Red Hat幹部がハッカー文化の重要性をあらためて強調──重要なのは金融資本ではなく知的資本

 米Red Hatのオープンソース業務担当バイスプレジデント、マイケル・ティーマン氏は、多くの企業が開発者にお金を払ってオープンソース製品の開発作業を進めているという現状を認める一方で、オープンソース・ソフトウェアの開発にボランティアで参加するハッカーたちが依然としてきわめて重要な役割を担っていると強調する。

 オープンソースの普及促進を目的に設立された非営利団体オープンソース・イニシアティブ(OSI)の会長であり理事会のメンバーでもある同氏は、先ごろインドを訪問し、「知的財産保護法が技術革新と進歩に及ぼす影響」をテーマにしたシンポジウムで講演を行った。IDG News Serviceは、デリーに滞在中の同氏に電話でインタビューし、オープンソース運動にかかわるさまざまな問題について話を聞いた。以下に、インタビューの要約を紹介する。

資本が流れ込んでも オープンソースは堕落しない

──企業がオープンソース製品の開発に関与し、その優先順位を高めた結果、ハッカー文化がオープンソース開発コミュニティから消えつつあるという認識も広がっているが。

 ハッカー・コミュニティは、これまでオープンソースの世界で常に裏方としての役割を担ってきた。だからといって、彼らが重要でなかったわけではなく、ましてや将来重要でなくなることもない。彼らは、今も地道で重要な役割を担っている。

 同時に、営利企業のコミュニティが、ハッカーから大きな利益を得ていた事実も知る必要がある。あるハッカーが特定のプロトコルに大きなセキュリティ上の弱点があると指摘した場合、営利企業のコミュニティは、その指摘に注意を払うことでメリットを得ることができる。逆に、そのハッカーの指摘を隠蔽したり、無視したりすると、多くの人々が危険にさらされることになる。

──IBMなどの大手企業が自社の従業員にオープンソース製品を開発させるようになるなど、様変わりするオープンソース環境において、ハッカーの役割を維持するために、OSIにできることは何か。

 IBMがオープンソース開発を担当する大きなチームを持っているという事実は、素晴らしいことだが、IBMのために開発作業を行っている人々の多くはハッカーだ。彼らは、たまたまIBMから給与支払いを受けているにすぎない。もちろん、同様に給料を受け取っている昔気質の開発者もいるわけだが、こうしたことが悪いとは思わない。

 資本が流れ込んでもオープンソースが堕落しないのは、資本がオープンソースとはほとんど無関係だからだと思う。鉄道などの産業に目を向けてみると、最初に膨大な資本を投入して線路や列車、駅などを造らなければ、利益を得ることができないが、ソフトウェアの場合は、(大きな資本を投入しなくても)収益を一挙に増大させることができる。ソフトウェア事業にとって重要なのは、金融資本ではなく、知的資本なのだ。

 知的資本の観点からオープンソース開発を見てみると、この世界の潜在的な可能性について特別な優位性を持つ企業など存在しない。IBMなどの企業が行った投資(知的資本への)は、バケツに水を一滴垂らしたようなものでしかない。オープンソースが堕落しておらず、今後も堕落する可能性がないと思われるのはこのためだ。

枝分かれする自由は 民主的なプロセスのたまもの

──大きな商業上の利益がオープンソースで得られるようになったとしたら、参入障壁ができたり、コミュニティが枝分かれしたりする危険が生じることにはならないか。

 問題は2つある。オープンソースとフリーソフトウェアが掲げる大目標の1つは、いかなる障壁があろうとも、個々の開発者が開発作業に寄与したり、ソフトウェアを改良したりする可能性を押しとどめるようなことがないようにすることだ。

 私は、オープンソースに対してこのような姿勢で臨んでおり、GPL(GNU general public license)バージョン2とGPLバージョン3は、まさにこの種の保護機能を提供していると信じている。

 コミュニティの枝分かれという問題についてだが、例えば、開発者Aが、開発者Bを信頼することができなくなり、独自の道を行くと言い出した場合、枝分かれは、自由であり、堅固な民主主義を保証するための手段ということになる。

 枝分かれする自由は、民主的プロセスによって保証されると言うことができるだろう。オープンソースの世界では、ライセンスの選択やコードの選択が枝分かれしているかどうかにかかわらず、だれもがプロジェクトへの参加方法を自由に選ぶことができる。こうした自由は失うべきではない。

──FSFが推進するGPLの新バージョンであるGPLバージョン3についての見解を聞きたい。

 Red HatはGPL審議委員会に参加しており、コミュニティ委員会と法務委員会の両方に代表を出している。当社は、FSFが前進させたプロセスを検討しており、FSFも両方の委員会でわれわれが提案したコメントの内容を熟知していると思う。

 OSIの会長としては、GPLに関するオープンソース・コミュニティの議論に注目しており、OSD(Open Source Definition)の基準に適合するオープンソース・ライセンスとしてGPLバージョン3を導入すべきかどうか情報収集に努めている。

 OSIの会長でも、Red Hatのオープンソース業務担当副社長でもなく、オープンソース・コミュニティの一員という立場で個人的な意見を言わせてもらえば、GPL 3が広く普及すれば良いと思っている。私は、ソフトウェアの将来における自由の重要性を人々が認識するべきだと考えており、GPLバージョン3がコミュニティから公正に評価されるかどうか個人的にも関心を持って見ている。

──GPLバージョン3を巡る論争は、FSFとオープンソース・コミュニティの間にあるソフトウェアについての見解の相違を反映している。オープンソース・コミュニティ側は、自分たちのモデルについて説明する際に、効率性や経済的なソフトウェアという面を強調するのに対し、FSFはソフトウェア開発の自由を強調しているように見えるが。

 両方の世界で生きることは可能だと思う。2つの世界のいずれか一方だけに関心を持つ人々がいることも事実だが、両方の世界は共存することができる。人々は、自由について考えることができると同時に、商業化についても考えることができる。したがって、一方の側を選び、もう一方の側を間違いだと非難するようなことはしたくない。

──この問題に対するRed Hatの立場はどのようなものか。

 Red Hatは会社として、一方の側が正しいとか、一方の側が良くないとか言えるような立場にない。当社はオープンソース開発モデルがソフトウェア開発の優れた手法であり、21世紀の経済を牽引する原動力を生み出すという信念を持っている。またわれわれは、他の人々が模範にできるようなオープンソース・ビジネス・モデルの実例を提示するための努力を常に行っている。

(ジョン・リベイロ/IDG News Service バンガロール支局)

提供:Computerworld.jp