Parsix――GNOMEに独自の味付けを加味したペルシア生まれのディストリビューション

 先月、約1年の開発期間を経た成果として Parsix Linux ディストリビューションの1.0リリースが行われた。Parsixは、Debian GNU/Linuxのテストブランチを基にしてKanotixコンポーネントの一部を流用した、GNOMEベースのディストリビューションである。その仕上がり具合は、Ubuntuに拮抗しうる魅力的な代替候補の1つと評していいだろう。

 Parsixはインストール対応型のライブCD形態で配布されており、そのデスクトップとしてはGNOME 2.20.3が採用されている。開発元はペルシャ語圏であるものの、表示言語とキーボードについてはen_USがデフォルト設定である。またParsixの場合、ライブCDからの初回起動時には、ワイド画面のスクリーン解像度に対応した2つのブートオプションが提示されるようになっている。最適な解像度を自動選択することを謳ったディストリビューションは多数存在するが、実際には最適でない選択が行われるケースも多いことを鑑みると、こうしたParsixのアプローチは現実的な妥協といってよいだろうし、少なくとも私の場合、望みの解像度にてシステムを立ち上げることができたのは確かである。

 Parsixに用意されているハードドライブ用インストーラは、Kanotixからの流用コンポーネントの1つである。これを起動すると、Configure Installation、Start Installation、Update Installation、Partition、Load Config、Save Config、Quitというメニュー項目が表示される。ディスク上へのセットアップをする場合はPartitionを選択する必要があるが、それ以外のケースではConfigure Installationを最初にクリックすればいい。1番目の画面ではインストールパーティション、その次の画面ではファイルシステムについての選択肢が提示される。その後はユーザアカウントとパスワードおよびrootパスワードに関する設定画面がいくつか続き、最後にホスト名およびブートローダの設定を行う。こうした初期設定が終わるとメインメニューに復帰するので、後はStart Installationをクリックすればいい。私の環境でのインストール作業はトラブルフリーで進行し、ブートローダも指定通りにインストールされた。ただしParsixのブートローダに関しては、マシン上にインストール済みのオペレーティングシステムをすべて認識できた訳ではなく、その一部については検出に失敗している。

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Parsix

 インストール終了後に私を歓迎してくれたのが、簡潔かつ小ぎれいにまとめられたログイン用のグラフィカル画面である。その後に表示されるデスクトップは、落ち着いた配色のバックグラウンド、魅力的なテーマ、聴き心地のいいサウンド、視認性に優れたアイコン、キュートなスクリーンセーバ、見栄えのいいフォントによりまとめられており、非常に高度なユーザエクスペリエンスを体感できるようになっている。

ハードウェア的な対応度

 今回私が用いたHewlett-Packard Pavilion dv6000ラップトップに対するParsixのハードウェア的な対応状況は、残念ながら百点満点とはいかなかった。とは言うものの、ブート時に指定した1280×800のワイド画面オプションは正常に機能しており、この設定はハードドライブインストールにおけるデフォルト解像度にも反映されている。そしてサウンドおよびボリュームボタンもライブCDとハードドライブインストール双方のブート時において正常に動作したのだが、ワイヤレスネットワーク接続についてはユーザによる若干の設定変更を必要とした。その他にCPUスケーリングもデフォルト設定下でアクティブにされ、サスペンド機能もプロプライエタリ系のNvidiaグラフィックドライバなどを正しく停止させることができている。問題はラップトップ本体のサスペンドと復帰は正常に行えるのに、ネットワーク接続だけは切断されたままになってしまう点である。またこのマシンの場合、ハイバーネーション機能はまったく動作しなかった。

 Parsixには、CUPSプリンタ設定ユーティリティ、PPP Configuration Utility、Network Configuration、Wireless Net Card Configなど、各種のグラフィカル設定ツールが組み込まれている。特に私の場合、LinuxではネイティブにサポートされていないBroadcom 4311(頻繁にBroadcom Dell 1390として認識される)を使用しているため、最後の2つのツールへの関心が高かった。

 まず最初に試してみたのはWireless Net Card Configである。これを起動するとSetup情報ファイル(Windowsパーティションに置かれているドライバの*infファイル)の選択用ダイアログが表示されるのだが、ここの処理では手元の*infファイルは*infファイルではないという旨のエラーメッセージが出されてしまった。この件に関しては、コマンドラインでNdiswrapperを実行することにより、必要なドライバ群をインストールできている。

 その次に、半ば習慣化しているwpa_supplicantを用いたWi-Fi Protected Accessネットワークへのパスキー入力が実行されるかを試してみたところ、これは上手く行かなかった。その後、Parsixの場合はNetwork Configurationのテストも必要であることに思い至り、この設定ユーティリティを起動してみたところ提示されたのが、ルータのビットレート、周波数、MACアドレスといった、通常はこの種のユーティリティにて要求されない詳細な設定項目である。これらについては、ESSID、MACアドレス、WPAパスフレーズを除き、大半の項目を空欄のままとしておいた。すると予想に反して、ブート後のワイヤレス接続が利用可能となっていたのである。私にとって、コマンドラインでのWPA設定に失敗したがグラフィカルツールでの設定には成功したというのは初めての体験であった。

 Parsixで認識されたすべてのメディアは、その善し悪しは別として、自動的にマウントされた上でアクセス用のアイコンがデスクトップに表示されるようになっている。これはブート後に接続するCDなどのリムーバブル式メディアについても例外ではない。例えばオーディオCDのアイコンをクリックすると、ParsixがSound Juicerを起動してくれるし、動画を収録したDVDアイコンの場合はVLCが起動されるようになっている。

