Linux.conf.au:コンフェレンス初日の参加レポート

シドニー発――2007年度のLinux.conf.au(LCA)が開催されたオーストラリアのシドニーにコロラド州デンバーからたどり着くまでの空路は、税関の諸手続きも含めると片道17時間以上の空の旅となった。結構な手間と時間を費やした旅程ではあったが、今のところ、それに見合うだけの体験に遭遇できているようである。

Linux.conf.au(記念の帽子にあるミスプリントに従うと“Linux.con f.au”となる)は、オーストラリア国内での開催地が毎年変更される持ち回り形式が取られている。今年のコンファレンスは、第1回Linux.conf.auが開催されたシドニーにあるニューサウスウェールズ大学(University of New South Wales: UNSW)のケンジントンキャンパスに回帰する年でもあった。

私を乗せた航空機が到着したのは、現地時間の日曜朝のことである。空港からUNSWまでのわずかな道のりを移動し終わると、私用に割り当てられた宿舎の鍵を渡された。これから数日を、私はこの部屋で過ごすことになる。参加者の一部にはUNSW近くのホテルを宿とした者もいたようだが、大多数はUNSWキャンパスにあるカレッジ施設に宿泊するよう見受けられた。私の宿舎はシャーロムカレッジと呼ばれる場所にあり、コンファレンス会場には早歩き5分程度で到着できる位置にある(道行きは上り坂のようではあるが)。

大学の学生寮に住んだことのある人間ならすぐ分かるだろうが、参加者に提供された宿舎は、華美に飾り立てられることもなく機能的で落ち着いた建物であった。私が到着した時点で既に各種の関連イベントが始まりつつあったので、宿舎に腰を落ち着ける間もなく早々に会場へと向かうことにした。

月曜の夜までに私が耳にした唯一の不満は、一部の参加者がインターネット接続ができないというものだけであった(かく言う私もそうした不幸者の1人である)。日曜に聞いた話だと、月曜の午後にはワイヤレス接続のセットアップが完了している予定という触れ込みだったのだが、ここでも“予定は未定”のようだ。

LCAの開幕

本コンファレンスの開幕を告げたのは、GNOMEおよびUbuntuへの貢献で知られ今回のLCAにおける主催者の1人でもあるJeff Waugh氏による短めのスピーチであり、その中で同氏は本コンファレンスの歴史について触れる傍ら、参加者に対して会期中の健康に気遣うよう言葉をかけると同時に“羽目を外しすぎないように”と釘を刺すのも忘れなかった。

LCA 2007の初日2日間は、オープンソースに関連した個別的なテーマでの講演やプレゼンテーションを行うミニコンファレンスに割り当てられている。月曜のミニコンファレンスのトラックで扱われたテーマは、Debian、GNOME、教育、組み込みデバイス、仮想化テクノロジ、MySQL、リサーチ活動などであった。

これらの講演時間は基本的に40分枠が割り当てられているが、若干長めのミニコンファレンスもいくつか行われていた。参加者各人の様子としては、特定のテーマに関心があって個別のトラックにのみ参加する者も何人か見受けられたが、多くは複数のセッションを掛け持ちしているようである。

私はまずDebianトラックにあった「State of the Project」(プロジェクトの現状)と題されたセッションに顔を出したが、これはDebian Project Leader(DPL)を務めるAnthony Towns氏の主催によるものである。選択の理由は、昨年12月4日の暫定リリース予定が反故にされたDebian Etchの進捗具合を知りたかったからだ。

そうした期待に反して、Towns氏の講演は主として同氏がDPLに就任する前後のDebianフレームウォーの歩みといった内容であった。Towns氏の講演内容をかいつまんで紹介すると、特定リリースに取り込むアーキテクチャへの認定制度に関する論争、GNU Free Documentation License(GFDL)の問題、Sun Javaのディストリビュータへのライセンス提供、Firefoxの商標問題、Dunc-Tankプロジェクトに関する論争といったものである。

聴衆との意見交換を多く交えたTowns氏の講演はすばらしい出来であり、Debianのユーザと開発者が多数参集した会議場で行うのに相応しい討論であったとは思うのだが、Debianの将来計画に関するより多くの情報を聴けるものと期待していた私個人としては物足りなさを感じた。

Towns氏の後を受けて講演したのは、前DPLのBdale Garbee氏であった。同氏は現在Hewlett-Packardのオープンソース/Linux担当CTOおよびSoftware in the Public Interest(SPI)の代表を務めているが、その講演内容はHPとDebianとの関係についての説明であった。

Garbee氏は、HPとDebianとの関係の略歴を述べると、HPがDebianに関心を寄せている理由を説明した。私としては、そうした内容の講演に単なる宣伝活動以上の価値を見いだせなかったのだが、Garbee氏の講演の大部分は、どのようにしてHPなどの企業がDebianなどのフリーソフトウェア系コミュニティと連携できるか、あるいはDebianの何がHPにとってメリットとなるか、という部分の根幹に触れるものであった。

