インドの子供たち5億人への援助の鍵を握るオープンソース

教育を必要とする65万を超える村々と5億人の子供を支援するため、2001年にインド工業連盟(Confederation of Indian Industry:CII)によって設立されたのが非営利組織Shiksha Indiaである。Shikshaが主導する活動の1つとしてオンライン共同Webポータルの設立があり、同サイトは先月、インド大統領の手によって公式な式典の場で立ち上げられた。このeラーニングおよび協調のための新ポータルには、Moodle、Drupal、MediaWikiといったオープンソースのテクノロジが採用されている。

CII-Shiksha Indiaが重点的に取り組んでいるのが、各学校にコンピュータ、連携性、コーチング(教員向け研修)、コンテンツ、活動の持続性という5つの基本的なニーズを満足させるための活動である。連携作業の進行とコンテンツの記述は英語、タミル語、ヒンディー語で行われており、今後このプロジェクトが発展すればさらに多くの言語への対応が予想される。この活動では、テクノロジを利用できる人々とそうでない多くの貧しい人々との格差の解消に、オープンソースのツールが大きな役割を果たしている。

CII-Shiksha IndiaのプロジェクトマネージャNarinder Bhatia氏は「使い方にもよるが、オープンソースには教育課程に著しい変化を与える力がある、と我々は堅く信じている」と語る。

「連絡や所用の多様な手段としてオープンソースを利用しているほか、我々はCamStudioやZipGeniusのようなオープンソース・ツールを使って研修プログラムの提供を行っている」(Bhatia氏)。また、Shikshaは、オープンソースの利用法を扱った詳細な研修プログラムも採り入れている。

プロジェクト各フェーズの鍵となるオープンソース

Shikshaの学校どうしが協力するためのeラーニング・ポータル
Shikshaの活動計画は、4つのプロジェクト・フェーズに分かれている。フェーズ1では、Shikshaが関わる学校や諸団体に対して研修や養成を実施するための教育コンテンツの提供に注力する。フェーズ2では、オープンソースソフトウェア(OSS)を活用して教育組織の連携、育成、啓発を促進する。フェーズ3には、インドIT産業界のパートナー組織が関与する各種プログラムが含まれる。フェーズ4では、国による教育リポジトリが設置され、これはインド全体の学校組織にツールを提供するのに役立つ。

Bhatia氏は、オープンソースがShikshaの戦略においてこれほど重要な役割を果たす理由として、次の5つを挙げている。

  1. 教育コンテンツの作成にあたってShikshaから出資する必要がない
  2. 各学校への出資額を低く抑えることができる
  3. 教育およびそれ以外の双方のニーズを満たすツール群が利用できる
  4. 最も適したプロダクトを自由に選択できる
  5. すべての教育専門家および学校に最終プロダクトの品質判定に参加する機会を与えられる

「CII-Shikshaは、オペレーティングシステム(Linux)、アプリケーション(学習管理システムやWebポータル)、ハードウェア・ソリューション(Linuxシンクライアントによるネットワーク)など、さまざまなレベルでオープンソース・ソリューションを提供しようと絶えず努力している」とBhatia氏は話す。Shikshaのオフィスにはオープンソース・ツールが溢れ、日常業務の大半はUbuntuとOpenOffice.orgを起動したコンピュータ上で処理される。

Shikshaが発展を支援する学校組織の多くは、金銭面で過度の困窮状態にあり、基本的な教育支援を受ける余裕さえない。Shiksha上層部では、オープンソースの利用をインドの極貧地域を変革する鍵と捉え、地方の権限を拡大する手段としても見ている

こうした学校の多くは個々の教員や専門家にテクノロジを利用させることにも関心を寄せているが、そのためには排他的でないライセンスのもとでソフトウェアを自由に配布できる必要がある。

Linuxは、限られたテクノロジ基盤しか持たず、旧式のコンピュータや修理されたコンピュータに頼ることが多い非政府組織(NGO)や教育機関でも使われつつある。これらの組織では、シンクライアントから接続可能で旧式のPCでも実行できるEdubuntuやK12LTSPのような教育向けLinux環境が用いられている。

また、現地の言語(ヒンディー語やタミル語など)に合わせてソフトウェアのカスタマイズや提供ができるという、オープンソースに関するメリットもある。こうした目標を果たすべく、Shikshaは、ノイダ(Noida)にある先進コンピューティング開発センタ(Centre for Development of Advanced Computing:CDAC)と提携している。

Bhatia氏は、各種オープンソースツールの展開を共同サイトとCD-ROMベースの両方の形で実施してきた経験から、オープンソースには良い面だけでなく悪い面もあると述べている。「OSSの良いところは、何でも自分の思ったとおりに進められる点だ。もはや外部のサポートに頼る必要はなくなる」。あれこれ言われることなくカスタマイズできるのはすばらしいメリットであり、特に教育用ツールのローカライズ版を作る際にはこの部分が大きく利いてくる、と彼は言う。

「悪いところは、種類がたくさんあり過ぎるためにOSSの初心者を何を使うべきかで混乱させてしまうことだ」。プロジェクトによっては自分たちのソフトウェアが最高だとあくまで言い張るところもあり、それがこの問題をさらに悪化させることも少なくない、ともBhatia氏は語る。

インドにおけるオープンソース・プロジェクトの将来

Shikshaは、オープンソースを利用したさらなる教育的連絡手段の開発も計画している。その目的は、インドの他の組織に模範的取り組みの例を示すことにある。Bhatia氏は「教員向けのeラーニングポータルを設立したことで、オープンソースを利用して生徒や保護者、教育機関といった他の関係者の役に立てるという自信が深まった」と言う。

今後Shiksha Indiaが関わる活動の1つは、パートナー組織がプロプライエタリなソフトウェアからオープンソースソフトウェアに移行するのを支援し、オープンソースを利用するメリットを提示することである。

もっぱらShikshaは、インド国内でもテクノロジの普及していない郊外地域への働きかけを行い、そうした地域がコンピュータに対する理解を深める手助けをしている。オープンソースソフトウェアは、インドにいる5億人近い子供にテクノロジと教育を行き渡らせる計画の大きな鍵を握っている。

Mark Raisはフリーランスの技術ライタであり、Reallylinux.comのシニア・エディタも務めている。

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