女性たちよ、GNOMEに来たれ

GNOME Foundationは、Google Summer of Code(SoC)参加申し込みを181件受け付けた。しかし、女性開発者からのものは1件もなかった。女性の参加がない――フリーソフトウェアはいずこも同じだが――ことに衝撃を受けたGNOME Foundationは女性開発者を発掘するためのサマープログラムを開始した。

Women’s Summer Outreach Program(WSOP)は、3名の女性開発者を受け入れ、9月までにプロジェクトを終えた人には3,000ドルを支給するというもの。GoogleのSoCと同様、学生向けのプログラムだ。

プロジェクトはGNOMEに直結している必要はなく、AbiWordやGStreamerなど、GNOME関係のソフトウェアを中心としたものであればよい。プロジェクト例が示されているが、それに限ってはいない。

GNOMEとDebianの開発者でWSOPの立ち上げに携わったHanna Wallachによれば、GNOME Foundationはコード以外のプロジェクトも申し込みがあれば「個別に」検討するが、「開発関連のプロジェクトを歓迎する」という。

「女性はコミュニケーションと文章に関わる仕事に向いていると言われていますが、そうとは限らないこと、女性だって一線の開発者になれることを、このプログラムで実証してほしいと思います」

プログラムの詳細はWSOPのウェブサイトに掲載されている。このサイトには、参加を呼びかけるためのポスターの画像もある。応募は7月1日まで。

フリーソフトウェア・プロジェクトにおける女性参入障壁

フリー・オープンソース・ソフトウェアに参加する女性が皆無に近いことは、もちろん、以前から指摘されている。2002年にFree/Libre and Open Source Software: Survey and Study FLOSSが発表されているし、この3月にはFree/Libre/Open Source Software: Policy Support(FLOSS-POLS)がFOSSプロジェクトにおけるジェンダー格差を指摘した。

この問題には人の社会化過程も関わっている。Wallachは、人は「内発的動機」に基づいて関心事を選択するという「認識がフリーソフトウェアではごく一般的」であることを指摘する。しかし、「人の嗜好や人生観は同僚や教師に大きく影響される」と言い、通常、男性は15歳で自分のコンピュータを持つが、女性は19歳だというFLOSS-POLSの調査結果を引き合いに出した。4年間の差は関心事の決定における差を生むのに十分な長さである。

しかし、この問題がフリー・オープンソース・ソフトウェア・プロジェクトで際だっているのも明らかな事実だ。プロプライエタリ・ソフトウェアがフリーソフトウェアに勝っている点があるとすれば、それは男女比である。2002年の調査によると、プロプライエタリ・ソフトウェアの女性開発者は約25%だがフリーソフトウェアでは1.5%にすぎないと、Wallachは指摘する。

つまり、FOSSプロジェクトは価値ある参加者をみすみすプロプライエタリ・ソフトウェアに追いやっているのだ。GNOME Foundationの理事Vincent Untzは次のように述べている。「これを放っておけば参加してくれるはずの人材を失うことになります。彼女たちが参加してくれればGNOMEは今以上に多様化するでしょうし、それは望ましいことです。多彩な活動が展開できるでしょうからね。これはGNOMEだけの問題ではありません。GNOMEとしては、この問題に光を当て、世に問い、みんなで解決に取り組みたいと考えています」

しかし、フリー・オープンソース・ソフトウェア・プロジェクトが女性開発者を排除しているわけではないようだ。Wallachによると、女性の「参加を積極的に妨害しているということはありません。しかし、多くのフリーソフトウェア・プロジェクトがほとんど男性で占められており、開発者は男性だと前提されていることが多く、それが女性を遠ざけている面はあります」

Untzも同じ意見で、次のように述べている。「女性を敵視するプロジェクトがあるとは思いませんが、女性にとって不利な点はあります。男性が圧倒的で女性はほとんどいないという状況の中ではありがちなことですが、改めるべきです。多いのは、女性を侮辱しているように聞こえる意見です」

また、開発者同士のフレーミングが女性を含む新規参加者を遠ざけているという。「フレーミングは(女性に限らず)新規参加者の参加意欲を阻喪させます。自分の能力に自信がなければ、名の知られた参加者と議論するのは難しいことでしょう」

