オープンソース方式による映画製作は可能か

オープンソースが映画製作に利用されていることはよく知られている。Linuxやオープンソース・ソフトウェアは、レンダリング会社を通じて、かのシュレックロード・オブ・ザ・リングを始めとする多くの映画で使われているし、今年初めには、Blenderプロジェクトがオープンソースのグラフィックス・ソフトウェアだけを使って製作された最初の映画Elephants Dreamをリリースした。しかし、オープンソース・ソフトウェアではなく、オープンソース方式で映画を製作することはできるのだろうか。今、The Digital Tipping Point(DTP)に携わる人たちがそれに挑戦している。

DTPプロジェクトは、オープンソースが世界に与えつつある影響についての映画をオープンソース方式で製作することを目的としている。最初の映画は、同プロジェクトのプロデューサChristian Einfeldtの見方を中心としたもので、同氏によると、技術恐怖症だった自分がオープンソースを受け入れ、広めていこうと考えるまでになった経験を軸にしたものだという。

映画のための取材に協力しEinfeldtに技術的助言を行っているPostgreSQLのコアメンバーJosh Berkusは、Einfeldtは「疲れを知らぬOSSの伝道者」だと言う。Einfeldtはサンフランシスコの学校や教会に低価格のLinux PC を提供したり、OpenOffice.orgをサンフランシスコ市に売り込んだりしている。

プロジェクトに対する技術的な助言について、Berkusは次のように説明している。「DTPにとっては、映画製作に必要とするOSSテクノロジーとEinfeldtのつなぎ役といったところでしょうか。OSSの情報網を活用しています(『OSSデジタル・フィルム・エディターはないか? 誰かいないか?』)」

製作の現状

映画の完成を目指して多くの作業が済んでいるが、すべきことはまだ山積している。撮影したフィルムはおよそ350時間、世界中のオープンソース・コミュニティからDanese Cooper、Brian Behlendorf、Bdale Garbee、Don Becker、Ian Murdock、Jon ‘maddog’ Hall、Miguel de Icaza、Ted T’soを始めとする多くの人々のインタビューを終え、その総数は120名を超えた。

しかし、オンラインで公開されているのは、そのうちの220分ほどだけだ。Creative Commons Attribute-ShareAlikeライセンスの下でInternet Archiveから提供されている。他に、4分間の概要版がInternet ArchiveとYouTubeにあるが、完成版にはほど遠いものだ。

プロジェクトでは、現在、ポストプロダクションを進めるべくオープンソース・コミュニティに支援を求めている。具体的には、アーカイブにあるシーンのテープ起こし、場面の編集、翻訳、プロットの提案などだ。

Einfeldtはオープンソース方式で映画を作ることができると考えているが、そうは思わない人もいる。クー・クラックス・クランに関するドキュメンタリー In the Land of Milk and Honey を監督したPaul Donahueは当初監督として製作に加わり、これまでカメラワークと編集の大部分を担当してきた。しかし、オープンソース方式でこの映画を製作することに異議があり、プロジェクトを去った。プロジェクトについてのコメントは得られなかった。

資金調達

プロジェクトでは、資金も募集している。Einfeldtによると、スポンサーを探しており、資金調達のための催事も計画しているという。

映画のコピー、少なくともいずれかの版を販売する計画もある。Debianプロジェクトに倣って幾つかの版を作る。最初の版はコード名Buzzだ。もう一つのRex版はDVDやLulu.comなどの自動配布の仕組みを通して販売するという。

ビデオはCreative Commonsライセンスの下にあるため、このクリップを基に「派生物」を自作することができるが、Einfeldtは取り立てて心配はしていないと言う。「私たちが企業や組織の方向に外れすぎれば、派生物を心配することになるでしょう。しかし、私たちはそうした責任を敢えて引き受けるつもりです。責任を持つということは、裏返せば信用できるということだからです。私たちを利用する人がいなければ、私たちが正しいことをしているということになります」

オープンソースのツール

Linuxでビデオを作ろうとすれば直ぐわかることだが、プロプライエタリなツールに比べ、現在利用可能なオープンソースのツールは水準が低い。しかし、Einfeldtは、今のものでも「十分使える」と述べ、オープンソースのツールを使うか、買うなら機能の少ないものを買うと言う。

「確かに、Appleの製品は……(ハーバード・ビジネス・スクールの教授である)Clayton Christensen言うところの『上層の顧客』、つまり、『より高い』機能に金を払う意思がありそれが可能な人々の尺度で考えれば、『よりよいもの』でしょう。しかし……私のように映画を作り始めたばかりの者にはツールにかける資金はありません。取材しなければ始まらないのです。手元に数千ドルあったとして、それでMacのFinal Cut Proなどの必要となるであろうソフトウェアを買うか、あるいは、Paul Donahue監督と共にブラジルに飛んで文化相Gilberto Gilに会ったり、ミュンヘンに飛んでChristian Ude市長に会ったりするか。私がどちらを選ぶかはおわかりでしょう」

プロジェクトの意義

Einfeldtとその仲間たちが映画の最終カットを首尾よく仕上げることができたとき、それはどのような影響を生むのだろうか。Einfeldtは「スター製作装置の再定義」につながればと言う。

「Linuxで動いているYouTubeがハリウッドというスター製造装置の迂回路になっていることはご存じのとおりです。そのお陰で、Jessica Rose(lonelygirl15)は国際的な注目を浴びるようになりました。ハリウッドの寄与は重要ですが(同時に、GNU/Linuxは、汎用PC市場におけるMicrosoft以上に、ハリウッドを席巻しています)、それはメデイアが民主的に動いているということに外なりません。Slashdot、Digg、YouTubeで著名人の作られ方が変わったように、私たちの小さな貢献でこのプロセスが変わればと思います」

ともあれ、将来興味深いものとなるかもしれぬ膨大な取材ビデオを用意して、このプロジェクトはオープンソース・コミュニティの力量を試そうとしている。「長期的に見れば、この映画はもっと大きな意味を持つはずです。あと25年もすれば、あらゆる無形物の製作でオープンソース方式が主流になるでしょう。そうなったとき、この映画はその黎明期を示すものとなり、歴史的作品となるでしょう」(Berkus)

NewsForge.com 原文