考古学におけるFOSSの活用状況

現代の考古学者は、膨大な量の数値データを扱っている。そうしたデータの処理には高度にカスタマイズ可能なソフトウェアが必要だが、コンピュータの利用といえばまだPowerPointスライドの作成に限られている学術分野が多い。とはいえ、考古学におけるソフトウェアがオープンになってサービスとして認識され、ユーザのコミュニティによって管理されることには、さまざまな点で大きな意味がある。こうして、予算が非常に少ない研究機関であっても重大な役割を担う可能性が出てくる。

考古学におけるフリーソフトウェアの理念および開発モデルの発見は、考古学の「重大な危機」と呼ばれる問題を起こしたいくつかの手法に起因している。研究者のBenjamin Ducke氏は「1990年代以降、基本的な定量的手法に数多くの発展がみられたが、それらを大規模に実践するためのソフトウェアは存在しなかった」と説明する。しかし、今では、フリーソフトウェアとフリーフォーマットの概念が欠かせないものになり得ることや、どんなことが可能で何が必要なのかがずいぶんと認識されている。多くの研究者は、科学および経済の両面にわたる多数の理由から考古学向けの独占的ソフトウェアに明るい未来がないことをよく理解している。

考古学の研究は、ほかの研究者による成果を追認して分析するという作業に基づいている。そのためには、研究結果の導出または処理に利用されたデータとアルゴリズムの両方に制限なくアクセスできる必要があるが、この条件は、フリーソフトウェアとの相性がいい。

金銭面から見ると考古学は、商用ソフトウェアの開発会社にとってほかの学術分野ほど魅力的な分野ではない。研究機関の予算はわずかで市場も小さく、多くの場合、商業的な価値のあるものを生み出さないからだ。考古学の研究プロジェクトは、数世代にわたる研究者の交代を経ながら続くことも珍しくないため、彼らが利用したすべてのツールは、ずっと利用可能な状態にしておかなければならない。こうした場合、1社のサプライヤが提供するオープンでないソフトウェアに頼るのは危険である。

FOSS考古学者が行うべきこと

オフィスワークの自動化という点では、考古学者もほかのデスクトップユーザと変わりはない。しかし、彼らのフィールドワークには、先進の地理情報処理システム(GIS)と3-Dモデリング手法が必要になる。たとえば、レーザースキャンが考古学で役に立つことがある。こうした作業の多くがフリーソフトウェアで代用できるかという評価は、まだ始まったばかりだが、すでに目途は立っている。米軍によって開発されたモデリング・システムBRLCADのようなツールやSystem for Automated Geoscientific AnalysesをArcheOSに含めることが提案されている。

考古学でもう1つよく問題なるのが、遺跡の発掘と調査を行うにはそれを破壊しなければならないという事実である。Voxelのグラフィック技法は、原本の考古学的記録を保存する完全な仮想モデルを作成して分析することができる。こうした作業は、GRASSとParaviewによって、またはGRASSのVoxel空間自体における3-D補間を直接使うことで可能になる。しかし、写真測量法による立体再構成については、フリーソフトウェアによるソリューションがまだ存在しない。この隙間を埋める最良の候補としては、開発中のデジタル写真測量用ワークステーションe-fotoが想定されている。

グロッセートでのワークショップ

イタリアのトスカーナ州グロッセートで5月に行われたワークショップでは、これらのすべてを含むより多くの議題が話し合われた。このワークショップはかなりの成功をおさめた。クロージング・ディスカッションは2時間も続き、それも会場のあった建物の閉館時間がきてようやく終わったほどだった。閉会にあたってASIAAのGiancarlo Macchi氏は、フリーソフトウェアが考古学にとって役立つことはほとんど誰もが確信している、と語った。多くの人々は、いくつかの既存プログラムのユーザビリティに満足しておらず、フリーソフトウェアならもっと優れたツールを構築して、考古学者によるこれまでのコンピュータの利用法に革命を起こし、厳密な定量的分析の手法を大規模なものに発展させて使えるようになることに今では気付いている。

このようにオープン考古学の前途は有望なのだが、最大の障害は、ソフトウェアよりもデータのほうにある。前述のように、完全なデータがなければ、他者の研究結果の再現および検証を行い、発展させることは不可能である。そのため、何年、何十年にもわたってデータが利用できる状態を維持しなければならない。とはいえ、独占的でなく完全に文書化されたフォーマットへの切り替えは、データの所有および(再)配布の権利はどこに帰属するのか、という問題に対する技術的な解決策でしかない。

データは、妬みや嫉妬から隠されることもあるが、多くの場合は官僚やときには法律によっても自由に利用できなくなっている。たとえば、イタリアではSuperintendence of Cultural Heritageが発表していないデータを共有すると違法になる、とArc-TeamのLuca Bezzi氏は説明する。クリエイティブ・コモンズまたはサイエンス・コモンズのライセンスの下でデータを公表すれば、状況は大幅に改善されるだろうが、それでも完全な解決策とはいえない。

こうした問題に対する答えが見つかるまでは、フリーソフトウェアや、archeocommonsのようなイニシアチブの有用性は限定されたままだろう。

来年は、ジェノバで、このグロッセート・ワークショップが再び開催される予定である。正確な日程は9月に決定されるはずであり、IOSAのStefano Costa氏がその運営を取り仕切ることになっている。10月には、国際的なArcheologie & Computer Workshopのフリーソフトウェア・セッションがウィーンで予定されている。それまでの間、こうした話題について詳しく知りたい、またはほかのFOSS賛成派の考古学者と議論したいという人は、”Foss in Archeology”メーリングリストに参加するとよい。

関連情報

このところ、オーストリア、ドイツ、イタリアを中心に、一部の考古学者やいくつかの組織がフリーソフトウェアの利用および開発を始めているほか、同業者に対してもその採用を促す動きが出てきている。1990年代の前半から『Archeologia e Calcolatori』誌の本部があるイタリアでは、情報通信技術(ICT)の利用について議論が行われている。

Arc-Teamは、考古学者向けのLinuxディストリビューションであるArcheOSのバージョン1.1.0(スクリーンショットはこちら)を最近リリースし、コミュニティからのフィードバックを積極的に受け入れている。

ドイツの研究者Benjamin Ducke氏とUniversity of Kielの彼が所属する組織では、フリーソフトウェアを正式に採用している。

ジェノバの研究グループInternet and Open Source in Archeology(IOSA)は、各国のコミュニティ向けに有益なリソースを公開したポータルを管理している。

トスカーナ州は、Riccardo Francovich教授とGiancarlo Macci博士が取りまとめているASIAA(Laboratory of Spatial Analysis and Information Technology Applied to Archeology)を援助している。無償提供されているがソースコードのない、遺跡間での考古学研究のためのユーティリティをリリースしたASIAAは、FOSSライセンスの下でリリース予定の考古学データ管理システムを現在開発中である。このソフトウェアには、PostgreSQLをベースにして拡張機能のPostGISや、GRASS、Mapserverが使われる。また、ASIAAはInternational Summer School in Archeology of the University of Sienaでもフリーソフトウェアを利用する。なお、2006年9月10~17日にサン・シルベストロの遺跡公園で開催される次回のコースにはまだ空きがある。

NewsForge.com 原文