ESECリポート:高度化が進む組み込み分野

 5月16~18日の3日間、今回で第10回目となる「組み込みシステム開発技術展(ESEC)」が開催されている。本稿では、ESEC展示会場で見つけた気になるデバイスを中心にリポートする。

*
写真1:8つの展示会を同時開催

 今会期中、東京ビックサイトではESECを含めて8つのIT関連展示会が同時開催されている(写真1)。

 8つの展示会場の合計面積は東京ドーム(グラウンド部分)の約5.5倍ということで、歩いて回るだけでくたくたになる、非常に規模の大きな展示会だ。

動作テストを自動実行

*
写真2:GS-8900 Software-DV System

 まずは、日立グループの出展物から見ていくことにしよう。

 写真2は日立アドバンストデジタルが展示していた「GS-8900 Software-DV System」。Agilent Technologiesの製品で、組み込み機器の動作テストを自動実行する装置だ。ロボットアームで対象機器のボタンを操作して、その動作を検証するためもの。あらかじめ登録しておいた基準イメージとCCDカメラがとらえた実機の画面イメージを比較して正しく動作しているかどうかを判定する。ロボットアームの制御スクリプトはEclipse上からJavaで記述することができ、プログラマでない人向けにビジュアル・プログラミング・インタフェースも提供されるという。

 デモでは携帯電話のテストが行われていたが、カーナビなど人間が操作するデバイスなら大抵のものがテストできるそうだ。

組み込みLinuxにもSELinuxを

*
写真3:SELinuxを適用したLinux Zaurus

 日立ソフトウェアエンジニアリングでは、「組み込み機器向けセキュアOS」が参考出品されていた(写真3)。組み込みLinuxにSELinuxを適用したもの。組み込み機器向けにSELinuxのスリム化とポリシーの開発が行われているそうだ。これで動作するZaurusでは、許可のないファイル作成はrootでも実行できないというデモが行われていた。

 組み込み機器にSELinuxというのは少しスペックオーバーなような気もするが、組み込み機器のネットワーク接続が一般化しているためセキュリティ対策の重要性が今後広く認知されるようになるだろうとのことである。

宝石のようなつややかな合成音声

*
写真4:Ruby Talk

 写真4は、日立超LSIシステムズの合成音声システム「Ruby Talk」の展示。イントネーションで識別できるものの、非常に滑らかでハリのある肉声に近い音声が合成されていた。言語解析能力も高く、「会議に行った(いった)」と「会議を行った(おこなった)」をきちんと読み分けることができる。対応OSはWindows CE、ITRON、T-Kernel、Linuxで、省リソース版は1MB RAMおよび3MB ROMで動作する。Nintendo DS版もあり、これを使用したタイトルが6月に発売されるそうだ。念のため聞いてみたが、製品名の「Ruby」は、宝石のルビーと振り仮名のルビをかけたもので、スクリプト言語のRubyとは関係ないそうだ。

無線センサーネットワーク

*
写真5:400MHz帯 特定省電力無線 スターターキット

 次はNECグループ。写真5はNECエンジニアリングの「400MHz帯 特定省電力無線 スターターキット」だ。工場や農場などで無線センサーネットワークを使った無人監視・制御を実現するための評価キットで、無線ユニット、評価基盤、設定・監視用ソフトウェアなどをセットにしたもの。

 無線ユニットは中継局も兼ねており、ツリー状のネットワーク構成で最大64台までの無線ユニットを接続することが可能。無線規格はARIB STD-T67で、無線ユニット間の通信距離は約500mとのことだ。

サーバ向け10GbEカード

*
写真6:10GBASE-SR対応ネットワーク・カード

 次の写真6は、NECシステムテクノロジーが参考出品していたサーバ向けの10GbEカード(試作品)。10GbEはスイッチ間の接続などで使われるようになっているが、サーバやクライアントといったネットワークの末端では対応製品がほとんどない状態。この試作品の対応スロットはPCI Express x8で、接続規格は光ファイバを利用する10GBASE-SR。当然、TCP/IPオフロードエンジンも搭載されている。ビデオ・オン・デマンドなどの広帯域を必要とするサーバでの利用が想定されているとのこと。

128コアの超並列プロセッサ

*
写真7:IMAPCARのデモ

 NECグループ最後に紹介するのは、NECエレクトロニクスの車載向け動画像認識プロセッサ「IMAPCAR」の展示(写真7)。IMAPCARは128個の演算コアを持つ画像処理用の超並列プロセッサ。これを利用することで、衝突回避や車線変更アシストなどを実現できるという。ラジコンカー搭載のCCDカメラの映像をIMAPCARで処理し、白線からはみ出さないようにラジコンカーを制御するというデモが行われていた。これを見ると、完全自動運転も夢ではないと思えてくる。

GPUで数値演算

*
写真8:GPUクラスター用ライブラリのデモ

 まだ日立グループとNECグループの計6社しか紹介していないが、最後に1つだけ紹介し、続きは明日のリポートにまわしたい。

 紹介するのは、IPAのブースにあった理化学研究所のコーナー。ここでは、GPU(グラフィックスカード)を汎用の数値演算プロセッサとして利用するためのGPUクラスター用ライブラリを使ったデモが行われていた(写真8)。ユニファイドシェーダー搭載のNVIDIA GeForce 8800 GTXを用いて、2つの銀河系の衝突をシミュレートするという内容で、演算性能が画面上にリアルタイムに表示されるという仕掛けだ。

 GPUクラスター用ライブラリを用いてGeForce 8800 GTXに計算させると、190GFLOPS前後の値が得られていた。

 ちなみに、このライブラリを使わずにCPUだけで計算させると、Core 2 Duoでも0.3GFLOPS程度しか得られなかったそうだ。もっとも、これはSSE系の拡張命令を使わずに単純にコンパイルした場合の話で、きちんとチューニングすれば40GFLOPSくらいの性能は出るはずとのこと。それでも、GPUのほうがずっと高速であることには変わりない。

 なお、このライブラリはいまのところFedoraとDebianで動作が確認できており、6月に一般公開する予定とのことだ。