証言したこともあるDillは、「投票システムの透明性を保つことが重要で、公開ソースとするのも透明性を高めたいからです」と言う。「万人が閲覧するとなったら、ベンダも慎重にプログラムを書くでしょう。それに、誰かが問題に気づいて報告する可能性が高まりますから、ソフトウェアの改良も進みます。あと、システムの中身がわかっていれば、システムへの好感度がアップするということも忘れてはなりませんね。きっと選挙結果への信頼度も高まるでしょう。もちろん、信頼に足る選挙であるのが第一ですが……」

Dillは、「コミュニティによる開発」モデルを是とする意見が多いと指摘する。ただ、「私もたいていGNU/Linuxなどのオープンソースソフトウェアを使用しますし、私の研究グループはそういうオープンソースソフトウェアを作っていますが、ほんとうにこのモデルで、実用に堪える選挙用ソフトウェアができるかどうかは不明です」とも言う。

「信頼できる選挙システムのためには、誰もが閲覧できるソースコードが必要条件です」とRubinは言う。「もちろん、十分条件ではありませんが、とにかく、これがなければ話が始まりません。なぜソースを公開し、誰でも閲覧できるようにしなければならないかと言えば、システムが何かを隠しているという印象を与えてはならないからです。投票システムにはそういう用心が欠かせません」

アメリカの選挙関係者は無関心

選挙用のオープンソースソフトウェア(より正確には、誰でもアクセスできることで、投票システムへの信頼性を高めるコード)を推進する人々は、アメリカの選挙管理に携わる人々の関心の薄さを嘆く。選挙管理人の頭には紙の受け渡しと旧来のプロプライエタリベンダのことしかない、と言う。

DillがNewsForgeに語ったところでは、米国では選挙用の公開コードに「何を優先するかがまだ明確になっていない」と言う。「ソースコードの公開を求める法案がいくつかあって、なかに私たちが推す下院のHR 550も含まれていますが、まだ可決されていません。いま、オープンソースの投票システムを開発中だと主張する団体がいくつかありますが、まだどれも雲をつかむような話で……」

Open Voting Consortium(OVC)もそうした団体の1つである。これを率いるAlan Dechertは、米国での選挙に使える公開のオープンソースコード開発に向けて驀進中であると主張しており、現在、カリフォルニア州を中心に活動している。やはり、エストニアのインターネット選挙を強く批判していて、選挙システムにおけるオープンソースの重要性をこう説明する。

「投票というのは公的なプロセスで、そこに秘密があってはなりません。選挙用ソフトウェアは、当然、オープンソースであるべきです。投じた票がどう集められ、数えられるのか、選挙民にはその詳細を尋ねる権利がありますし、望みどおりの詳細さで答えてもらう権利があります。パスコードを唯一の例外として、『それは秘密です』という答えは許されません。信頼できるシステムのためには選挙システムの透明性が必要であり、だからこそオープンソースが必要なのです」

FOSS候補システムにチャンスはあるか

「オープンだオープンソースだと言いながら、実質はプロプライエタリ」という選挙ソリューションがある、とOVCのDechertは警告する。OVCはBSDベースのソリューションに取り組んでおり、これは全国どこでも自由に再配布できる。

Jeffersonは、カリフォルニア州とタッグを組んでオープンソースの選挙ソフトウェア/システムに取り組んでいるが、この問題の優先度は州内でもさほど高くないことを認める。だが、間もなくカリフォルニア州としての公式検討会が開かれることになっており、他州も大きな関心を持って経過を見つめているはずだ、と言う。また、選挙におけるオープンソース使用の難しさがプロプライエタリベンダ側からいろいろと言われていて、これはとても残念なことだ、とも言う。

「公開のオープンソースという問題は、選挙関係者の間でまだよく理解されていません。その耳に聞こえてくるのはベンダからの声ばかりで、これは、もちろん絶対反対に統一されていますから」

原文