Garbee氏の指摘するところでは、HPは独自のLinuxディストリビューションを整備することに関心は抱いていないが、その一方で、商用Linuxディストリビューションでは不可能なタイムスケールで実装されていくサードパーティ系ディストリビューションの諸機能を取り入れる必要を感じていると言うのだ。つまり、Debianと協力することでHPはマーケット開拓における時間的なアドバンテージを得ることができるのであって、例えば他のディストリビューションやハードウェアの流通に先がけて行われた、Debian Woody(3.0)におけるItanium 2およびZX1チップセットのサポートなどは、そうしたものの好例になると言うのがGarbee氏の説明である。

Garbee氏は、通信業界で広範に使用されているHP Telco ExtensionsとDebianとの関係にも言及した。その数字がどこから出たものかは不明であるが、Garbee氏の説明を信じるならば、本年後半においてアメリカにおけるモバイル通信の30%は、何らかの形でDebian搭載HP ProLiantサーバを介して行われる状態となる見込みだそうだ。

Garbee氏の講演終了後、昼食用の休憩時間となった。その間に通路では、LCA恒例の“ホールウェイ・トラック”が開催されていたので、私も顔を出し、何人かの参加者に今回のコンファレンスをどのようにして知ったかを尋ねてみた。おしなべてLCAの参加者は気さくな人間ばかりで、それぞれの出身地やオープンソースとの関わりを快く語ってくれた。

講演再開は午後2時からであった。私は、そこで何が語られているかに興味があったため、仮想化テクノロジについてのミニコンファレンスに顔を出すことにした。User-Mode Linux(UML)の作成者兼メンテナを務めるJeff Dike氏による講演内容は、「UML, Kernel-based Virtual Machine (KVM), and hardware virtualization」(UML、カーネルベース仮想マシン(KVM)、ハードウェアの仮想化テクノロジ)というものであった。講演内容は非常に興味深いものであったが、どちらかというと(私のような)システム管理者や一般ユーザよりも開発者向けの色合いが強かったと言えるだろう。Dike氏の話はKVMの開発に関するものであり、そうした開発が進むとゲストのホストによるgettimeofday()関数の利用といった特定の処理においてptraceシステムコールが回避できるようになり、結果としてUMLのパフォーマンス向上が期待できるとのことである。

その他に参加したのは須崎有康氏による講演「OS Circulation environment “Trusted HTTP-FUSE Xenoppix”」(OSサーキュレーション環境“トラステッドHTTP-FUSE Xenoppix”)であった。これはXenoppix(XenとKnoppixの組み合わせ)のライブCDを用いてXen環境でPCを起動してから、その後でHTTP-FUSE CLOOPを介して各種ゲストシステムをダウンロードするというシステムである。このHTTP-FUSE CLOOPとは、HTTPにマウントされるループバックデバイスの一種だと思えばいいだろう。HTTPよりも待ち時間耐性に優れたプロトコルは他に存在するが、須崎氏らがHTTPを選択した理由というのは、HTTPのホスティングサービスは安価で入手しやすく、プロトコル的にもファイアウォールでの扱いが容易であるためだとのことだ。

講演者としての須崎氏は若干場慣れしていない感じもしたが、内容的には興味を惹かれる話であった。講演終了後、同氏からはXenoppixの収録CDが配布されており(こうした配慮が好感を生むものである)、私としても安定した接続が行える環境に移ったら、暇を見つけて自分のマシンを起動させてみようと思っている。

須崎氏の公演後は、アフタヌーンティー用の休憩時間である。LCAのスケジュールは、参加者間の歓談をしてからでも一服するのに充分な、余裕のある時間割が取られているのが有り難い。

月曜日の最後に私が顔を出したのは、Pia Waugh氏によるリサーチ系のミニコンファレンスであった。Australian Service for Knowledge on Open Source Software(ASK-OSS)の非常勤リサーチコーディネータを務める同氏は、本LCA 2007の主催者の1人でもある。

Waugh氏の講演は「ASK-OSS」とのみ題されており、私としてはそれが何を意味するのかを確認したかった。なお1つ前の講演が長引いたため同氏による講演は時間的に若干切りつめざるを得なかったようであるが、聴衆を煙に巻くでもなく、伝えるべき情報を的確に説明しきった点は称賛に値するであろう。

結局Waugh氏の講演は、ASK-OSSのバックグランドおよび、そこからどのようなサービスが提供されているかという内容であった。ASK-OSSの活動としては、オーストラリアの教育研究機関を対象にオープンソースの使用法に関するアドバイスを行っているとのことだ。

この日の講演は午後5:30をもって全て終了し、その後の一般参加者向けの活動は特に用意されていなかった。その一方で私も含めたLCAでの講演者を対象として、主催者側はインフォーマルなパーティを開いてくれた。講演者一同はバスに揺られてウォーターフロントに移動し、そこから湾岸を数時間がかりでゆったり周遊するディナークルーズに乗り込み、あとは美しいシドニー港の風景を肴に食事と飲み物を味わいつつ、愉快な会話を楽しめるという趣向である。なおフリーソフトウェア愛好者という人種は、酒が入ると話題が少々下品な内容になる傾向が見受けられるので、その点は留意しておくべきだろう。

LCA 2007は今週の金曜日まで開催され続ける。これは、最終ギリギリの飛び込み参加を検討している方用の追加情報であるが、私の知る限りいくつかの時間枠は未登録で残されているようだ。以上、今回も含めたデイリーレポートが、コンファレンス会場に行けない方々の参考になれば幸いである。

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