オープンソース体制でのアート制作

オープンソース体制でのアート制作は、一般に考えられているよりずっと厄介な代物である。私はここ数年、Ubuntuのインタフェース・デザイン・プロジェクトに携わる中でこれを実感してきた。統一性のない環境では、高品質なビジュアル・コンテンツを作り上げるのは不可能だと悟った。そこで、オープンソース体制で採用できる新たなモデルを探ることにした。その結果、特に効率的で実りの大きい、採用をお勧めできるモデルは、専門エージェンシーのモデルだという考えに至った。鍵となる最大の要因は、アート・ディレクタ制の導入である。アート・ディレクタの導入によって、プロの作品にふさわしい統一性と一貫性を確実に達成できるのだ。

私がお勧めする新たな方式の説明に入る前に、ビジュアル・デザイン全般に関する問題についていくつか触れておきたい。オープンソース・コミュニティには、美的感覚は個人の好みの問題だという誤解がある。アートに関する議論では、その手の意見が必ず登場する。もし本当に、好みの問題だとしたら、アートを客観的に評価したり教えたりするのは不可能だということになってしまう。もし本当に、美が個人の主観によるのだとしたら、何でもありということになり、カオスに陥ってしまう(既にそうなっていると指摘する芸術家も多い。オクタビオ・パスは「我々は近代美術という概念の末期にいる」と述べている)。そして、意味のある創造的プロセスは完全に停止してしまい、勝手気ままな即興だけが残ることになる。

だが実際は、優劣を判断することは可能である。その判断の大きな基になる我々の内部感覚が曖昧で混沌としたものだとしてもである。アート作品に関して我々が最初に認識するのは、統一性の有無である。形式や個人スタイルは、感覚でとらえられないことも多いが、これらもアート作品にとってきわめて重要な要素である。形式とは、キュービズムや抽象表現主義などである。個人スタイルとは、アーティストの個性から生まれる、表現の難しいものだが、それでもやはり、各作品には、その人ならではの面がまぎれもなく存在している。

デザインは、さまざまな点で著述に似ている。優れた著作にはそれぞれ固有のスタイルがあり、一貫性や統一性という形で明確に表れる。ヘミングウェイとエドガー・アラン・ポーで考えてみよう。1人は簡潔さと率直さが特徴、もう1人は隠喩を効果的に使った装飾的な文体が特徴という、まったく異なるスタイルを持つ作家である。だが2人とも、各自の範疇において、一貫性と統一性を備えている。

ビジュアル・デザインも同じだ。優れたデザインには固有のスタイルと表現方法があり、それによって作品の構造と意味が形成される。アート作品の表現技法は、形、色、レイアウトなどに表れる。各アート作品には核となるものが必要で、作品全体を統合する視覚的要素として表されることになる。

問題は、オープンソース体制でビジュアル・コンテンツを作成するときに、しかるべき原理・原則をいかに適用できるかということだ。

共同作業によるアート制作では、一貫性は常に課題となる。アーティストたちは、スキルのレベル、経験、持ち前のスタイルがそれぞれに異なっているため、チーム作業の結果は、パッチワークのようになりがちだ。たとえ武骨でも、統一されたデザインの方が、優れたパッチワークよりはましである。パッチワークは表現技法が不揃いなのだ。

そのような事態を防ぐには、チームに強いリーダーシップを持ち込むことが必要である。1人のアート・ディレクタや数人のアーティストのグループが、共同作業を支えるリーダー的存在となるようにすればよい。そのような形なら、本質的に、グラフィック・エージェンシーとして機能することになる。

専門エージェンシーはどのようなしくみで動いているのだろうか。スタジオ環境の場合、デザイン・プロセスの第1歩は、顧客と共に始まる。つまり、アート・ディレクタの最初の仕事は、成果物についての情報収集である。通常は、顧客との面談から始め、求める成果物に関する顧客の考えを探り出していく。たとえば、顧客がフルカラーの広告を出したいと考えているとしよう。その場合、アート・ディレクタは、その広告の出稿先(新聞、雑誌、Web)、成果物の形式やサイズ、予定している書体、色、レイアウトなどを尋ねていく。十分なデータを収集できたら、制作チームが集まって、ブレインストーミングのセッションを行い、複数のサンプルを作成する。そしてさらに、話し合いや打ち合わせを重ねる。

最終的なバージョンが固まったら、契約を結ぶ。ただし、実際の制作に入る前に、成果物の要件について、隅々まで詳細に定める。色、インク、寸法、レイアウト、書体、イメージ、用紙などの項目は書き留めておき、デザイナができる限り細かく仕様に準拠できるようにする。こうすることで、最終的な成果物が当初の計画から外れてしまうのを回避でき、スタイルの統一性と一貫性が確実に実現される。

スタジオ環境では、専門の担当者を中心とする形で作業プロセスが形成される。制作プロセスを複数のサブプロジェクトに細分化し、それぞれを専門の担当者に割り当てる。これらのサブプロジェクトには、必要に応じて、レイアウト・デザイン、イメージの編集、イラストなどが含まれる。小規模な仕事の場合には、1人のアーティストがデザイン作業をすべて担当する。

簡単にまとめたが、以上が専門エージェンシーの体制と作業の進め方である。このモデルは、オープンソース体制にもほとんどそのまま導入できる。そして、経験をふまえて後で変更を加えればよい。

オープンソース・モデルは共同作業による取り組みであるため、きちんと組織化された構造が欠かせない。ボランティアのアーティストたちが各自の持てる力を最大限に発揮し、その時間とリソースを可能な限り経済的に生かせるようにするためには、このようなしくみの整備は必須である。高品質なコンテンツを作り出すためには、才能と時間の両方が必要だ。ここで取り上げたしくみを導入すれば、参加アーティストの労力と創造力を最大限に有効活用することができる。さもないと、統一性と一貫性のない、勝手気ままな即興へと陥る。最悪のシナリオである。アート・コミュニティは何としてもこれを回避する必要がある。

モントリオール地域に在住のグラフィック・デザイナ。Dapperのリリース以来、Xubuntu/Ubuntuのアート・プロジェクトに携わり、現在はXubuntuのアート作業のコーディネートを担当している。

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