そこで、新規参加者を指導し「コミュニティの仕組みや参加の仕方」を知る手助けをしてはと提案する。「ちょっと考えれば、改善点の多くが女性のためだけではなく、すべての新規参加者に有益であることがわかります」

Wallachとともにプロジェクトの立ち上げに携わったChris Ballは、「積極的な性差別主義者」であることを止めるだけでは不十分だと言う。「女性たちを排除しないというだけでなく、奨励するための対策を打つ必要があります」

Ballは、男性が圧倒的に多いことそれ自体が脅威だと言う。「100人の男性がいる部屋に女性が1人で入っていくことを考えてみてください。どれほど居心地の悪いことか。敬遠したくなる気持ちがわかるでしょう」

GNOME Foundationの理事Jeff Waughは、FOSSプロジェクトは女性にとって特に居づらい場所かもしれないが、この問題を「解決する大きな役割」を演ずることもできると言う。なぜなら、「FOSSはオープンで包容力があるから」だ。

そして、意外にも、先輩の女性開発者が若い女性をプロジェクトへの参加から遠ざけていると言う。「ジェンダー問題を理解しコンピュータ界に参加しようという若い女性たちのことを考えたとき、気に掛かるのは先輩の女性たちの姿勢です。彼女たちは、過去何十年もの間、性差別主義者と拳を振りかざして戦わざるを得ませんでした。この種の問題に大きな発言力を持つことも少なくありません。一方、若い女性たちはコンピュータに親しみ、熟練者も多い。しかし、ITの先輩たちを敬遠したくなることがあります。当の先輩たちは明らかに手助けしようとしているのですが」

曰わく、「女性にも、その気になればコンピュータを使って世界を変えるようなクールなことができる。若い女性たちよ。そうしたことを示す感動的で積極的な役割モデルを持て。フリーソフトウェア・コミュニティに生きる私たちは、世界を改善しようとしている。だから、この崇高で前向きな使命を体現する役割モデルが必要なのだ」

サマー・プログラム以後

もちろん、今回の参加促進プログラムが大成功したとしても、問題がすべて解決するわけではない。Wallachは、コミュニティがすべき最も重要なことは「FLOSS-POLSの報告書と勧告を読むこと」だと言う。

そして、「経験不足は能力不足を意味するわけではない」ことを開発者は理解すべきだと言う。「十分な時間と励ましがあれば女性たちは最高の開発者になれます(実際なっています)」。開発者はプロジェクトに参加する方法を女性たちに説明すべきだとも言う。「いろいろな参加の仕方があることを明確に説明する必要があります。コーディング、バグ潰し、試用、バグ報告、文書化、翻訳などなど、いろいろあります」

さらに、女性に対しては「RTFM」と言うのではなく「有用で建設的なアドバイスをする」べきであり、「フリーソフトウェア・コミュニティの対等の参加者」として遇すべきだと言う。

今回のプログラムが成功したと言える条件について、Waughは次のように言う。成功と言えるのは「3人の有能なハッカーがGNOMEにクールなコードを提供し、プラットフォームとコミュニティから多くのことを学び、そして、奨学金を獲得した場合。大成功と言えるのは、3人の有能なハッカーがGNOMEに長期参加し、ほかの女性たちが自分なりの方法で参加する励みとなり、コミュニティの役割モデルとなった場合です」

Untzは、女性たちに貢献できるというメッセージを送るだけでは不十分であり、フリーソフトウェア・コミュニティに対して、現状は受け入れがたく「待っていても解決はしない」ことを伝える必要があると言う。そして、「今回のプロジェクトが終わり、こうしたメッセージが好意的に広く受け入れられれば、このプログラムは成功したと言えるでしょう」

そして、Wallachは次のように述べている。GNOME Foundationは「ほかのフリーソフトウェア・プロジェクトに対する前例を作りたいと考えています。圧倒的な不均衡がある中でも女性の参加を促すためにできることはある。このプログラムを、その明白な前例にしたいと思います」

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