Linuxユーザーにとって、DRMフリーiTunesの意味するもの

 Appleは、近々、自社のオンライン・ストアを通して、Linuxシステムでも再生可能なオーディオ・トラックの販売を開始する。しかし、Linuxから購入できないのは相変わらずだ。

 4月2日、Appleと音楽レーベルEMIはロンドンで記者会見を開き、EMI所属アーティスト(一部)のトラックを暗号化されていないAAC形式で提供すると発表した。5月からiTunes Storeを通して販売する。ビットレートは、標準料金の場合の128Kbpsに対し、256Kbps。これにより、従来の制限された形式に加え、制限がなくハイビットレートのトラックが30%高い価格で販売されることになる。

 Linuxユーザーにとって、このニュースは明らかに朗報だ。なにせ、これまではiTunes Storeで曲を購入しても、それが制限されたM4P形式であるために、WindowsやMac以外の機器で聞くのは、控えめに言っても、難行苦行だったのだ。この提携に何らかの秘密がない限り、FAADなどのフリー・ライブラリーを使えば、ほとんどのLinuxオーディオ・プレーヤーで、今後提供されるAACファイルを再生できるはずだ。

 もちろん、M4Pファイルの標準AACへの変換は、JHymnやQTFairUseなどのプロジェクトで繰り返し追求されてきた。しかし、復号できるのが通常の再生速度に限定されていたり、公式iTunesクライアントのプラットフォーム上に限られていたりと、使いやすいソリューションと言えるものはなかった。その上、「軍拡競争」――AppleがiTunesアプリケーションを定期的にアップデートし、ストアは現行の復号ソリューションを打ち切る――が繰り広げられていたという事情もあった。

 EMIとAppleの提携は音楽ビデオも対象としており、暗号化されていない形式――現在は暗号化MPEG4形式を使っているので、おそらく標準MPEG4だろう――で購入できるようになる。これにより、これらのファイルをLinuxで再生する障害もなくなるはずだ。

 しかし、Linuxでも再生できる商品をiTunes Storeから購入するのが容易になったわけではない。依然として、iTunesアプリケーションでなければストアにアクセスして購入することはできないのだ。WINEでWindows版iTunesを動かすという手もあるが、ひいき目に見ても、賭をするようなものだ。私はかつて成功したことがあるが、Appleが互換対策にアップデートを繰り返していることやWINEの複雑性を考えると、期待できるソリューションにはなり得ない。

 かつては使えたスタンドアロンiTunes Storeクライアントも期待薄だ。SharpMusiqueとそれに基づくBanshee用プラグインだが、どちらも保守がほとんどなされていない。SharpMusiqueをリリースしたJon Lech Johansenが、リリース後、iTunesのトラック暗号化のリバースエンジニアリングを行いライセンスするための会社を立ち上げたからだ。

 iTunes Storeが暗号化された商品を独占的に販売するには、ストアにアクセスするためのクライアントを公式に認可されたものに限る必要がある。なぜなら、iTunes Storeの場合、暗号化の責任はクライアント側にあるからだ。ダウンロードするのは暗号化されていない生のバージョンであり、それをクライアントが一意的なユーザー・キーで暗号化するという仕組みなのだ。だが、暗号化しないことになれば、最早、クライアントを制限する必要はない。iTunes以外のクライアントがストアにアクセスすることを許しても収益に問題は生じないし、それ以上に、多くの顧客から歓迎されるのは間違いないだろう。Appleの会計士が商機に聡かったのは確かだが、暗号化が必要な商品を残す限り、その先はない。

 願わくは、EMIとAppleの提携が来るべきもの――制限のない形式、制限のないアクセス――の先触れであらんことを。

NewsForge.com 原文