ソフトウェア的なコーディネイト

 Parsixのメインコンポーネントは、Linuxカーネル2.6.23、Xorg 7.2、GCC 4.23という構成である。その他にSystem Monitor、File Browser、Disk Usage Analyzerなどのシステムツールもパッケージされている。

 Internetメニューに用意されているアプリケーション群は、WebブラウザはFirefoxをノーブランド化したIceweasel 2.0.0.11、メールクライアントはBalsa、ニュースフィードリーダはLifereaという組み合わせになっている。ファイヤウォール設定についてはFirestarterが必要なセットアップをサポートしてくれる。その他、ファイル転送用ソフトはBitTornado、gFTP、Gwgetが用意されており、IRCへのアクセスはXChat、インスタントメッセージの交換はPidginで行うことができる。

 日常的な事務作業についても、同梱されている、OpenOffice.org、Grisbi(会計処理用ソフト)、Efax-gtkというアプリケーション群が役に立つであろう。

 マルチメディア系アプリケーションはSound and Videoメニューにまとめられている。具体的な品揃えは、Brasero(ディスク焼き込みソフト)、GNOME CD Player、Exaile(音楽プレーヤ)、Sound Juicer、XawTV TV Viewer、VLC(メディアプレーヤ)といった構成である。このうちTV Viewerは試せなかったが、それ以外はすべて正常に機能することを確かめている。実際、Parsixに標準装備されているアプリケーション群だけで、すべてのビデオ/音楽ファイルおよびディスクからの直接再生が行えてしまった。特にDVD再生に関しては、私が過去に使った中でも今回試したVLCがベストの対応度であって、暗号化されたムービーを正常に再生できただけでなく、DVD操作用のナビゲーションメニューにもアクセス可能で、サブタイトル、言語切り替え、場面選択といった追加機能もそのまま利用できている。この種のDVD再生に関しては、何とか動画本編だけでも再生できればラッキーと思うのが通常のパターンなのにである。

 Graphicsメニューに用意されているのは、Camarama(Webカムビュワー)、Evince(PDFビュワー)、GIMP 2.4.3、GQview(画像ビュワー)、Inkscape(画像編集)、XSane(スキャニングプログラム)というアプリケーション群である。こうした品揃えの下、例えば画像ファイルをクリックすると、Parsixのデフォルト画像ビュワーであるGQviewが起動されるようになっている。

 ParsixにFlashは同梱されていないが、Iceweaselを起動すれば自動でインストールすることができる。ただしQuickTimeについては、入手可能なライブラリとユーティリティをインストールしたにも関わらず、私の場合Apple.comで公開されている映画の予告編を再生できなかった。しかもDebianリポジトリにあるQuickTime用ファイル群をインストールしたところ、Apple.comへのアクセスでIceweaselがクラッシュするようになってしまったのである。

 Parsixに用意されているアクセサリは、xFarDic(翻訳機能を備えた多国語辞書)、GnoCHM(圧縮HTMLヘルプのビュワー)、Qemu Launcher(QEMUエミュレータ用グラフィカルフロントエンド)、geditという構成であり、その他、Gnometris、Same GNOME、Mines、Sudoku、SuperTuxといった簡易ゲームも用意されている。

 当然Parsixシステムに標準でインストールされないアプリケーションも存在するが、Debianのテスト用リポジトリに登録されているものであれば、Synaptic Package Managerを介してインストールすることができる。これはParsixリポジトリに登録されている一部についても当てはまる話だが、こうした登録ソフトには特定オペレーティングシステムの使用を前提とした設定が施されている。なおParsixにはアップグレードアラート用のアプレットは同梱されていないが、Synapticを使えば最新版のチェックは効率的に行えるはずだ。ParsixはDebianのテストブランチをベースとしているが、同ディストリビューションのリリースから約1週間経た本稿執筆時において133個のアップデートが利用可能となっている。実際にこれらを適用したところ、エラーや問題が発生することなく、アップグレードのプロセスはスムースに進行してくれた。

まとめ

 Parsixは、Debianから分岐した派生ディストリビューションの1つとして、Ubuntuに拮抗しうる高いレベルの完成度に到達している。DebianをベースとしてAPTおよびSynapticを利用しているという点についてはUbuntuと同様であり、デスクトップとしてのGNOMEの採用およびそこに配置されるパネルについても基本的には大差ない。Firefoxよりも安定性に難のあるIceweaselの選択だけは頂けない気がするものの、同梱されているソフトウェアの数とコーディネイトについてはParsixの方に軍配が上がるとしていいだろう。特に標準装備そのままで大半のマルチメディアを再生できる点は高く評価すべきであるが、その一方で未完成な省電力機能については、その分を減点せざるを得ない。またUbuntuで用いられている“sudo”を介して一般ユーザにも限定的なroot権限を与えるという基本方針にParsixは準じていないが、私個人としてはこちらの方が好ましい方式のように感じられる。その他、Kanotixツールおよびインストーラの技術的な完成度と洗練度はUbuntuのものより劣っている気がするが、必要な機能は満たしているし、操作的に困難な点も特に存在しない。もっとも、プロプライエタリ系グラフィックドライバを手作業でインストールする必要がある点は、初心者ユーザにとっての1つの鬼門となるだろう。

 このようにいくつかの不備は残されているものの、総評としてParsixは素晴らしい出来のディストリビューションとしていいはずだ。特に私が気に入ったのは、細部まで配慮の行き届いたGNOMEのブラッシュアップである。DebianないしUbuntuやGNOMEは性に合っているが、何か別の可能性も追求してみたいと思っているユーザがおられたら、Parsixのことをおそらくは気に入って頂けることであろう。

Linux.com 原文