必要としている人と必要とされている人をつなぐFree Geek Vancouver

 Free Geekは、オレゴン州ポートランドの非営利団体だ。コンピューター関連機器をリサイクルし、フリーソフトウェアを搭載したコンピューターを、それを必要とする団体や個人に配布している。創設は2000年2月。それ以来、北米の多くの都市に同種の団体が生まれた。つい最近カナダのバンクーバーに設立されたFree Geek Vancouverもその一つ。同団体を立ち上げコーディネーターを務めるDavid Repaに、設立の理由と課題を聞いた。

 自動車部品リサイクル業に従事していたRepaはDebianユーザーであり、コミュニティーの活動家でもあった。Repaの住むアパートには、コンピューターを買う余裕のない人がいる。彼らのためにシン・クライアントを用意しようと、RepaはLinux Terminal Serverプロジェクトを調べていた。RepaがFree Geekの存在を知ったのは、そのときである。Free Geek運動の先駆けとなった団体はRepaがよく訪れるポートランドにあった。そこで、2006年10月にポートランドに出掛けた際、Repaは同団体を訪れ施設を見学した。「猫の額ぐらいの広さだろうと思っていたら、1400平方メートルもありました。通路の両側にモニターや本体がずらっと並んでいるのを見て、すぐに、これこそ自分のやるべきことだと直感しました。自動車の解体処理とちょうど同じです。自動車がコンピューターと教育になったわけです。ですから、本当にワクワクしましたよ」

 帰宅したRepaは仕事を辞め、バンクーバー版Free Geekを設立しようと友人たちに呼びかけた。そして、ポートランドに戻り元祖Free Geekでボランティアとして2週間ほど働いてから、設立準備に取りかかった。そのとき、何の巡り合わせか、バンクーバーのサイクリング愛好家のサイトMomentumがFree Geekに関する記事を掲載していた。Repaは早速手紙を書き、記事の執筆者に団体設立に関する助言を求めた。そこから、Repaが「雪だるま式」と述懐するように、人が人を呼び事態は急展開していった。かくして2006年11月1日、Free Geek Vancouverの第1回総会が開催されたのである。

フリーソフトウェアと活動家が出会うとき

 Free Geek Vancouverのメーリング・リストの参加者は現在約50名。中核となる専任ボランティアは6~7名だ。女性は4割ほどで、フリーソフトウェア・コミュニティーとしては例外的に多い。

 設立にMomentumが協力したからだろうが、中心メンバーを含め、参加者の多くはサイクリング・コミュニティーのメンバーだ。たとえば、理事会メンバーのIfny Lachanceは「ギーク・コーディネーター」と書かれた名刺を持つかたわら、地元のキャンパス・ラジオでPedal Revolutionaryという番組を持ち、サイクリストたちが模擬戦に興じるBicycle CARcassという催しを運営している。自転車愛好家たちは、PortlandのFree Geekコミュニティーでも活動的だ。

 実際、Repaに言わせると、フリーソフトウェアとサイクリング愛好家の間には本質的な類似性があるそうだ。自転車愛好家と「Linuxの利用者はよく似ています。自分でやるという発想。自分の手を動かし自分で修理するという点。自転車もさらけ出された状態で目の前に存在し、自由に改造することができます。これに対して、自動車はマイクロソフト(オペレーティング・システム)に少し似ているでしょうか。自分では修理できませんし、状態を完全に把握することもできません」

 さらに重要なのは、フリーソフトウェアと自転車愛好家が基本的な姿勢を共有している点だ。「ほとんどの自転車愛好家は反企業・反体制的です。人々が助けあい自分たちの道を発展させることに価値を見いだしています。店に行って出来合いの物を買うという発想がないのです」

 Repaは合意的意志決定における人間関係と経験を重視しているが、それは自転車愛好家たちがFree Geekに持ち込んだものだ。その一方で、Repaは次の点も強調する。「私は誰をも拒もうとは思いません。Free Geekには保守的なグループの人々もいます。コミュニティーを作るなら、いろいろな立場の人々を受け入れないわけにはいきません。もしそうしなければ、コミュニティーではなく派閥になってしまいます。それはエリート主義であり、Linuxはそうした見方を打ち破る必要があります。一般の人々の多くは、Linuxを動かせるには賢くなければならないと考えているのですから」

 その上、大きく活発なコミュニティーは「多数の目や耳を持っているようなもの」だという。それがなければ、Free Geek Vancouverに成長し組織として確立する可能性はないだろうとRepaは考えている。

 コミュニティーの成長を促すために、Free Geek Vancouverの定款には、ポートランドのFree Geekと同様、合意的意志決定が謳われており、ほかのメンバーから威圧されないことを保証するためのいわゆる安全空間ルールが含まれている。「私たちの会合に参加して合意の過程がどういうものかを見たらびっくりするでしょうね。大概の人は仕事を指示されるのに慣れており、指示がなければ立ち止まってしまいます。そうした人々の中では、長年自分で考えて動いてきた活動的なボランティアが役に立ちます」

コミュニティーを作る

 設立間もないコミュニティーの例に違わず、Free Geek Vancouverも助成の申請やスポンサー探しに多くの時間を費やしている。寄付金や再生したコンピューターの販売で幾ばくかの収入はあるが、財政はまだ不安定だ。Repa本人は、両親や友人(匿名希望)からの「ごくわずかな金」でしのいでいる。将来はFree Geek Vancouverのコーディネーターとして給料がもらえるようにしたいと語るRepaだが、今は「自分の給料より施設やイベントが優先です。小切手よりも、施設が欲しい」という。

 現在Repaのアパートと臨時保管場所を使って活動しているFree Geek Vancouverにとって喫緊の課題は、リサイクル活動のための恒久的な場所を見つけることだ。「今是非とも必要なのは運営のための場所です。寄付があるといいのですが。そうすれば、現在支払っている事務所の賃貸料を心配する必要がなくなります」。市に支援を要請しており、バンクーバー市長からの返事を待っているところだ。事務所の候補地の選定は済んでいる。

 「拠点となる建物ができたら、規模を大きく拡大できるでしょう」。リサイクルのわずかな手数料と中古店でのパーツ販売でしのぎつつ、Repaは「3~5年で」軌道に乗せようと考えている。

 組織はまだ固まっていないが、Free Geek Vancouverはすでに活動を始めている。総会のほかに、Windowless Wednesdaysと名付けたフリーソフトウェア・クリニックやFree Geekの目標に関連した映画の夕べなどを開催している。

 また、コンピューターとインターネットへの無償アクセスの提供を目的とする団体Vancouver Community Networkといった地元ユーザー・グループなど、ほかの技術集団へのプレゼンテーションにも力を入れる。コンピューターを寄付してくれた企業もすでにあるが、トレード・フェアに参加して地元ビジネス・コミュニティーとのつながりを広げようともしている。最近では、Massive Technology Showに参加した。

 組織を固め連携を広げる活動の一方、Free Geek Vancouverは、その趣旨に沿った活動にも着手しており、フリーソフトウェアを搭載したコンピューターが少しずつ出荷され始めている。

 「私は人が関心を持ち何かを学ぶのを見たいのです。だから、この仕事をしているのです。ハードウェアでもLinuxでもありません。誰かを導き、その人がほかの誰かを目覚めさせていくようにしたいのです」

Bruce Byfield コンピューター・ジャーナリスト。NewsForge、Linux.com、IT Manager’s Journalの常連。

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