GNOMEおよびGoogleによる女性開発者の参加奨励プロジェクト

GNOMEの主催するWomen’s Summer Outreach Program(WSOP)が現在進行中であるが、同プロジェクトには、Googleの協力により当初計画されていた2倍の定員を確保できたという裏話がある。そしてこのプログラムの成果だが、これは単に若干名の女性開発者をGNOMEプロジェクトに追加させたというだけではなく、その他のオープンソース系プロジェクトについても女性陣の参加を促す効果を及ぼしていると言ってもいいだろう。

今回のOutreach Programが実施された経緯であるが、そのきっかけは、Google Summer of Code(SoC)プログラムにおいてGNOMEプロジェクトに寄せられた181件の応募の中に女性開発者からのものが1通も含まれていなかったという6月の出来事に端を発している。GNOMEのChris BallおよびHanna Wallachの両氏は こうした状況は看過できないと判断し、GNOMEへの女性開発者の積極的参加を促すためのプロジェクトを、Google SoCの予算の一部を割いて実施することをGNOME Foundationに提案したのだ。

当初予定における女性開発者の受入枠は3名であったが、GNOME Foundationによる同プロジェクトの承認後にGoogle側が予算を倍加してくれたため、6名の女性開発者を受け入れるものと改められた。その結果、今回はCecilia Gonzalez Alvarez氏によるEvolutionコンポーネントの最適化、Clare So氏によるGtkMathView上でのMathMLの数式編集、Fernanda Foertter氏によるPDFの仮想ライブラリ作成ツールgJournalerの構築、Maria Soler Climent氏によるTomboyノートの同期化、Monia Ghobadi氏によるGNU Screenとgnomeターミナルとの統合、Umran Kamar氏のプロジェクトによるMozilla用Evinceプラグインの作成、というプロジェクトが受理された。

好意的な反応

当初の予想の中には、そもそもSoCに対する女性開発者からの応募が1件もなかったのであるから、WSOPに対する申請も閑古鳥を鳴かせるだけで終わるのではないか、というものも見られた。ところがWallach氏によると、そうした懸念は単なる杞憂に過ぎなかったとのことである。Wallach氏の説明では、プログラムへの応募者数は100件を超えており、その他にも同プログラムを支持する意見を伝える女性からの電子メールは200以上に達し、中には「まだコード開発のスキルは身につけていませんが、何らかの形でGNOMEに貢献できたらと思っています」という女性からのメッセージもあったという。

ここで疑問に感じるのは、何故に最初の募集に対する申請数はあれほどに低かったのだろうか、ということだ。その点に対するWallach氏の見解は、今回の応募者の中にはSummer of Codeプログラムの情報が伝わっていなかった人間がいて、WSOPの募集については大学やオンライン経由で他のコンピューティング関係の団体に伝わったのであろう、というものである。実際、WSOPプロジェクトに対する応募者のうちの数名は、SoCを知らなかったし、知っていればその時点で応募したであろう、と答えている。

Wallach氏が指摘するその他の障壁として、女性側の意識的な問題があるという。「当方へコンタクトをしてきた応募者の中には、かなり高度なスキルを有しているにもかかわらず、自分のコーディング技術に不安を感じているという方が多数おられました。Googleの掲げる“自分がこの仕事の一番の適任者であることを証明してください”という標語ですが、これはかえって、自分のスキルに自信のない人々に二の足を踏ませているのかもしれないですね」。また同氏は、WSOPでは指導育成も行われる点を強調したのが“非常に魅力的”な提案として女性応募者たちの一部に受け取られたとしている。

例えば応募者の1人であるSoler氏は、かねてよりSoCプログラムに関心はあったが、そちらは男性の友人の名義で共同申請したという。彼女はこれまでにもGNOMEのアプリケーションの翻訳活動に協力しており、コンピュータサイエンスの教官から助言を得て、現在はFree Software Chair of Polytechnical University of Cataloniaで働いているという。

So氏も他の多くの応募者と同様に、SoCプログラムについては耳にしたことがなく、今回のWSOPについては自分の大学を通じて、その存在を知ったという。So氏の意見では、SoCという活動を知っていれば、その時点で応募したであろうとのことだ。

これは特別優遇なのか?

