Wikimedia議長、「Wikipedia」の路線転換を宣言──質の向上に軸足を

 フリーのオンライン百科事典「Wikipedia」プロジェクトの創設者ジミー・ウェールズ氏は8月4日、同プロジェクトの今後の方向性について、「コンテンツの質をさらに高めていく必要がある」と強調した。

 ウェールズ氏は、Wikimedia Foundationが米ボストンで開催したプロジェクト・ユーザー・コンファレンス「Wikimania 2006」(8月4〜6日)の開幕基調講演で、「われわれは質の向上のために強力な取り組みを展開していく」と宣言した。

 同財団はWikipediaなどいくつかの「Wiki」プロジェクトを進める非営利団体。ウェールズ氏はその創設者であり、理事会議長を務めている。Wikiは、Webブラウザ・ベースのユーザー・インタフェースを使ってアクセスや変更がきるWebサイトを指す。

 Wikipediaの英語版は、すでに130万近くの項目を収録するに至っており、コンテンツへのより入念なアプローチを採用する時期が来ている。「われわれは引き続き、規模の拡大よりも質に注意を払っていく」(ウェールズ氏)

 Wikipediaとウェールズ氏は、これまでWikipediaに含まれる情報の正確さを巡る批判と戦ってきた。Wikipediaは当初、誰でも自由にコンテンツを追加、編集できるように設定されていた。

 昨年、Wikipediaの問題が大きくクローズアップされた。米国のジャーナリストで政府高官の補佐官も務めたジョン・シーゲンソーラー氏が、Wikipediaに掲載されていた自身の経歴の内容に関する記事を発表したことがきっかけだ。

 その経歴の内容には多くの中傷的な内容が含まれており、同氏がジョン F.ケネディ大統領とその兄のロバート・ケネディ司法長官の暗殺に関与していたとされていた。この記述は投稿されてから4カ月にわたってほぼ変更されずにWikipediaサイトに掲載された。

 「これは重大な誤りであり、本当にひどい。われわれは迅速に訂正した」とウェールズ氏は説明する。同氏がシーゲンソーラー氏とともに12月にCNNに出演し、この事件について論じると、Wikipediaへのトラフィックは3倍近くに急増した。

 それ以来、Wikipediaには管理システムが導入された。例えば、サイトを繰り返し荒らす特定のユーザーのアクセスをシステム管理者が遮断できるようになった。

 ウェールズ氏は、現在生きている人々の経歴に関するWikipediaのポリシーは、改良が必要だと認めた。Wikipediaはまた、自身に関する記述内容に異議がある人からの苦情に対応する方法も、改善しなければならないと述べた。

 シーゲンソーラー氏の経歴説明を巡る問題が起きてまもなく、Wikipediaは英国ネイチャー誌の調査で良好な評価を得た。同調査では、伝統あるブリタニカ百科事典との間で、科学分野の同様の項目について誤りの件数が比較され、Wikipediaが平均3件、ブリタニカが平均4件だった。

 この結果について、ウェールズ氏は、「Wikipediaの記事は“ゴミ”だと言った人々に対する反論になった」と語ったうえで、「われわれは非常にラッキーだった。われわれは人文系よりも科学系に強いからだ」と付け加えた。ウェールズ氏はWikipediaの人文系の内容向上も強く望んでいるという。

 さらにウェールズ氏は、Wikipediaでは今後、質の管理への取り組みの一環として、正式な諮問機関を設置する計画だと述べた。

 「われわれの助けになる人脈、専門性、視野、名声、戦略的意見を持った多くの人を集めるつもりだ」(同氏)

 Wikimedia Foundationでは、2カ月前に加わった弁護士のブラッド・パトリック氏が総合弁護士と暫定CEOを務めている。ウェールズ氏によると、パトリック氏が先頭に立ってCEO探しを行うという。

(チャイナ・マーテンス/IDG News Service ボストン支局)

Wikimedia Foundation
http://wikimediafoundation.org/

提供:Computerworld.jp