OSSを広めんと欲すれば、まずやって見せよ

先だって、同僚を相手に効果的なインターネット検索をテーマとする研修を行った。参加者は25名ほどで、そのほとんどが文系の学位を持っている。そんな彼らの反応は驚くほど肯定的で、Firefoxを奨めるのが研修の目的ではないにもかかわらず、今では、Internet ExplorerではなくFirefoxの使用に執心するようになってしまった。何人もが、友人や家族にあげたいと研修資料を欲しがったほどだ。研修のテーマはオンライン検索の生産性を上げることだったので、我が同僚たちがFirefoxの使い勝手をいたく気に入り周囲に広めようとするほどになったのは嬉しい驚きだった。この事例から汲み取れるOSS推奨活動における教訓は――

研修の参加者は、私と同様、試験問題制作者だ。あらゆるレベルの教育機関や民間向けに試験問題を作っている。問題の制作で難しいのは題材の選定で、適切な題材が見つかれば仕事の大半が終わったようなものだ。取り扱う題材は多様。ノンフィクション、小説、詩歌、アート、漫画、図表など、基本的に、受験者の年齢と試験のレベルに見合う限り何でもござれ。そうした題材を探す際の主な手段はオンライン検索だ。見つけた題材に関する著作権については、使用許諾担当部門が調査する。我が同僚たちは聡明で、経験豊富で、学歴の高い人たちだが、例外が2つある。ITと、OSSにまつわる政治的技術的な問題には関心がないのだ。コンピューターはツールであって、それ以上でも以下でもなく、ITそれ自体には何の面白みも見いださない。

そんな彼らが私の研修にこれほどまでに肯定的な反応を示したのは、彼らに身近な例だけを使って説明したからである。最初にタブ・ブラウジングを使って見せた。たとえば、漫画に関する質問を作る必要があるとしよう。探し出した漫画の90%以上は、さまざまな理由から試験問題には使えない。したがって、これまではIEを使ってこんな風に題材を探していた。まず、縮小画像が並んだ索引ページを開く。次に、縮小画像のいずれかを開き検討し検索ページに戻る。次の縮小画像を開き検討し……という具合。時間がかかりウンザリするほど非効率的だ。すべての縮小画像を一度に開けばウィンドウが散乱して手に負えなくなるし、大量のブックマークはIEでは不可能だ。ところが、Firefoxを使えば、手順は次のように変わる。まず、検索ページ(漫画一覧のほか、地図一覧、図表一覧、Google結果などでも同じ)を開く。次に、見込みのありそうな縮小画像をバックグラウンドのタブに開く。フォーカスは索引ページのままなので、次々に開いていくことができる。こうして、40ほどの縮小画像をバックグラウンドのタブに開く。そうしておいて、タブをクリックし、明らかに不適切なものを閉じていくのである。

根本的に技術には無関心な彼らにとって、これは驚異的な新知識だった。しかし、タブの何たるかやその仕組みを説明しても、彼らの関心を引くことはできなかっただろう。私は、彼らの仕事に直結した例を使ってタブの何たるかを示した。それが彼らを動かしたのだ。見つけた題材の90%は使えない。しかし、一度に40項目を見るなら、その中にはほぼ確実に適切な題材があることを指摘した。すべての題材(タブ)を一括してブックマークしておけば何か月経ってもマウスを1回クリックするだけでそのすべてを復元可能。それが彼らの仕事に直接的に役立つことを見せたのだ。

もう一つ、彼らの耳目を引きつけた機能がある。エクステンションだ。技術に関心のない利用者に数あるエクステンションを並べたてても尻込みさせるだけ。私は、一見して便利なことがわかるものだけを選び、実際に使って見せた。具体的には、DownloadThemAll、CustomizeGoogle、ScrapBookと幾つか。エクステンションの説明でも、具体的な例を使った。たとえば、Google Booksで面白い題材を見つけたとしよう。そこで、そのページとタイトルページを保存し、問題を作り、保存したページのコピーを使用許諾担当部門に送り著作権者から許諾を得ようと(つまり、使用料を支払おう)考える。しかし、Googleはページ保存機能を抑止しているため、これは実際には不可能、この場合Google Booksは役に立たない。だが、私は、検索結果から20~30冊(そのほとんどは、実際に入手して質問を作ろうとした段階で不適切であることが判明する)をまとめてタブに開き、CustomizeGoogleを使って見せる。このエクステンションを使えば、右クリックでページを保存する機能が復活するのだ。これも、試験問題制作者にとって直ぐにも使える例である。

この事例からOSS推薦活動の教訓を汲み取ることができる――ソフトウェアをツールとして見る人々を相手にツールの優秀さをまくし立てても聞いてはくれない。そうではなく、聞き手が何とかしたいと思っている問題を例にしてツールの有用性を具体的に示すのだ。つまり、話したい技術にではなく、聞き手の仕事に焦点を当てること。そうすれば、プラットフォームやソフトウェアパッケージを変えることなど些細な問題になる。肝心なのは仕事であってツールではないのである。

ITに関心のある人は、新機能を見ればその可能性を直ぐに見通す。しかし、ITに関心のない人は違う。タブの機能を単に説明するだけでは不十分、タブの使い方を具体的に示す必要があるのだ。

話し相手がコンピューターを何に使っているかを調べ、それに役立つ例を示すこと。厄介だが、それだけの価値はある。ツールでできることを只聞かされるのでなく、どのように使うかを示されると、その優れたツールを熱心に使うようになるものなのである。

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