FOSSコミュニティの構築と統率

コミュニティの構築は、フリー・オープンソース・ソフトウェア(FOSS)プロジェクトにおいて根底となる部分である。だが、商用プロジェクトだったものをベースにFOSSコミュニティを構築するというFedoraやopenSUSEの取り組みや、広く受け入れられているディストリビューションの発展を取り仕切るというUbuntuの取り組みでは、他のプロジェクトとは異なる難しい面があった。これらのプロジェクトでは、コミュニティをいかに確立するか、プログラマ以外の人たちの参加をいかに促すか、コミュニティでどんな価値をはぐくんでいくか、といった問題に答えを出すべく、コミュニティ・リーダーたちが奮闘している。そんなリーダーたちの話を聞いてみることにしよう。FOSS内にコミュニティを構築しようとしている他の人たちにとっても参考になるはずだ。

「最も大きなレベルで言えば、Linuxやオープンソースに関与したいと考えている人すべてが、コミュニティのメンバです」。そう語るのは、Fedora Boardの議長であるMax Spevack氏だ。その言葉は、多数のFOSSプロジェクト間の相互作用を是認するものだ。だが、Spevack氏も実際上は、Ubuntuのコミュニティ・マネージャのJono Bacon氏やopenSUSEのエバンジェリストのMartin Lasarsch氏と同じように、ディストリビューションに日常的に関与している人を主な対象としてとらえることが多い。Lasarsch氏が「受動的なコミュニティ・メンバ」と呼ぶ人たち、つまり、ディストリビューションを使用しているが貢献はしていない人たちについても、各リーダーはある程度気にかけている。だが、現実的な理由から、主な意識は、コーディング、テスト、ドキュメンテーション作成、プロモーションなどに携わっている人に対して向くことになる。

言うまでもないが、かねてからずっと、FOSSプロジェクトのメンバは開発者だった。現在でも、FOSSプロジェクトのリーダーは開発者が務めることが多い。その理由について、Spevack氏は次のように語る。「我々が行っているのは技術的な取り組みであるため、自分たちの考えを主張するという意味では、技術面が最も普遍的です。それに、最終的に一番の力仕事に携わることになるのは開発者です」。そのため、通常のユーザよりもコーディングを行うユーザの方が、コミュニティの中で自分に適した役割や居場所を見つけやすいのである。「難しいのは、自らの持つスキルはお構いなしに貢献しようとする人たちの受け入れにどう対処するかという点です」。

Ubuntuの場合、コーディングを行わない人たちの参加を促すうえでBacon氏が特に重要なステップだと考えているのは、チーム(ディストリビューション内の認められたグループ)を重視することである。Ubuntuのチームの中には、プロジェクト公認のものもあれば即席のものもあるが、それぞれを織り交ぜて、多種多様なわかりやすい場を新参者に提供できている。

共通の価値をはぐくむ

Fedora、openSUSE、Ubuntuは、大半のFOSSプロジェクトと同様、実力主義のプロジェクトだと自認しており、各メンバのステータスは貢献や関与の度合いに応じて決まる。だが、その前提をふまえたうえで何に価値を置くかは、3つのプロジェクトでそれぞれ異なっており、成長を続ける中でもそうした固有の価値を維持していきたいと考えている。

FedoraとopenSUSEにとっては、コミュニティ構築の第1歩は、母体となったコミュニティから自立することだった。Lasarsch氏にとっては、自立を押し進めるとは、完全なオープンソースとしてのopenSUSEを確立することだった。Lasarsch氏はこう語る。「SUSEはずっとオープンソース・ソフトウェア企業でしたが、一部に制約がありました。我々はその制約を取り払いました。そして、可能な限りオープンになることを目指しています」。Lasarsch氏によると、唯一の例外は「RealPlayerやAcrobat Readerのようなソフトウェア」だという。「SUSEはずっと初心者向けディストリビューションでしたので、こうした基本的なものをどこか別の場所からユーザにダウンロードしてもらうのは避けたいと考えています」。

また、Lasarsch氏は、SUSEの商用製品を発売しているNovellからの統制をできるだけ小さくすることを望んでいる。「法的な問題がない限り、我々がコミュニティを統制することはしたくないと考えています」。ただし、こう付け加えている。「我々は企業なので、法的な面については細心の注意が不可欠であり、ディストリビューションに何を含めることができるかについて多少の制約があります。たとえば、ビデオ・プレーヤーを搭載してほしいという声が多くのユーザから上がっていますが、これは法的な落とし穴が多数潜んでいる分野です」。

Spevack氏も事情は同様だ。FedoraをRed Hatとは別個の組織にすることについて、「我々がどこへ向かいたいのかというビジョンを確立し、コミュニティに力を与えるという問題でした」と語っている。このプロセスの中で重要な一歩となったのは、Red Hatとは直接の結び付きのないリーダーがコミュニティ内に登場してきたことだった。「有機的な階層構造になるよう、我々は大いに尽力しています」。Spevack氏が特に満足しているのは、誕生から6か月のFedora Boardのメンバの半数は、「Fedoraコミュニティの何らかの分野で、その多大なる貢献により、既にリーダーとして認められている人たち」だということである。Spevack氏によると、Fedora Extrasは、コミュニティの他の人たちにとって「モデル・プロジェクト」だという。Fedora Extrasとは、公式のFedora Coreを補完する目的から、コミュニティ内で自発的に生まれた、自律性のあるレポジトリだ。一方、Spevack氏が注意しているのが、Fedoraへの貢献を仕事として行っているRed Hatの社員に対してFedoraが頼りきりになるという「罠」にはまらないようにすることである(Spevack氏自身もRed Hatの社員だ)。

