ApacheCon 2006:オープニング講演などの報告

10月11日の朝、テキサス州オースティンでApacheCon US 2006の一般セッションが2日間のチュートリアルに続いて始まった。Apache Software Foundation(ASF)の社長、Sander Striker氏による「State of the Feather」と題されたオープニング講演のほか、ハッカーたちにはお馴染みの作家で天文学者、学校ではボランティアで理科を教えているというCliff Stoll氏の基調講演が行われ、光の速度の計測を中等教育課程の理科の授業でどのように教えているかといった内容が紹介された。

ApacheConの規模はLinuxWorldやBlackHatのような商業カンファレンスに比べると小さく、HALO WorldwideのSally Khudairi氏によれば今回の参加者は500人足らずだという。その中にはApacheのハッカーやユーザのほか、世界的に高いシェアを持つこのHTTPサーバ周りの環境に携わる人々もいる。この控えめな規模は、過去数年間に私が参加してきた商業色のより強い展示会とは違って、コミュニティの意識が非常に高いことの現れかもしれない。

もちろん、営利企業もスポンサーや出展者として、また各種オープンソースプロジェクトのユーザや関係者として参加している。今朝のオープニング講演前には、Google、Sun、Covalent、SimulaLabsといった企業のスタッフが展示エリア内の各ブースに入っていた。NovellとIBMも参加しているはずだが、両社のブースは見当たらなかった。

早速Sunのブースに行き、Dave Johnson氏にJavaをいつオープンソース化するのかと尋ねたところ、「もうすぐだ」との即答があった。もっと詳しい情報を得るために最善を尽くしたが、彼の口は固かった。ただし、SunとApacheとの会合が公開で行われるという発表は聞いているので、本当にJavaのオープンソース化は意外と早く実現するのかもしれない。

「State of the Feather」講演のためにStriker氏が演壇に向かう時間になっても、ホールにやってくる参加者の姿はまばらだった。彼の講演では、プロジェクトの昇格によってASFのTLP(トップレベル・プロジェクト)の数が37になったことや、Apache Incubatorに参加していた人々をASFに受け入れたことなど、ASF内部の昨年の主な出来事が詳しく紹介された。

なお、TLPに昇格したプロジェクトにはTapestry、JackrabbitHivemindが含まれている。

Cliff Stoll氏の講演

Stoll氏の基調講演が始まると会場は湧いたが、そこで彼は少し時間をとってなぜ自分にApacheから講演依頼が来たのかについて思いを巡らせていた。自身の著書『 Silicon Snake Oil (邦題:インターネットはからっぽの洞窟)』や『 High Tech Heretic (邦題:コンピュータが子供たちをダメにする)』で記しているように、彼は世間で言う大のインターネット好きでもコンピュータ愛好家でもない。きっと雰囲気的に似たところがあるに違いないのだが、Stoll氏の講演は、今年6月のRed Hat SummitでOLPC(One Laptop Per Child)プロジェクトについて語ったNicholas Negroponte氏の講演を彷彿とさせた。

Stoll氏はまさしく教師にふさわしい人物なのだが、それでいて積極的な実践主義者でもある。会場内を絶えず歩き回る彼の姿は、まるで教室の隅に追いやられた型破りなギークを探し求めているようであり、自分が得意とする領域の表舞台に立つべきだということを彼らにわからせ、行動を起こすようにせき立てているように思えた。

Stoll氏の基調講演は、このところ私が見てきたどの講演よりも動きの激しいものだった。Stoll氏はじっとしていられない熱血漢で、あちこちで飛び跳ね、演壇を上り下りし、部屋の前にあるスクリーンを背にして置かれた2つのプロジェクタ用画面の1つの前に椅子を移動させてレーザポインタの代わりに自分の指で画面を指せるようにしたかと思うと、また部屋の中を歩き始めるというありさまだった。

やがて彼はブローガン(吹矢)と猿のぬいぐるみを持ち出してきて、筒から「矢」を飛ばすと同時に20フィート離れた場所につり下げられた猿のぬいぐるみを落とし、それでも何とかぬいぐるみに矢を当てるという物理の実験を始めた。水平速度と垂直方向の加速度に関する実験だったようだが、私の専門は英語なのでこれ以上の質問はご遠慮いただきたい。それにしても楽しい実験だった。

だが、これはウォーミングアップに過ぎなかった。続いてStoll氏は、自分が生活している学校で中等教育課程の理科をどのように教えているかの説明に移った。この理科の授業を引き受ける際に彼が提示した条件は、自分が教えたいことを好きな方法で教えられること、子供たちに教えたいテーマとして光の速度の計測方法を取り上げること、の2点だったという。

