ChangeLog:FSFの2つの賞はSahana ProjectとTed Ts'oの手に

 Free Software Foundation(FSF)が2006 FSF Awardsの受賞者を発表した。Award for Projects of Social Benefitは災害救援活動を管理するために創設されたフリーソフトウェア・プロジェクトSahanaに、Award for the Advancement of Free Softwareは、Linuxカーネルに関する仕事など、フリーソフトウェアに対するTs’oの生涯にわたる貢献を讃えてTheodore Ts’oに贈られた。

 Sahanaは、2004年に大津波が東南アジアを襲った際、その災害救援活動の中で始まった(昨年の記事参照)。立ち上げたのは、Lanka Software Foundationのスリランカ人開発者たちだ。3日間で最初のバージョンを作り上げ、以来開発を続けてきた。目的は、消息不明者の検索やボランティアの調整など、災害救援活動に共通する問題に対処することだ。Sahanaは、現在、スリランカ赤十字社やスリランカ政府の災害管理センターで使われているほか、フィリピンの非政府組織Bicolreliefや国際的な人道援助団体Humanitarian Emergency Logistics and Preparednessで採用されている。米国でも、民間と米軍の災害対応演習Strong Angel IIIで使われた。

SahanaプロジェクトのメンバーたちとRichard Stallman(クリックすると大きな写真が見られます)

 この賞について、FSF会長Richard StallmanはFSFの年次総会で次のように述べている。「Sahanaプロジェクトはフリーソフトウェアを使って素晴らしい成果を上げています。その話を聞いて、私たちはこの賞を創設しようと考えたのです」

 授賞式には、Sahana創設チームから、プロジェクト・リードのChamindra de Silva、リード・デベロッパーのPradeeper Dharmendra、Ravindra de Silva、Mifan Careem、メリーランド大学教授Louiqa Raschid(コンピューター科学)、IBM Crisis Response TeamリーダーRent Hailpernらが出席した。

 Linux.comの人々を前に、de Silvaは次のように挨拶した。「これまで長年にわたり蓄積されてきた数千数万という膨大な数のフリー・オープンソース・コンポーネントがなければSahanaの実現は不可能だったでしょう。私たちは確信しています――フリーソフトウェアは人道問題のための中身の見えるツールや国際的な公共物を作る上で素晴らしい道具であることを。今回の受賞によって、こうした活動への支援・協力が増えることを願っています」。そして、Sahanaコミュニティーには「この賞は皆さんに与えられたものです」と述べ、感謝の意を表した。

 現在IBM Linuxテクノロジー・センターに勤務するTs’oは、1991年9月以来Linuxカーネルに関わってきたが、その頃のことをLinux.comの人々を前に次のように述懐した。「あの頃は、Linuxの仕事をするのが楽しかったですね。それに、あちこちのカンファレンスにただで出掛けられましたし。シリアル・デバイス・ドライバーやLinuxのttyレイヤー(POSIX.1ジョブ制御のサポートを含む)、それからext2/3とそのユーザー・スペース・ユーティリティーであるe2fsprogsなどの仕事をしました」。最近では、ext3の後継であるext4ファイルシステムに取り組んでいた。Ts’oはまたDebian開発者でもあり、自身の初期の仕事に関係するものも含め、約20種のパッケージを保守している。

Ted Ts’oとRichard Stallman(クリックすると大きな写真が見られます)

 GNU/Linuxに関する仕事のかたわら、Ts’oは、KerberosとOpen Network Computing Remote Procedure(ONC RPC)開発チームのリーダーも務めてきた。さらに、IETF(Internet Engineering Task Force)でも活動しており、いくつかのワーキング・グループを主宰または共同主宰している。

 受賞の挨拶で、Ts’oは自分の仕事について次のように語っている。「大変面白いものでした。しかし、常に私が誇りとしてきたのは、私がフリーソフトウェアの理念を推し進めるために取り組んできた仕事の成果が実際に使われているという事実です」

 Award for the Advancement of Free Softwareは1998年に始まり、毎年、コミュニティーが推薦した個人に授与されている。過去には、Larry Wall、Miguel de Icaza、Lawrence Lessig、Alan Coxらに授与された。今年最後選考にまで残ったのは、Ts’oのほか、Wietse Venema(Postfixメール・システムの作成とセキュリティー・ツールに関する業績)とまつもとゆきひろ(Rubyプログラミング言語の設計)の2人だった。

 Award for Projects of Social Benefitは2006年に始まった賞で、今年はその第1回。選考には、Sahanaのほか、1971年から小説等の機械可読テキストを無償で提供しているProject Gutenbergと開発途上国向けに安価なコンピューターを開発しているOne Laptop Per Childの名が挙がっていた。

Bruce Byfield コンピューター・ジャーナリスト。NewsForge、Linux.com、IT Manager’s Journalの常連。

Linux.com 原文