もう一つのFedora、相互運用のためのプラットフォーム

 YouTubeやFlickrあるいはWikipediaなどのオンライン・コラボレーティブ・サービスには厖大な情報が蓄積されている。しかし、こうしたWeb 2.0サービスは異種サービス間で情報を共有することを前提には作られていない。これに対して、コーネル大学のグループはこの種の新しい形態のアプリケーションは相互運用性を念頭に構築すべきだと唱え、ARPAとNSFから資金提供を受けて研究を行い、Fedora(Flexible Extensible Digital Object Repository Architecture)を生み出した。そして、そこから発展したプロジェクトが、このほど、Gordon and Betty Moore Foundationから、このソフトウェア・プラットフォームの機能拡張のために490万ドルの賞金を授与された。

 その際の提案書によると、「Fedora Commonsの提案は、研究者や教育者がその知的成果を生み出し共有する方法の劇的変化を促し情報の保全と長寿命を保証する持続可能なオープンソース・ソフトウェアに必要となる組織的技術的フレームワークを可能にする」という。

 このFedoraソフトウェアについては、聞いたことがないという人も多いだろうが、それも無理はない。Fedoraは世界中で使われているが、その場所が教育機関や文化施設に限られているからだ。たとえば、Topaz/PLoS ONEオープン・アクセス・ジャーナル・システム、National Science Digital Library(NSDL)、Max Planck Societyのサイバースカラーシップ・システム、Chicago Historical Societyのマルチメディア百科事典、Australian national institutional repository initiative(ARROW)、オックスフォード大学のデジタル・アーカイブ、Perseus humanities computing projectなどで使われている。また、同プロジェクトは、Fedoraユーザー・カンファレンスをこの2年間に6回、米国、欧州、オーストラリアで開催している。

デジタル・リポジトリーとは?

 同プロジェクトが基金に提出した提案書(PDF)によると、目標は、複雑化多様化するデジタル・コレクションの相互運用性のあるアクセスと管理を可能にする新しい情報アーキテクチャーを作ることだという。提案書は特定のプロジェクトを引用していないが、今後さまざまなプロジェクトがデジタル素材を扱うために独自のソリューションを作っていけば、個別のシステムが煙突のように林立してしまい、情報の相互接続もできず、デジタル・リソースの長期的な保全も危うくなるとしている。したがって、すでに構築したFedoraアーキテクチャーの主目標は、多様なデジタル・コンテンツのすべてを表すことのできる統一「デジタル・オブジェクト」モデルと、コンテンツへの一貫したアクセスと管理のための汎用リポジトリーをデザインすることだった。

 コーネル大学のコンピューター情報科学科のシニア・リサーチ・アソシエートであり、Fedoraを開発したFedora-Commons委員会の委員でもあるCarl Lagozeは、Fedoraの特徴について次のように話している。「Fedoraを『デジタル・ライブラリー・ソリューション』と呼ぶのはどうかと思います。コンテンツ管理、意味知識管理、Webサービス統合をつなぐサービス指向アーキテクチャーと言う方が適切でしょう。デジタル・ライブラリー・アプリケーションの基礎としてだけでなく、Web 2.0アプリケーションにも使えるのですから」

 また、OhioLINK新サービス開発部門のアシスタント・ディレクターPeter Murrayは、次のように説明する。KohaやEvergreenなどのライブラリー管理システムは物理オブジェクト――書籍・DVD・雑誌の購入、目録化、検索、貸し出し――に焦点を当てている。こうしたシステムにおいてFedoraが果たす役割を理解するために、まずYouTubeやFlickrを考えよう。こうした特化したシステムではフロントエンドのインタフェースとバックエンドのコンテンツ・リポジトリーとが密に結びついている。したがって、画像をYouTubeに保存することはできないし、動画をFlickrに保存することもできない。「学界で言えば、DSpace Institutional Repositoryソフトウェアが、これに似ています」

 こうした特化したシステムに対して「Fedoraは純粋なコンテンツ・リポジトリー・サービスです。重要なのは、エンドユーザーとは限らない、アプリケーションに対するサービスだという点。Fedoraはあらゆる種類のデジタル・オブジェクトを保管し取り出すことができます。Fedoraを使えば、アプリケーション開発者はデジタル・オブジェクトの管理を考える必要がありません。実際、画像デジタル・リポジトリー、動画デジタル・リポジトリー、wiki、ブログ、ジャーナル配信システムなど、さまざまなシステムの基盤コンポーネントになります」

ほかにはないアーキテクチャー

 Murrayの言うことが正しければ、Fedoraはコンテンツ・リポジトリーを目指しているという点でユニークな存在だ。コンテンツ・リポジトリー・システムはほかにもあるが、さまざまな利用形態を持つデジタル・データの長期的保管と保存のアプローチを採用しているものはないという。「Fedoraは、ほぼあらゆる種類のデジタル・データを扱えるだけの柔軟性を持ち、デジタル・データに新しい機能を付加できるだけの拡張性もあります。たとえば、画像オブジェクトにアクセスするとそれ自身の縮小画像を返すようにすることも可能です。さらに、スタンドアロンとしても、サービス指向アーキテクチャーのコンポーネントとしても使えます」

 オープンソース・コンテンツ・リポジトリー・プロジェクトDSpaceもさまざまな形式のデジタル・コンテンツを扱える点ではFedora同様の柔軟性がある。しかし、それ自体の特性としては拡張性がないという。「Apache JackrabbitもFedoraに似ていますが、Javaライブラリーであることから、プログラミング言語が限定されます」

 Lagozeも、Fedoraにはほかにはない機能があるといくつか例を挙げた。REST APIとSOAP APIを使って任意のプログラミング言語からFedoraリポジトリーを制御できることや、Webサービス・アプリケーションとデータ・オブジェクトを関連づけてコンテンツを動的に頒布できることなど。また、データ・モデルのすべての面についてバージョン管理機能を完備しており、FOXMLと呼ばれる簡単なXML形式を使った基本レベルの保管も可能だ。

賞金の使途

 Fedoraは、現在、オープンソースで配布されているが、賞金のお陰でさまざまな方法で配布できるようになるだろうと、Lagozeは考えている。これは、緒に就いたばかりのコミュニティーにとって発展につながるだろう。また、Fedoraの機能性を2つの重要な領域にも広げたいとも述べた。「一つは、意味技術の統合とスケーリングを強化すること。これは分散している多くのコンテンツを組み合わせるWeb 2.0アプリケーションの構築に必須です。もう一つは、エンタープライズ級のスケーリングと信頼性・安定性です」

 「目標はこの2つの領域を実際に結びつけることです。そして、アプリケーション・レベルのアドホックなソーシャル・ネットワーク・コラボレーティブ環境を超え、さらにオープンな標準による環境にまで高めること。それは、保存されている情報の持続性とアプリケーションを超えた可搬性を促進するような環境です。学術界など多くの領域がブログやwikiなどのソーシャル・アプリケーション・パラダイムに移行するでしょうが、そのシステムは単独ではないが、領域の整合性要求をも考慮する必要があるでしょう」

 一方、Murrayは、賞金を活用すれば開発者や利用者が増えるだろうし、学術界で始まったこのプロジェクトが大学や図書館や研究センターを超えて広く利用されるだろうと考えている。

Linux.com 原文