クロアチア政府がオープンソース・ソフトウェア・ポリシーを採用

先月、クロアチア政府はオープンソース・ソフトウェア・ポリシーを採用し、政府機関におけるオープンソース・ソフトウェアの開発と使用のためのガイドラインを発行した。クロアチア政府は、プロプラエタリ・ソフトウェアではソフトウェア供給者への過度な依存をまねくと懸念している。クロアチア政府の『Open Source Software Policy』と題された文書によると、オープンソース・ソフトウェアが政府の仕事をより透明性のあるものにするという。

この文書には次のガイドラインが含まれている。

  • 政府機関はできる限りクローズドソース・ソリューションではなく、オープンソース・ソリューションを選択・開発する。
  • 政府はプロトコルとファイル形式に関するオープン規格を使用していて、クロアチアで開発された、クローズドソース・ソリューションの開発をサポートする。
  • 政府は政府機関の外部でのオープンソース・プログラムとオープン規格の使用をサポートする。
  • 政府は教育機関でのオープンソース・ソリューションの使用をサポートする。クローズドソース・ソリューションとオープンソース・ソリューションの両方を学生に対して平等に提供する。

Central State Administrative Office for e-Croatiaの副長官で、このプロジェクトのリーダーを務めるDomagoj Juricicは、この政策を政府が公表することになった理由をこう説明する。「政府の行政機関における情報テクノロジの使用が徐々に重要さを増している。今のところ我々が使用しているソフトウェアの大部分はプロプラエタリ・ソフトウェアなので、修正したり機能を補完したりすることも、異なるベンダのソフトウェアをリンクすることもできない。こうしたソフトウェア製品は厳格な使用条件を設けており、我々の可能性が制限される。そのため、政府の行政機関がソフトウェア供給者に対して従属的な立場に置かれる可能性がある。そうなると、情報システムがクローズドなものになり、結果的に我々の電子行政プロジェクトの成功と能率がより困難になる」

Juricicは次のように力説する。「これは政策文書である。つまり、クロアチア政府はマーケット・オルタナティブの重要性を認識し、良質な電子社会の構築に資するプラットフォームやツールやその他のソリューションに注目しているということだ。他の政策的または経済的な例と同様、市場で起きていることで、国内のICT市場を構築するという観点から興味深い問題に対し、我がクロアチア政府は意見を持つべきだ。クロアチア政府はどのプラットフォームも差別したことはないが、そのことを政治的声明として打ち出したことはなかった。この政策でそれを明確にしたのだ。これは我々がオープンソース・ソフトウェアの使用について言及した最初の公文書であり、行政機関への一種の勧告である。この政策は何かを取り替えようとするものではなく、物事を平等に扱おうとするものである」

EUに刺激を受ける

クロアチアのガイドラインは、同じ考え方に基づく欧州連合の動きに刺激を受けたものだ。European Commission Action Plan 2000は欧州情報社会の開発の一群の目標をすでに設定していた。その中で、公共セクタにおけるオープンソース・ソフトウェアの使用をシミュレートすること、そして電子行政を開発することが、2つの主要な目標であった。Juricicは次のようにいう。「『A European Information Society for growth and employment』と題された新しいEU i2010プログラムにとって、プロプラエタリ・ソフトウェアの供給者への依存は最も重大な障害だと見られてきた。同じ障害が、情報通信セクタにおいて市場競争を停滞させる原因として指摘されている。そういうわけで、オープンソース・ソフトウェアとオープン規格をEUの情報通信市場に組み込まなければならないことが明らかになった」

クロアチアは2003年に欧州連合への加盟申請を行い、欧州理事会は2004年にクロアチアを加盟候補国として認めた。このことが、クロアチアが情報社会に関する欧州のガイドラインに倣おうとする理由の1つになっているかもしれない。2003年の終わりごろ、クロアチアの政府はEUの勧告に従ってeCroatia 2007プログラムを採用した。このプログラムの主要な目標は、同国の国民と企業にタイムリーな情報提供することと、透明で効率的なサービスになることである。「この課題を達成するためには、さまざまな管理分野でコンピュータ・システムの相互運用を可能にするオープン規格とオープンソース・ソフトウェアを使う必要がある」とJuricicはいう。

相互運用性、透明性、金

「国の行政機関は大量の電子文書を作成し交換している」とJuricicはいう。「プロプラエタリ・ソフトウェアのライセンスが期限切れになったり、ベンダが古いタイプの文書のサポートを占有できたりするため、ある期間が経過すると文書を読みやすい形式で開いて表示することができないという重大な危険がある。だから、国の行政機関には電子文書の作成にオープン規格を使ってもらわなければならない」