このようにWSOPに対する最初の反応は総じて好意的なものであったが、その一方で、何故に女性開発者だけが“特別優遇”を受けることができるのか、女性であれば何故にオープンソース系プロジェクトへの参加が奨励されるのか、マイノリティに対してはそうした措置はないではないか、という疑問が一部から提示された。

Wallach氏は、「全人類からすれば、女性という分類はマジョリティに属す存在です。であるからこそ、私どもは最初の一歩として、最大限の効果が得られるであろう対象を選んだ訳です」と語っている。また同氏は、「マイノリティがGNOMEに参加する上で何らかの障壁があるとすれば、それも解決すべき1つの課題として扱われるべきですね」ともしている。

オンラインを舞台にした論争ではありがちなことではあるが、NewsForge.com、Slashdot、Linux Weekly Newsなどの各種サイトで交わされたWSOPに関する議論の一部に「ネガティブな扇動系のコメント」が見られた点についてWallach氏は言及し、「私どもに電子メールの形で寄せられた意見は、そのすべてが非常にポジティブなものでした」と語っている。その一方で同氏は、GNOME内部の開発者の間でも最初のうちはWSOPに対する懐疑的な意見が存在しており、充分な数の応募者が得られないのではないかという意見が見られたが、そうした懸念は速やかに払拭されたと説明している。

「多くの女性がこのプログラムに関心を持っており、プログラムの成功が誰の目にも明らかになると、当初は懐疑的であった人々も、自分たちの意見が間違いであったことを認めるようになりました。例えばWSOPに懐疑的だった開発者の1人は、自分の大学でこのプログラムを紹介するようになり、その結果、彼の学友の1人がこのプログラムに応募しています」。

その学生こそが先に紹介したSo氏であり、申請が受理された彼女は現在、MathMLの数式を表示するためのGTK用デバイスを開発している。

より多数の参加者を

当然のことだが、このような不均衡な状況はWomen’s Summer Outreach Program単独で解決される性質のものではない。今回のGNOMEの活動についてWallach氏が6月の段階で語っていたのは、「これが他のフリーソフトウェア系プロジェクトに対する先駆けになればいいと思っています。実際、参加者の間に大きな不均衡があるのは事実ですし、今回のプログラムが、女性の参加を促進できる活動の実例として受け止められればいいと考えております」ということであった。

今回のOutreach Programは、その目的を十二分に達成していると見なしていいだろう。例えばFedora WomenプロジェクトなどはWSOPに触発されている点が伺えるし、GNOME外部に対する広報活動の面でもWSOPは大きな寄与をしていると思われる。その他にも女性の参加を促す活動は、GentooUbuntuKDEなどのプロジェクトでも現在勧められている。またDebian WomenおよびLinuxChixなどのグループは、WSOPよりも数年前から活動を行っているが、今回のWSOPが世間の注目を浴びたことは、これらグループの活動にも好影響を及ぼしているようだ。Wallach氏の言を借りるならば、WSOPが「こうした問題の存在に気づかせ、人々の意識を高めた」ということになるのだろう。

WSOPの将来

現在のところ、WSOPの参加者は同プログラムに対して高い満足感を示している。例えばGhobadi氏によると、彼女の参加したプロジェクトはスムースに進行しており、指導担当者は「驚くほど役立ち、有用です」ということだ。同じくSo氏も、同プロジェクトは「とても有意義な体験」であり、WSOPの終了後もGtkMathViewに関する活動を継続してゆくつもりだとしている。

Gonzalez氏は、過去において自身がオープンソース系プロジェクトに参加しなかった理由として、必要な時間が取れなかったことだけでなく、「既存のプロジェクトに参加するだけの能力を有している自信がありませんでしたし、ましてや自分で独自のプロジェクトを推進するなんて考えもしませんでした」という点を挙げている。かく言う彼女が現在では、「そんな私をオープンソースのコミュニティに参加させてくれたのがWSOPであり、こうしたチャンスを無駄にしたくはありませんね」と語っているのだ。

こうした状況は、来年度におけるWSOPの再開催を意味しているのか、という問いに対するWallach氏の答えはノーというものであった。「私どもは今年行ったWSOPによる成果として、来年度におけるSummer of CodeプログラムでのGNOME開発プロジェクトへの女性応募者の増加が期待できると考えております。そうした予想を確実化するにあたっては、今回のWSOPで得られた教訓を生かし、例えばGNOMEコミュニティの外部にいる人々、特に自分のスキルを過小評価している方々の参加を促す形でGNOMEによるSoCプロジェクトの広報活動を展開することを計画しています」。

NewsForge.com 原文