この取り組みのデモンストレーションでは、光のパルスを発するレーザを使って、鏡で操作することによって長いものと短いものの2通りの経路で光が送られる。また、それぞれの光路に対応した2系統の入力を持つオシロスコープも用意された。準備が整って実験が始まってみると、オシロスコープに表示された正弦波の隣り合う山どうしの距離の計測と、オシロスコープの水平軸で時間を計測するという説明が行われただけの簡単なものだった。こうして両方の光路の距離と、それぞれの経路を進むのに要した時間の差がわかり、光の速度が容易に求められたというわけだ。

この講演を聴いたのは正解だった。おかげで学校のコンピュータについてのStoll氏の不満も、彼の提案内容には改善の余地があることもわかった。Stoll氏の主張は、生徒たちが学校のコンピュータを学習目的ではなく主にゲームに使っていることは問題であり、それらを教員に公開すれば問題は緩和されるというものだった。すべての教員に彼ほどの才能があれば、彼の主張に全面的に賛同するところだが、この教員の優秀さについては、生徒が遊びにしかコンピュータを使わないという主張と同様に疑問が残る。

オープンソースのビジネス

Stoll氏の基調講演に続いて、Khudairi氏が司会を務めるパネルセッションが行われた。パネリストはSimula LabsのCEO(最高経営責任者)であるWinston Damarillo氏、E*Trade FinancialのチーフテクノロジストLee Thompson氏、AccentureのThomas Van De Velde氏という顔ぶれだった。

まずKhudairi氏は、各パネリストが自らのオープンソース歴と入社後の活用方法を述べるための場を設けた後、彼らにいくつかの質問を投げかけて議論を行うと、今度は聴講者からの質問を受けて同じように議論を進めた。

なかでもThompson氏が語ったデータセンタのOSをSunのものからRedHat Enterprise Linuxに移行したという話が印象深かった。オープンソース製品への移行としては規模の大きさと話題性だけでなく、その成功の度合いも非常に高かったと彼は話している。コストの削減という点に加え、パフォーマンスと品質においても成功を収めたという。

また、オープンソース製品の販売で利益を上げるのは非オープンソース製品の場合より難しい、というDamarillo氏の見解も納得のいくものだった。この見解は、オープンソースの価値が容易に利益を出せる点ではなくてその活用によって何であれ売り上げを増やせる点にあることを強調している、というのが私の考えだ。

Brian Behlendorf氏の発表:「オープンソースを企業に持ち込む」

Brian Behlendorf氏はApacheおよびオープンソースコミュニティに当初から参加していた人物である。午前中に行われた「オープンソースのソフトウェア開発プロセスと原理を企業に持ち込む」という彼の発表に集まった人々は多くはなかったが、会場にはASFの現社長のStriker氏やApacheの中心を担うチームのメンバーの姿があった。

このテーマは、Behlendorf氏がずっと心を砕いてきたものである。というのも、彼が1999年に創立して現在CTO(最高技術責任者)の職にあるCollabnetがまさにその通りのことを行っているからだ。

従来のソフトウェア開発の方法論がたどった経緯に対してBehlendorf氏は苦言を呈した。プロのソフトウェア開発者なら、ガントチャートをすべて揃えて毎日メンバー全員に進捗の入力を求めるプロジェクト管理の適用を、プロジェクトそのものよりも重視するようなプロジェクト管理スタイルの弊害に心当たりがあるだろう。Behlendorf氏は今日行われている従来型のソフトウェア開発の状況を示すために、故障率が75%というBurton Groupから得られた恐ろしいデータを紹介していた。

また彼はオープンソースのソフトウェア開発を社会主義に見立てたポスターを見せ、オープンソースの考え方を企業に持ち込むにあたって今なお生じている真の問題についても言及していた。

非オープンソースとオープンソースの開発の大きな違いは透明性にある、とBehlendorf氏は述べている。このことはコードだけでなく、設計上の意思決定にもあてはまる。やがて透明性の重視は、プロジェクトの新しいユーザからパッチ提供者に至るまで、プロジェクトへの参画を大いに促進することになる。コードのフォークによってオープンソース版を用意するという要求は不安材料として見られることが多いようだが、こうしたフォークの実施によって、リーダの意見をメンバー全員に押しつける形から、妥協点を見い出して合意を形成しようとする形へと、プロジェクト管理スタイルの変更を強いられることは確かだろう。

その他の所見と明日以降の予定

これまで生きてきて今日ほどAppleのノートPCをたくさん見た日はなかった。どこにいってもAppleのノートPCが目に入ったのだ。もう1つ、素晴しいことに、今日は一度もWeb 2.0の話を聞いたり、その表記を目にすることがなかった。ApacheConは金曜日まで続くが、今日の内容から判断すると、基調講演や各発表、BOF(Birds Of a Feather)セッション、そしてパーティーと内容盛りだくさんの明日以降も期待が持てそうだ。

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