Debianプロジェクトリーダーの候補者に訊く

今年もまた、Debianプロジェクトが新しいプロジェクトリーダーの選出に向けて動き出した。投票は今月下旬に始まる。昨年と同様、Debianプロジェクトリーダー(DPL)候補者に、次年度のDebianプロジェクトが直面する問題について意見を求めた。

9名中6名の候補者が、我々の質問に対して電子メールを返してくれた。Steve McIntyre氏、Sven Luther氏、そして現職DPLのAnthony Towns氏の回答は、本稿の執筆時点で届いていない。我々が受け取ったのはWouter Verhelst氏、Aigars Mahinovs氏、Gustavo Franco氏、Sam Hocevar氏、Simon Richter氏、Raphaël Hertzog氏からの回答だ。

我々に宛てたものではないが、Towns氏とMcIntyre氏は選挙綱領を発表しており、その内容はDebianの投票Webサイトで公開されている。なお、Luther氏は、debian-voteメーリングリストでも投稿が比較的少なく、選挙綱領も公表していない。

Debianにとって重要なこと

最初の質問は、来年度のDebianで最も緊急性の高い問題は何か、というものだった。回答の内容には、興味深い広がりが見られた。Franco氏は、Etchリリース後のDebianは「Lennyのリリース計画を最初の時点からきっちりと練り上げ、本格的な目標ベースのリリーススケジュールに切り換える作業を進める」べきだ、と答えている。これを受け、Franco氏は次のように提案している。「準備が必要な重要コンポーネントが何かを明らかにしたうえで、このアプローチに従ってその他のコンポーネント(15,000を超えるパッケージ済みのソフトウェア)に取り組む必要がある。それができなければ忙しさから開放されることはないだろう」

これまでと同様、Debianの大きな問題の1つはコミュニケーションにあると述べているDPL候補者が何名かいる。Hertzog氏は、コミュニケーションが来年度の最優先事項だと述べている。「あまりに多くの開発者が主要な開発チームを信用できなくなっている。それは、彼らの意思疎通のやり方がまずく、開発者からの支援を受け入れているようにも求めているようにも思えないからだ。それが大事に至ることはほとんどないが、自らのプロジェクトを進めることができるようになるために、ほかの人々の仲間に加わらなければならないのはとても面倒なことだ」

Hertzog氏は、このコミュニケーションの問題を解決するために「問題のあるチームと連携して意思疎通のプロセスを強化し、実際に新たなボランティアの募集と指導を行うつもりだ」という。

Richter氏の回答にはDebian自体の健全性への懸念が表れており、最も緊急度の高い問題は「プロジェクトの崩壊を回避すること」としている。彼の懸念にもコミュニケーションの問題が関係している。「プロジェクトの規模は、全メンバーどうしが互いに知り合いになれないほど大きくなっている。私も最善を尽くしてはいるが、例えば、南米のメンバーとはほとんど連絡を取り合っていない。その結果、地理的な事情や共通の関心に基づいて下位グループが形成されている。こうしたことは普通、カンファレンス開催の時間帯やDunc-Tankのケースにおける報酬のような、争う必要性を感じさせる何かを持ち込まない限り、問題にならない」

Hocevar氏も「内部のコミュニケーションが不十分」なために開発者がやる気をなくしている、と答えている。Hocevar氏はDebianコアチームの増員を約束すると記しており、そうすれば「物事が速く進み、適切な報告を求めることで、人々は作業の遂行を拒否するか他人に任せるかのどちらかを選ばざるを得なくなる」と述べている。

また、Debianが「ユーザにとって魅力的でなくなっている」点にもHocevar氏は言及する。彼の綱領には、Debianは「魅力を取り戻す」必要がある、と記されている。

「FreeBSDのWebサイトでさえ、我々のサイトよりは魅力的だ。これでどうやってユーザの関心を惹くことができるというのか。Internet ExplorerでDebianのWebサイトがどのように表示されるか、見たことがあるだろうか。Debianは、莫大な数のユーザをUbuntuに奪われた。確かに、UbuntuはDebian以外のディストリビューションやWindowsからも多くのユーザを獲得している。しかし、だからといってDebianを単なる『Debianベース・ディストリビューションのベースになっているディストリビューション』にしておいてよいわけがない。もっと魅力的にすることで、我々だって新しいユーザを獲得できるのだ」

Mahinovs氏にとっては、「冷静になって前向きに考える」ことが来年度の目的だという。Etchは年内にリリースすべきだが、「リリースサイクルの度重なる短縮」はDebian開発陣にストレスを与えている、と彼は語る。「私なら任期中はEtchのリリースのみを提案し、それ以降は長期的な計画について議論しながら、私の綱領に掲げた数点のアイデアのような未踏の領域にDebianを導くだろう」

新メンバーについて

Debianについてよく耳にする不満は、前途有望な開発者が投票権とアップロード権限を持つ1人前のDebian開発者(DD)になるまでに長い時間がかかることだ。1年以上待たされることもある。DPLとしてこの問題に取り組むべきかどうか、候補者たちに尋ねた。

数名の候補者は、長い期間を経てDDになるのが望ましい、という意見だった。Richter氏はこう答えている。「実際のところ、この期間が長いのは好ましいことだ。「正式」な開発者になることで得られるものが2つある。投票権と、アーカイブ管理ソフトウェアによって処理するためにアップロード対象に署名する権利だ。DDでないからといって自分の名前でアップロードできないわけではない。ただ、その場合は、最初にほかの誰かに目を通してもらう必要があるというだけだ」

