テレビを通じてフリーソフトウェアを広める

 以前は講座の立案者として教育の世界にいたので、人前で話すことに関してはそれなりの場数を踏んでいる。しかし、テレビには出演したことがなかった。とにかくそれが決め手になって『Lab with Leo Laporte(Leo Laporte研究室)』というコンピュータ情報番組のGNU/Linuxデスクトップに関する5分間のコーナーに出演することを承諾した。この番組は、カナダのG4TechTVとオーストラリアのHow-To Channelで10月11日に放映が予定されている。また、同じ日に私の出演したコーナーの映像がGoogle Videoに投稿されることになっている。編集後のシーンを観るまでは、自分の姿が専門家らしく映っているのか素人っぽく映っているのかはわからない。しかし、今回の経験から、テレビ出演全般に関するポイント、そして何よりGNU/Linuxのすばらしさを伝えるためのポイントがわかったのでお伝えしよう。

 『Lab with Leo』はLaporte氏のロングヒット番組『Call for Help(コンピュータの悩み解決)』を最近改定したもので、カナダのバンクーバーにあるGreedy Productions社が制作している。この番組には、電話による視聴者からの質問コーナー、WindowsのユーティリティからFacebookの拡張機能に至るソフトウェアの豆知識や特集コーナーがある。番組の大部分は、Laporte氏とゲストやレギュラー陣との会話を中心に構成されている。映像が話し手の顔のアップだけにならないように、セットの周りに置かれた各種のテーブルや台を映し出すさまざまなシーンが撮影される。なかには、デスクトップPCの前に座るLaporte氏の後ろにレギュラーメンバーの姿が映り、彼らにコメントを求めるというシーンもある。多忙な撮影スケジュールになっていて、4日間で番組15時間分の収録がキビキビと、それでいて愛想よく効率的に行われる。

 新調したノートPCをしっかりと抱えてバンクーバーの物騒な地区の1つを敢えて歩いて抜けると、Greedy Productionsのオフィスにたどり着いた。最近リフォームされたこの低い建物は同社の技術、マーケティング、製作の各部門で埋まっている。着いたときにはちょうど、モニター越しに別のゲストコーナーの収録が行われているのが見えた。番組制作チームと昼食をとったスタジオのセットは、カメラスタッフを収容する必要上、テレビの映像から想像されるよりもずっと大きな造りになっていた。

 ハードウェアのチェックをすばやく行ったところ、新しくインストールしたFedora 7の画面がどうしてもオーバーヘッドモニタに表示されない。すると、カメラスタッフにノートPCの画面を直接撮影するしかない、と言われた。その結果、困ったことに私はPCの画面を斜めから見ることになり、マウスを持つ手が画面に被らないようにとの厳命を受けるに至った。この予想外の事態に対応しきれていないうちにメイクに呼ばれ、そして収録が始まった。

 出演コーナーについての簡単な事前説明を期待していたが、プロデューサーRyan Yewell氏の説明では、Laporte氏がアドリブで番組を進め、通常はワンテイクしか撮らない、とのことだった。タイトな撮影スケジュールを考えるとそうならざるを得ないのだろうが、何でも準備しておかないと気の済まない私は少し面食らって席に着いた。同時に、これまでのインタビューをする側からされる側への立場の逆転を経験するとあって、Laporte氏がどのようにこの状況を裁くのかに興味を覚えもした。

 会ってみると、陽気に振る舞ってはいるが、テクノロジについて、そして視聴者に伝えるべきことについては確かな知識を持ち合わせた人物だった。テレビ出演の経験がなく、技術的な問題については無防備の状態だったとはいえ、話をするうちに頭の冴えている自分に気付いた。出番はあっけなく終わり、私はスタジオの隅に下がってほかのシーンの撮影を眺めながら自分の受け答えの出来を振り返った。

 あれから、テレビでフリーソフトウェアについて話す次の機会に備えて、以下のようなルールを作り上げた。

  • 何事も簡潔に:テレビのようなアナログのメディアは詳しい説明をする場ではない。視聴者もGNU/Linuxのことをよく知らないだろう。GNU/Linuxを一度も使ったことのない人の反応を頭に思い描いてみれば、説明すべきことがわかるはずだ。
  • ポイントを絞る:新しい話題を持ち出すのは2分に1つ程度に抑える。今回は6、7件くらい話題を用意していたのだが、本番ではせいぜい3つほどしか話せなかった。また、インタビュアとの間で何らかの意見交換ができる余地も忘れずに残すこと。
  • 伝えたいメッセージに集中する:視聴者に最も印象づけたいことに意識を向け、それを言葉にする。時間が足りなくなってきたら「これだけは皆さんに言っておきたいのですが…」のように前置きして発言させてもらう。
  • ハードウェアの事前チェックは念入りに:テレビ番組の技術スタッフにGNU/Linuxの熟練ユーザがいる可能性は低い。そのため、自分の用意した装置を彼らの機材につなぐのに時間がかかる可能性がある。今回のようにハードウェアのチェックを直前まで怠ると、問題やその対処に煩わされる危険がある。
  • 緊張による紋切り型発言を避ける:私が見たゲストシーンのいくつかでは質問に対する回答がほとんど「そのとおり」の一言で終わっていた。私の場合、少し口ごもることはあったかもしれないが、頭を十分に働かせて答えた。緊張で口数が減るのは自然なことだが、テレビにはふさわしくない。
  • 思想ではなくテクノロジを語る:テレビというメディアがテクノロジの詳細を伝えるのに向いていないとすれば、フリーソフトウェアやGNU GPLの定義といった哲学めいた話題はなおさらテレビ向きではない。こうした話題が出た場合は、一言一句説明するのではなく、普通のユーザにとってどんな恩恵があるのかという観点から説明を試みる。ただし、度を越すと狂信的な発言と受け取られる恐れがある。持ち時間が数分しかない場合は特にそうだ。
  • 予期せぬことを想定する:5分間のコーナーとはいえ、その制作活動は複雑である。先入観が少ないほど想定外の事態を受け入れやすく、うまく役割を果たせる(これは一種の演技。それを忘れないように)。

 自分で用意したアドバイスを活用できる機会がいつ来るのかはわからない。ただ、Greedy Productionsのスタッフのおかげで、私が番組の準レギュラーになる可能性は高まったといえる。この番組の視聴者でGNU/Linuxを使っている人々はごく少数派だが、プロデューサーがGNU/Linuxのための時間枠を取りたがっているのである。しかし、それも今回出演したコーナーでの私の見映え次第だ。それはさておき、ここに挙げたヒントが、カメラの前でアピールする機会に恵まれるかもしれないフリーソフトウェアユーザの皆さんの参考になれば幸いである。

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Bruce Byfieldは、Linux.comとIT Manager’s Journalに定期的に寄稿しているコンピュータジャーナリスト。

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