オランダ10カ所の大都市がオープンスタンダードを要求

2003年初頭、オランダ政府はOpen Standards and Open Source Software(OSSOS)という取り組みに着手した。オランダの行政機関に対し、ソフトウェアへのオープンスタンダードの採用を奨励するとともにオープンソースソフトウェアについての知識を広めようとしたのだ。先月、オランダ国内10カ所の大都市が「Manifesto of the Open Cities(オープン都市宣言)」に署名し、OSSOSプログラムが順調に機能していることを示した。

OSSOSはオープンスタンダードの奨励によって、行政ITシステムの品質をアクセス容易性、透明性、安全性、耐久性の面で高めようとしている。また、総所有コスト削減のねらいもある。オープンスタンダードの利用により、異なるメーカーのソフトウェアコンポーネントどうしの柔軟な組み合わせが可能になり、最適な組み合わせを選択できるためだ。さらにOSSOSでは、Microsoft、Oracle、SAPといった国外のソフトウェア・サプライヤに対する各行政機関の依存度を下げたいと考えている。こうした主要な2つの目標を達成した結果、異なる政府機関の間のデータ交換が改善される見込みである。

「オープンソースソフトウェアは政府機関で利用できる状態にある」と話すのは、市政機関を担当するOSSOSアドバイザBouke Koelstra氏である。「発足当初の技術的問題の大半はすでに解決され、商用ソフトウェアの代替となるオープンソースソフトウェアの大部分には十分に満足できる機能が備わっている。アムステルダム市による最近の評価では、LinuxとOpenOffice.orgがそれぞれMicrosoftのWindowsとOfficeの本格的な代替ソフトウェアになることが示されている。より小規模な2つの市政機関でも、OpenOffice.orgなどのオープンソースソフトウェアの試用が行われたが、何の問題も生じなかった。ところが、これらの市政機関が利用しているアプリケーションの一部では、サプライヤがこうしたオープンソースソフトウェアをサポートしていなかった」

4つの要求

「Manifesto of the Open Cities」は、その加盟都市にソフトウェアの導入を提案する際の要件を定めている。なお、この宣言に加盟する10都市の合計人口は、オランダの総人口1,600万人のうち300万人を占める。各加盟都市のIT戦略には、以下に示すオープン性の4要素が明示的に組み込まれている。

ベンダからの独立性:すべてのソフトウェアは、プラットフォームが違っても同等に不足なく動作すべきである。またソフトウェアの保守およびサポートを担当するベンダの選択権は、市側が有するべきである。

相互運用性:ソフトウェアはアプリケーションに依存しないインタフェースを備え、テキスト編集、電子メール、ミドルウェア、および地理情報システムの各オープンスタンダードに対応すべきである。これは、たとえばMicrosoft Wordの利用を加盟都市の市民に強制すべきでないことを意味する。

透明性、認識性、および管理:個人データを扱うすべての処理は、関連する法律および規制に従って透明性を確保するとともに、監査および情報セキュリティのチェック機関が理解できるものでなければならない。これは、行政機関が市民のプライバシーを保護する能力を有すべきことを意味する。Koelstra氏は「特に大都市は、ソースコードが自分たちで理解できることの重要性に気付いている」と言う。

デジタル処理の耐久性:すべてのソフトウェアは、実装を担当したベンダ1社だけでなく複数のベンダからサポートを受けられなければならない。またデータの保存は、十分に文書化されたオープンフォーマットで行わなければならない。その根拠は、公文書はたとえ作成に使われたソフトウェアがもはや存在しなくなっても読めるべきであるという点にある。

オープン都市宣言は「オープンソース」に言及してはいないが、これら4つの要求はオープンソースソフトウェア指向の存在をはっきりと示している。クローズドソースのソフトウェアでこうした要求に応えるのは容易ではない。

どの加盟都市も取引対象のサプライヤに対し、すべてのソフトウェアは公式な入札および外部委託契約において市の利益を考慮して調達や開発を行うこと、および上記4つの要求を考慮することを要請している。Koelstra氏は次のように語る。「これはオランダの各加盟都市による意思表示だ。“我々との取引を望むなら、我々が定めたオープン性のルールに従ってもらわねばならない”ということだ。ほとんどのソフトウェア会社は、オープンスタンダードを自発的に選択しようとはしない。だから我々としてはこうしたやり方で、彼らが痛みを感じる金銭面に働きかけるしかない」

こうした大都市のあとを追って流れに便乗しようとする小規模な市政機関は少なくない。「今のところ、もう少し規模の小さな30の市政機関がこの宣言への署名を予定している。彼らは大都市と同じことをすれば安心するのだ。OSSOSがこうした市政機関を集めたねらいは、“オープンソース化をこれ以上進めるな”という反対の声に対抗することにある」(Koelstra氏)

サプライヤの反応

ソフトウェア・サプライヤはこの宣言にどんな反応を見せたのだろうか。Koelstra氏は「ソフトウェア・サプライヤのうち2社はLinuxとOpenOffice.orgをサポートしているようだが、他のサプライヤは怒りを露わにしている」と言う。Koelstra氏によると、市政機関は多額の費用を節約できるが協力してくれるソフトウェア・サプライヤは少ないそうだ。「サプライヤは我々に選択権を与えるべきだ。たとえば、フォルクスワーゲンを購入したとしてサプライヤがピレリ製のタイヤを使うように要求してきても、私は応じない。ところがソフトウェアの世界では、サプライヤに自由を制限された状況を我々みんなが受け入れている。ソフトウェアの市場はまだ成熟していないのだ」