来年は、Fedora Core 6のリリースを受けて、Red Hat Enterprise Linuxの次のリリースのための基盤を提供するという点については少なくとも1年間は気をもむ心配がなく、最新技術の導入で評判を呼ぶことができればとSpevack氏は期待している。「やむなく保留にしていたことに取り組めます。コードベースをかき乱しすぎて安定性が損なわれることが不安だったのです。早くから導入してくれる人たちや最先端のユーザたちがFedoraにわくわくしてくれたらと思っています」。

Lasarsch氏もSpevack氏も、このような大まかな方向性を定める以外には、プロジェクト内で求める価値をあえて明確化することは行っていない。「事を進めるうえで、常識という基準はもちろん持っています」とSpevack氏は語る。だが、コミュニティ・メンバによるプロ意識のない言動については軽い統制があるものの、Spevack氏の主たる関心は、すべての活動がプロジェクトの技術的な目標に沿っているかどうかという点にある。

一方、Ubuntuは、「Code of Conduct」(行動規範)で有名となった。この規範は、コミュニティ・メンバ間の関わり合いすべてにおけるガイドラインとなっている。Bacon氏はこう語る。「このドキュメントは、基本的な行動基準の概要を示したものです。大半の貢献者にとって自然なものですが、共同作業を進めるための基準をすべての人に明確に示す役割を果たしています。この行動規範は、プロジェクトのメンバになることを希望する方は必ず同意する必要があり、コミュニティをうまく進めていくうえで効果的に機能しています」。また、この行動規範は、Debian(Ubuntuの派生元のディストリビューション)からUbuntuへの鞍替えがいくつか目立ったことの理由の1つにも挙げられている。

Bacon氏はこう語る。「Code of Conductは確かに重要なものですが、プロジェクト内での規律を大きく左右するのは、いかに共同作業を進めるかということです。チーム・リーダーのバランス、コミュニティ・メンバに対する敬意、オープンなプロセス、関与のしやすさ、新しい血に対するオープンさなどはすべて、皆の満足感につながる要因です。肝心なのは、ポリシーと自由さのバランスです。つまり、健全なポリシーを適用することと、人々が自由な取り組みで優れた業績を上げられるようにすることとのバランスなのです」。

プロジェクトが成長してくると、そのリーダーたちは、プロジェクト固有の価値を維持したままで規模を拡大するという問題に直面することになる。問題は「構造」だとLasarsch氏は語る。「コミュニティが大きくなると、必要な構造が増えてきます。小さなコミュニティでは、ドキュメンテーションや役割がなくても、何が進められているかを各自が把握しています。コミュニティが大きくなりすぎると、それは困難です」。既に、以前とは違って、リーダーである自分がopenSUSEのすべてを事細かに把握することはできないという点を懸念している。「自分の頭が『バッファ・オーバーフロー』するのを避けるために、最も重要なトピックだけをフィルタします。たとえば私は、ドキュメンテーション・リストを隅々まで完全には把握していません。トピックにざっと目を通すだけです。他のコア・メンバも、パッケージングやWikiについて把握する時間はないかもしれません」。

基本的な価値を維持するための対処法について、Bacon氏は次のように語る。「常にコミュニティとして作業を進めることと、コミュニティにアドバイスして健全な方向へと導くコミュニティ・リーダーを置くことです。Ubuntuは実力主義であり、優れたメンバは、他のメンバたちにも刺激を与え、同じように優れた成果を上げられるようにすることに長けている場合がよくあります。時には、一歩引いた立場で落ちついて傍観し、自らのコミュニティをありのままに見つめ、改良の余地はないか目をこらしてみましょう。その気さえあれば、改良の余地は必ず見つかります」。

FOSSプロジェクトのリーダーの心構え

FOSSコミュニティの構築に関わっている人たちへのアドバイスは何かと尋ねてみたところ、3人のコミュニティ・リーダーが異口同音に語ったのは、コーディングのためのインフラストラクチャを構築するだけでは不十分だということだった。Lasarsch氏はこう語る。「皆のためになることをし、コミュニティに参加しましょう。コミュニケーションを密にし、話を聞き、オープンになりましょう。インフラストラクチャを用意するだけでは、コミュニティの構築はうまくいかないと思います」。

Spevack氏のアドバイスも同様だ。「コミュニティを尊重することです。これは、オープンソース・コミュニティかどうかにかかわらず、ビジネスにも同じく当てはまることです。事が進められている理由を周知しましょう。全員が1人残らず積極的に関与する必要はないし、そうしたくないと思っている人もいるかもしれませんが、隠し事がないということは、皆にとってうれしいことなのです」。

Spevack氏にとって、FOSSコミュニティの構築には、プロジェクト管理全般に通じるものがある。「何にも増して大きな過ちは、必要のないことや停滞の原因となることの実行を妨げてしまうことです。こんなことをしたい、と思っている人がいるのなら、やらせてあげることが必要です。こうした人は大なり小なり、自力で素晴らしい事を成し遂げることができるものです。リーダーに必要なのは、時々ロードマップを示してあげることだけです。自分のコミュニティを信頼しましょう。その信頼を行動につなげ、コミュニティに主導権を渡す方が、得られる成果も大きくなるのです」。

Bacon氏も似たことを述べている。「コミュニティの構築では、リードするという面と理解するという面の両方が肝心です。どんな状況でも、その場にいなくてはなりません。コミュニティを構築したいなら、思い切って事を進め、本気で取り組み、腰を据えてかかりましょう。これはまさに、暗闇の中を手探りで進んでいくようなものなのですから」。

Bruce Byfield コースの設計者兼講師。コンピュータ・ジャーナリストとして、NewsForge、Linux.com、IT Manager’s Journalへの執筆多数。

NewsForge.com 原文