クロアチア政府の行政改革における重要な要素の1つが透明性である。「国民にはコンピュータ・ソフトウェアも含めて、国の行政機関の運営を全面的に見通せる権利がある。プロプラエタリ・ソフトウェアで国民にサービスを提供していると、政府の透明性を減じることになる」

金銭面についても、Juricicは次のようにいう。「少数のプロプラエタリ・ソフトウェア・ベンダへの依存により、国内の情報通信サービス市場での競争が停滞する一方、行政機関は十分な資金を持っていないことが多い。そのため、我々は公共情報サービスの調達に対してオープンで自由な使用という原則を義務づけるのだ。そうすれば、行政機関はオープンソース・ソフトウェアとオープン規格に向かうだろう。オープンソース・ソフトウェアを使用すれば、国家予算の配分がより合理的になる。なぜなら、システムの開発と保守と使用に国内の供給者と製造者がもっと活発に関われる環境が生まれるからだ。そうなれば、国民にサービスを提供するためのトータル・コストも下がり、税金を経済的に活用できる」

これらのガイドラインは現在の状況と際立った対照をなしている。国の行政機関におけるソフトウェアの調達と使用に関して明確なガイドラインがないため、それぞれの機関のIT専門家が、自分たちの要件に最適だと銘々が判断したソフトウェアを入手している。それはプロプラエタリ・ソフトウェアであることが多いので、ソフトウェアの修正が難しいか不可能になっている。一般に行政機関は現行の取引関係のために同じソフトウェアを使い続ける。

新しいガイドラインにより、クロアチア政府は他のソフトウェアとの接続や異なるシステム間でのデータ交換が不可能なソフトウェアの使用を極力避けるだろう。すでに稼動しているプロプラエタリ・ソフトウェアのせいでそれが不可能なら、「その後のアップグレードと修正はすべてオープンソース・ソフトウェアとオープン規格に基づいて行わなければならない」とJuricicはいう。

クロアチアLinuxユーザ・グループ(Hrvatska Udruga Linux Korisnika)の会長を務めるVlatko Kosturjakは、このガイドラインを次のように評している。「クロアチアにおけるオープンソース・ソフトウェアとオープン規格の速やかな採用にとってかなり良いスタートだ。これまでは政府のIT機関がオープンソース・ソフトウェアを使おうとしたら、自らリスクをとらなければならなかった。新しいオープンソース・ソフトウェア・ポリシーによって、保守的なIT部門でさえ安心してオープンソース・ソフトウェアを実装できるようになるだろう」

クロアチア政府が独自のソフトウェアを開発する場合、できるかぎりオープン規格に基づいたソフトウェアを作成しようとするだろう。また、オープンソース・ソフトウェアの開発とオープン規格に基づいたプロプラエタリ・ソフトウェアの開発を奨励するだろう。公共セクタ、経済、公共サービスといった、行政機関外でのオープンソース・ソフトウェアとオープン規格の使用も奨励するだろう。さらに、オープンソース・ソフトウェアのクロアチア語化も奨励するだろう。

クロアチア政府はオープンソース・ソフトウェアとオープン規格の分野に携わる役人を教育するための教材の開発も奨励するだろう。オープンソース・ソフトウェアの知識を教育プログラムに融合させることも奨励するだろう。若い世代の人々が自主的に意思決定できるように、オープンソース・ソフトウェアとプロプラエタリ・ソフトウェアが平等に提供されるだろう。

これからのこと

この政策が実際にどんな結果をもたらすか、まだ不透明だ。「まだ答の出ていない疑問が数多く存在する」とJuricicは認める。「この政策が実際に何をもたらすか、いずれわかるだろう。さしあたり、安全で相互運用可能で費用効果的なすべてのソリューションに対して、我々がまったくオープンだと表明することが大切だ。我々の次のステップは、使用するICT規格のリストを作ることだ」

Kosturjakは、この政策で多幸感を抱かないよう警告する。「クロアチアのオープンソース・コミュニティはオープンソース・ソフトウェア・ポリシーにとても肯定的だが、次のステップ、つまり政策の実施段階で、クロアチア政府は深刻な事態を迎えるだろう。これは容易なことではない。明らかな実践的問題が存在するからだ。たとえば、大部分の政府機関のITシステムには、プロプラエタリ・テクノロジとプロプラエタリ・ファイル形式が実装されている。オープン規格とオープンソース・ソフトウェアへの移行は、技術的に困難で骨の折れる仕事になる可能性がある。非技術的な面でいえば、これは政治的・財政的な問題でもある。我々(オープンソース支持者)はクロアチア政府がオープンソース・ポリシーを本当に実施するだけの力を持っていることを期待する。それまで、この政策は未送付の手紙のようなものだ」

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