Linux.conf.au:コンファレンス第4日の参加レポート――オープンソースのオープンハウス

シドニー発――オーストラリアのシドニーにあるニューサウスウェールズ大学のケンジントンキャンパスにて開催中の第7回Linux.conf.auにおける木曜日の日程は、講演、チュートリアル、一般公開式のオープンデイという構成で進められた。

この日は先の数日ほど講演を見て回ることはできなかったが、それは午前11時より他ならぬ私自身がオープンソース系プロジェクトのマーケッティングに関する講演をすることになっていたためである。その他の主立った演目も含め、講演の様子はオンラインでのビデオ公開が行われているはずである。LCA 2007の講演で“単調で退屈”というものは私が拝聴した限りほとんど無かったが、おそらくこれは、演者一同が招かれた月曜日のディナーパーティの席上で、プレゼンテーションをより効果的かつ魅力的なものにするためのハウツーが解説されていたのが功を奏したのであろう。

気まぐれな連中と影響力のある人間の引き込み方

昼食後の最初の取材先は、Ubuntuのコミュニティマネージャを務めるJono Bacon氏による講演にした。そこで語られていたのは「How to Herd Cats and Influence People」(気まぐれな連中と影響力のある人間の引き込み方)という内容である。

Bacon氏は巧みな話し手であるだけでなく、コミュニティを組織する際のアドバイスという同氏の講演内容も非常に的を射たものであった。それは、複数のグループに分かれている場合は1つにまとめろ、チーム間のコミュニケーションを確立しろ、常に新規メンバを招き入れろ、目に見える成果を出せる生産的な環境を整えろ、というものである。

その他に同氏が言及したのは“パズルのピースを1つ無くした”状態の潜在的な貢献者、つまり活動的で生産的なメンバとなる能力を有しているのに、そうした意欲や自信が無い、あるいは一部のスキルだけが欠けているといった人々の存在を挙げ、いかにしてこれらの人々の参加を促すかについてであった。

例えばBacon氏が提案した段取りの1つに、新参の貢献者でも直ぐに手がけられる“一口サイズのタスク”の準備というものがあり、これは、コミュニティ参加のきっかけとなって、早々に達成感を味わえる手頃な仕事を用意しておけということである。コミュニティに参加したばかりのメンバにこの種のタスクを任せれば、本気になって活動する意欲を徐々に引き出していく効果が期待でき、次により大きなタスクを手がけようという気にさせることができるという説明であった。

Bacon氏の講演で語られたメッセージの大半は当然のごとくUbuntuコミュニティを前提としたものだったが、他のオープンソース系プロジェクトでも充分に応用できる内容であった。

このBacon氏の講演終了後、私はAlexander Reeder氏による「Open Source Art」(オープンソースのアート)に顔を出すことにした。Reeder氏が説明していたのは、旧式化したラップトップを気象情報ディスプレイに再利用する方法についてである。第一線を退いたハードウェアの有効利用法としては面白かったが、実用面での解説が乏しく、実践的な情報を提供するというタイプの講演ではなかった。

ライトニングトーク

私が本日最後に参加したセッションはライトニングトークという自由参加形式による講演会で、これは数分間の持ち時間内で各自のプロジェクトを説明する、ないしはその場の思いつきを取り留めもなく話すという趣旨の催しである。

過去に私が出席したライトニングトークは、それなりにまとまりのある講演会であり、どれも厳格な時間制限が課されていた。それに対して今回のセッションは、内容的に面白い講演がまったく無かった訳ではないが、とりとめのないダラダラした演説もいくつかあり、時間制限も遵守されていなかったのが残念である。

私の興味を惹いた講演の1つは、OpenOffice.org(OOo)への貢献手段について語られたもので、そこではマーケッティング、品質管理、ローカライズなどのタスクに協力する手法が説かれていた。具体的な提案の1つは、個々のユーザが1カ月に1時間程度の時間を割いてディストリビューションのバグトラッカーを確認し、OOo関連の古いバグがないかをチェックしようというものである。何らかのバグがアップストリーム側で潰されていることが判明すれば、そのバグ問題にケリが付くことになり、バグフィックスの二重手間が回避できて、バグデータベースの内容もより確かなものになるという訳だ。