「つまり、実際に自らが誰かに働きかけ、自分のパッケージを見てもらったうえでアップロードを行わなければならない。普通は、絶えず連絡を取って質問を投げることのできる何人かの「デフォルト」の支援者についてもらえば済む。そうすれば、実際に顔を合わせても、少なくとも1つは共通の話題があるわけだ。このように、このプロセスは、支援者との人間関係をつくることを通してコミュニティの形成に役立っている。それが長い期間にわたることで、出会ったことのないコミュニティの人々との結束を深めるある種の通過儀礼になっているわけだ。こうした認識は、それまでは与えられることがなく代理人を立てても行使できなかった正式な権利(投票権)を受け取ることでいっそう強められる」(Richter氏)

Mahinovs氏は、Debianの新しいメンテナプロセスを体験するには1年が妥当な長さだと回答している。「Debian開発者は、実質的に任意のDebianマシンへのrootアクセス権を持つことになる。したがって、その候補者の審査は、忍耐力の評価も含めて非常に注意深く行う必要がある。それには、メーリングリストでの議論の内容が参考になる。しかし、新しいメンテナプロセスは1年以上に及ぶこともあるので、ときどきは詳しく調査する必要があるだろう」

一方、Franco氏は、このプロセスには数ヶ月以上かけるべきではないと記し、新人メンテナを抱えているチームには要員の追加を認めてプロセスの短縮を促すべきだ、と提案している。また、Hertzog氏は、1人前の開発者になるまでの1年という期間設定に問題はないが、Debian開発者以外の人に対しては制限付きのアップロード権をもっと簡単に認めることができるようにすべきだ、と記している。

Dunc-Tankと資金供給

スケジュールどおりにEtchをリリースするためにDebianリリースマネージャへの報酬支払いを求めたDunc-Tankプロジェクトは、Debian開発者の間に相当な論争を引き起し、Towns氏のDPL罷免決議案(最終的には否決された)の提起にもつながった。ただし、結果的にDunc-Tankは目的を達成できず、Etchのリリースは今もまだ完了していない。

Dunc-TankのボードメンバーだったHertzog氏は、この試みから開発者が得た教訓について「プロジェクトを運営するのに十分な資金を得ることはできるが、そのお金のせいで手に余るトラブルが起こり、プロジェクトの適切な運営は果たせなかった」と述べている。しかし、それでもHertzog氏は、「Debianにおけるオープンな資金供給のしくみ」という一般的な考え方を支持している。「そうしたしくみがどうすればうまく機能するのかを見いだすのが私の長期的なテーマだが、DPLに選出されれば、それは私の優先事項ではなくなるだろう。我々には、ほかにもっと急いでやるべきことがある」

Hocevar氏は、Dunc-Tankのような組織を介して資金を提供するのではなく、GoogleのSummer of Codeのような取り組みを支持したい、と述べている。「私の主な関心は、その資金がどこから供給されたか、その使い途を誰が決めたか、優先順位がどのように決められたか、にあった。決して過激な反対に合うことのない形でDebian開発者に資金を供給する方法はいくらでもある。例えば、Google Summer of Codeのような活動がそうだ」。ただし、Summer of CodeのようなしくみとDunc-Tankのような資金供給のしくみの間には「中間領域」が存在する、とも彼は述べている。

また、Verhelst氏は、Debian開発者に報酬を支払うことそれ自体は問題ではない」が、「報酬を得ている者とそうでない者の双方からなる委員会によって意思決定を行う体制を作るのはあまり賢明なやり方ではない」と記している。

多くの候補者は、外的な手段によってDebian内の開発に資金を提供するのが得策だろう、と述べている。Dunc-Tankの方法は「間違っていた」がDebianの開発を支援する外部の組織であればうまくいくはずだ、と述べているのはRichter氏である。「例えば、別の方法をとるなら支援するなどという条件を付けることなく、コンピュータメーカーが移植を支援してくれる可能性もある」

Mahinovs氏は、資金供給について次のように記している。「どんな形であれDebianやSPI(Software in the Public Interest, Inc)が深入りしてはならない問題であり、そうした報酬を得ている個人の成果物がDebianに採用されることを、Debianは一切保証してはならない。お金はプレッシャーを生み出す。そのため、大規模なプロジェクトでは、企業に雇われた開発者による変更内容をレビューする手段をボランティア開発者に与えることにより、一切の悪用を防ぐべきだ」

Franco氏は、Dunc-Tankのような別のプロジェクトを試みたりはしないが、「資金に関しては、Debianプロジェクト全体として調達し、イベントスポンサにもっと注意を向けるだろう」と答えている。

選挙のスケジュールと手続き

Debianでは、DPL選挙にコンドルセ法(Condorcet method)を採用している。投票者は、1人の候補者に投票するのではなく、各投票者の順位づけを行うというものだ。なお、Debianの投票方法の詳細は、Debian憲章に記されている。

DPLの地位をめぐる選挙運動は3月18日まで続き、その後、4月8まで投票が行われる。Debianの投票ページによると、今回の選挙で投票権を持つDebian開発者は1,013名にのぼるという。

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