ApacheCon 2006訪問記

テキサス州オースティンで1週間にわたって開催されていたApacheCon 2006が13日に閉幕した。このイベントは、フリーなオープンソース・ソフトウェアの世界で光り輝いているスターはLinuxだけではないということを示すものだった。

ApacheConで丸3日にわたって開かれたセッションの大半は技術的なものだった。私はサーバの専門ではないため、それらのセッションには参加せず、ビジネスやライセンスに関する講演を聞いた。

私が参加しなかった中で最も評価が高かったのは、アズベリー大学(Asbury College)のRich Bowen氏による一連のプレゼンテーションだった。Apache Webサーバの20の隠れ技などについての話だ。私が耳にした限りでは、このプレゼンテーションに対する推奨や賞賛の声が一番多かった。また、Patrick Ball氏が12日に行った基調講演も素晴らしかったとのことだ。Ball氏は、BenetechのHuman Rights ProgramのCTO兼ディレクタである。

企業でのオープンソースの導入

Simula LabsのCEOであるWinston Damarillo氏が12日に行ったセッションは、企業ITにオープンソース・ソフトウェアを導入するときの姿勢についての話だった。これは、オープンソースの導入を考えているITの購買担当者を主な対象としたもので、Simula Labsなどでオープンソース・ソリューションを販売した経験が土台となっていた。

Damarillo氏がきっぱりと言ったのは、「現在では、オープンソースを販売することに対して申し訳なく思う必要はない」ということだった。そして、今日のITの購買担当者は、オープンソースを受け入れるかどうかではなく、それをどのように行うかを判断する段階に来ている、という点を強調していた。その証拠に、Simula Labsでは、年初から現時点までの新規顧客数が40に上るという。また、オープンソース・ソリューションが選ばれているのは、TCOの削減という理由からだけではないと語り、「次世代のイノベーションは、きっとオープンソースから生まれます」と述べていた。

Damarillo氏の話の中で、特に重要なポイントの1つだと思ったのは、プロジェクトの「バス・ファクター」を評価するという考え方である。開発リーダーやメンテナンスのリーダーがもしバスにひかれたとしたら、プロジェクトがどれだけうまくやっていけるか、ということだ。これは、Linuxコミュニティにおいて、Linus Torvalds氏に関して、数年前から取りざたされていることである。

Schlock Mercenary

13日の基調講演に立ったのは、漫画家のHoward Tayler氏だ。Schlock Mercenaryという連載漫画とそのWebサイトの作者である。Tayler氏の話は、漫画家として食べていく方法についての体験談だった。

Tayler氏は、数年前まではNovellに勤務し、約10万ドルの年収を稼いでいた。だが、漫画家になるという夢を追うために、その職を捨てた。最初は、数々の新聞に連載漫画が掲載されるような漫画家になりたいと考えていた。しかし後に、漫画業界についての厳しい現実を知って、その考えは消えた。厳しい現実とは、たとえば、新聞の漫画家は生計を立てられるほど稼げない、ということだった。

だが、あわせてわかったのは、この10年ほどの間に、Web上の漫画が次々と誕生し、漫画家が生計を立てていけるほどうまくいっているものがいくつもあるということだった。Tayler氏は、その代表例としてPenny Arcadeの名を挙げ、作成した本人たちにとって「理想的な仕事」だと評した。ネットで漫画をやる方が新聞の漫画より稼ぎやすい理由は、新聞の場合、漫画の配給会社に総収入の約半分を持っていかれるため、漫画家の分け前があまり残らないからだそうだ。

Tayler氏は次に、自身のWebサイトからどのように稼ぎを上げているかについて話した。Tayler氏は、Googleの広告で月に1,500ドルほど稼いでいるが、最も有望なのは本の売り上げだという。と言っても、通常の出版社から出している本ではない。

Tayler氏はこう説明してくれた。たとえば、希望小売価格が10ドルの本の場合、出版社でその製作にかかるコストは1ドルである。出版社は取次業社に本を売り、製作コストに加えて、1冊あたり1~2ドルの分け前を得る。取次業社は、定価10ドルの本を書店に6ドルほどで卸す。ただし、米国の場合、書店は必ずしも定価で売るとは限らない。

Tayler氏は、中国の印刷業社を使って、『Schlock Mercenary: Under New Management』という本を自主製作した。そして、この本の予約分で、30日足らずで2万2千ドルの利益を上げた。注目に値するのは、この本はWebに掲載された漫画を使用したもので、Web上で漫画を読むぶんにはお金はかからないということだ。

氏は最後に、聴衆に感謝の言葉を述べ、もしApacheがなかったら、こんな夢の生活を送っていることはなかったと語った。

まとめ

ApacheConへの参加は今回が初めてだった。その機会が得られたことをうれしく思っている。私にとって収穫だったのは、GPL以外にもライセンスはいろいろあるとわかったことだ。フリー・ソフトウェア開発者に人気があるのは明らかにGPLだが、他のライセンスを利用することで、フリーのオープンソース・ソフトウェアが企業で広く利用される可能性が膨らむ。また、フリーのオープンソース・プロジェクトを統制する方法として、Linuxのやり方以外でうまくいっているモデルをいくつか知ることができたのも収穫だった。Apacheは当初から、委員会によって統制され、実力主義と人気が組み合わされている。封建的なコミュニティではなく、民主的なコミュニティである。

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