これは単に私にとって初耳のプロジェクトだったので興味が惹かれただけかもしれないが、White Trashに関するライトニングトークについても少し触れておこう。White TrashとはSquid用のホワイトリスト登録プラグインで、これを用いたユーザは、スパムフィルタを通過させたいWebサイトのホワイトリストへの登録を、管理者を介在させることなく自動で行えるようになるというのである。このプラグインは、ユーザレベルで必要なサイトの登録を可能とする一方で、手元のコンピュータに外部からアクセスしようとする危険なページやソフトウェアの存在に対しては警告が出されるとされている。

オープンデイでの一般公開イベント

ライトニングトークの次に私が顔を出したのは、マシューズパビリオンで進行中のオープンデイ(Open Day)である。このエクシビションは一般参加者を対象として5時間の枠が取られていた。オープンデイは地元のオープンソース愛好家たちが家族連れで参加できる場であり、そうした人々との交流を深めるという楽しみ方もできるが、初めてオープンソースソフトウェアの実物を目にする人々がその完成度の高さに驚く様子を眺めるのも一興なのだ。

「One Laptop Per Child(OLPC)」のテーブルにはデモ用のマシン群が展示してあり、途切れることなく人だかりができていた。「Linuxchix」のテーブルは、この業界において希少価値のある女性人材をテーマとした展示をしていたせいか終日混雑していたようであり、また「Open Source & Gaming」(オープンソースとゲーム)のブースでは、コンピュータとダンスを踊ろうという催し物にオタク連中が列を成して並んでいた。

その他に長蛇の列が形成されていたのは「Open Source Segway」(オープンソース版セグウェイ)というプロジェクトのブースであった。この列に並び続けると、その見返りとして自家製セグウェイを数メートルばかり試乗できるのである。Open Source Segwayの実機は、コンファレンスの開催期間を通じてほぼ全日マシューズパビリオンに展示されており、私もLinus Torvalds氏を始めその他の何人かの有名どころが試乗している様子を目撃している。

Solar Panel Car」 (太陽電池カー)プロジェクトが展示していた車両は、見てくれは多少悪かったが、わずか2日前に太陽発電だけでパース‐シドニー間を大会記録の5日半で走りきった実品ということである。こちらの車は残念ながら試乗会は行われていなかった。

ここでは紹介しきれなかったが、その他にも、OpenOffice.org、Fedora、Novell、Red Hat、Intel、IBM、Hewlett-Packardなどもテーブル席を設けていた。オープンデイの参加団体は、各種のプロジェクト、企業、組織をあわせて約40に上り、来場者数は700名を越えたとのことである。

オープンデイに関する唯一の不満を挙げるとすれば、すべての催し物の開かれたマシューズパビリオンという会場がほぼ終日キャパシティ一杯に達していたことである。パビリオン内の移動すらままならない程の込みようで、周囲の騒音がひどくオープンデイ出展者側の人間と話をするのも一苦労であった。

もっともオープンデイの参加側からすると、こうした混雑具合もさほど苦痛にならなかったようである。また私が個人的に行った参加者への非公式な聞き取り調査でも、今回のイベントはオープンソースコミュニティに馴染みのない人々の関心を集めて啓蒙をするという点で非常に良い仕事をした、との意見が多かった。

ハイテクコミュニケーション手段の活用

今回のLinux.conf.auでは、プレゼンテーション、講演、チュートリアル、その他の直接的なイベント以外にも、参加者間の交流促進や各人の興味を満たすための配慮が随所に施されていた。例えば登録参加者には、参加者用メーリングリストが開放されており、具体的な用途としては、イベント終了後のパーティへの招待状の掲示、同好の士の集い(birds-of-a-feather:BoF)セッションの臨時結成の呼びかけ、コンファレンス中の紛失物のお知らせ(実際の利用数は少なかったが)などに使われていた。

主催者側は今回、リアルタイム討論の枠を広げるべく、LCA 2007および進行中の各プレゼンテーションルーム別にFreenodeを利用したIRCチャンネルを用意していた。講演中のIRCチャットは最小の量で収まっていたが、プレゼンテーションルームの外にいる人間の便を図って、講演内容をリアルタイムで実況中継しようとしている参加者も何人かいたようだ。

LCA 2007の他の開催日と同様、この木曜日も楽しくかつ有益なイベントがそろっていた。本コンファレンスは金曜に最終日を迎えるが、コンファレンス閉会後の土曜日にも、即席クリケット大会やLinuxchix主催のブルーマウンテンズ観光ツアーなど、各種の非公式イベントが予定されている。

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