レーワルデン市のSander Rispens氏も、サプライヤに関してこれと同じ経験をしている。「我々のソフトウェア・サプライヤのなかには自社ソフトウェアのオープン化に熱心でないところもある。彼らは市場の流れが十分に変わるのを待っているのだ。オープン都市宣言はこうしたサプライヤに対して、オランダの大部分がオープンスタンダードを求めていることをはっきりと示している。以前なら、サプライヤはその必然性がないとして市政機関側の反発を退けることもできただろう。だが今はそうはいかない。彼らは従うしかないのだ。他のサプライヤはすでにオープンスタンダードを利用していたり、自らオープンソースソフトウェアの開発を進めたりしている。今となっては、宣言はこうしたサプライヤに有利に働くだろう」

ナイメーヘンの状況

ナイメーヘン市のIT部門責任者Anton van Gemert氏によると、ソフトウェア・サプライヤの大半でオープンスタンダードの採用が必要だという。「オープンソースの場合は、状況がもう少し難しくなる。ソースコードが資産の一部として加わるからだ。1990以降、(デファクト)スタンダードを使い続けてきたため、我々の大規模システムは比較的オープンになっている。我々の見たところ、小さなサプライヤが扱っているのはまだほとんどがクローズドソースのソリューションだ。彼らがオープン化に順応しなければ、ナイメーヘンは彼らとの取引を続けられなくなるだろう」

ナイメーヘンの市議会は2004年、ソフトウェアの購入に際して見せかけではない本当の代替ソフトウェアとしてオープンソースソフトウェアの検討を行うプロジェクトを承認した。「我々がオープンソースソフトウェアを検討する一番の理由は、ソフトウェア・サプライヤへの依存度を低くすることにある」とvan Gemert氏は言う。「取引相手をMicrosoftに限定する必要性はないのだが、以前の我々にはそれを拒む財務上の理由がなかった。今回の宣言は我々にとって重要だ。なぜならこの宣言の存在により、サプライヤからもっと自立する必要性を他の都市と一緒に主張できるからだ」。van Gemert氏は、こうした自立がイノベーションや連携の増加、そして問題のあるデータ交換の減少への出発点になると見ている。

van Gemert氏は次のように話す。「ナイメーヘンの場合、オープン都市宣言が重要になるのはオープンソースの部分よりもオープンスタンダードの部分だ。我々は多くのソフトウェアを利用しているため、そのすべてをオープンスタンダードを採用したソフトウェアとオープンソースソフトウェアで置き換えようとは考えていない。そんなことをすれば、きっと多くの問題にぶつかるだろう。そもそも非現実であり、かえってサプライヤへの依存が深まるおそれもある」。ナイメーヘンでは、同市のインフラストラクチャのなかでオープンソースソフトウェアとオープンスタンダードがどのように利用できるかを調査している。「インターネットのポータルサイト、コンテンツ管理システム、ファイアウォールシステムのコンポーネントでは本格的に使えそうなことがわかっている。しかし現状では、すべてのインフラストラクチャをオープンソースソフトウェアだけでまかなうのは賢明ではない」(van Gemert氏)

レーワルデンの状況

レーワルデン市の顧問であるSander Rispens氏は次のように語っている。「我々は住民向けの各種デジタルサービスを開発中だ。さまざまなサプライヤのソフトウェアを使っているので、オープンスタンダードの導入によって異なるソフトウェアパッケージ間のやりとりが容易になり、選択の自由度も高まるだろう」

「2004年以来、我々は特定のソフトウェア政策に沿って取り組みを行ってきた。それは “我々が必要とするすべてのソフトウェアは、オープンスタンダードを採用していなければならない。クローズドソースとオープンソースの両アプリケーションが同等に優れている場合はオープンソースをとる”というものだ」(Rispens氏)。一部のデジタルサービスとミドルウェアでは、すでにオープンスタンダードやオープンソースソフトウェアが利用されている。さらに市のWebサイトでも、MMBaseというオランダで生まれたオープンソースのコンテンツ管理システムが使われている。

アムステルダムの状況

オランダの首都アムステルダムがオープン都市宣言に署名したのは、宣言の公布後しばらく経ってからだった。各部門でのオープンスタンダードとオープンソースソフトウェアの評価がまだ終わっていなかったためである。この評価は、同市のソフトウェア・サプライヤからの自立はどの程度進むのか、という市議会での質問を受けて実施されたものだった。さらにアムステルダムは300,000ユーロをかけて、2つの部門でオープンソースソフトウェアのテスト実施を予定している。もし好ましい結果が出れば、「標準的オープン・ワークプレース(standard open workplace)」という共有サービスが同市の全部門に提供されることになる。

アムステルダムはMicrosoftと契約を結んでおり、同社のオフィスソフトウェアを対象としたこの契約の有効期限は2008年末までとなっている。同市議会のプレスリリースには、市のクローズドソースソフトウェアをすべて排除する必要はないが「Microsoftとの次回契約は規模の縮小が予想される」と記されている。

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