新たなスポンサー探しを余儀なくされたVoIPアプリケーションWengoPhone

 2007年末の時点で、オープンソースのVoIP(Voice over IP)プロジェクト WengoPhone にはまだスポンサーがついていなかった。このプロジェクトを立ち上げて資金を提供してきたWengo社は、3年以上に及ぶ開発に終止符を打ち、支援を中止すると発表していた。だが幸いにして、以前から同プロジェクトに貢献していたMBDSYSから管理を引き継ぐとの申し出があった。すでにMBDSYSはその移行を開始し、ロードマップの策定と開発陣の立て直しに着手している。

 フランスの電話会社Neuf Cegetelの傘下にあるWengoは、商用VoIPサービスプロバイダ事業を推進する手段としてWengoPhoneプロジェクトを創設し、公衆電話網に接続するコールイン/コールアウトサービスの販売を手がけていた。しかし、2007年までに同事業は大幅に縮小され、WengoPhoneの開発に有給で携わっていた人々は解雇された。Wengoはそうした元社員の何名かを支援してWengoPhoneのコードベースを管理する新しい会社を立ち上げようとしたが、その活動が軌道に乗ることはなかった。

 VoIPおよび組み込みLinuxのコンサルティング会社MBDSYSもフランスに拠点があり、WengoがWengoPhoneのオープンソース化を決定する前には請負業者として初期のVoIPエンジンに深く関わっていた。MBDSYSのVoIPライブラリは長い間フリーソフトウェアとして提供されており、同社CTOのVadim Lebedev氏が最終的にWengoの経営陣を説き伏せてWengoPhoneのコードベースをGPLの下で公開させた経緯があった。

 今年1月にWengoとMBDSYSの両社は、WengoPhoneのコード(リリース済みのものと各開発ブランチ)、Webサイト、メーリングリストの管理をMBDSYSが引き継ぐことで同意したと発表した。プロジェクトの管理はLebedev氏の手に委ねられた。

 MBDSYSにはWengoPhoneとその基本ライブラリに取り組む開発者が5人(うち1人は専任、4人は非常勤)いる、とLebedev氏は語った。プロジェクトの通常業務としてはWengoPhoneに関する契約やカスタマイズ作業が多いため、プロジェクトの管理を引き受けても業務時間に対する影響はほとんどないだろう、とLebedev氏は予想している。

開発の再開

 短期的にはCeBIT(3月4日~9日に開催された)のすぐ後に新規リリースを予定している、とLebedev氏は語る。このリリースは現行の2.2.xシリーズのコードをベースとしたもので、バグフィックスが主体となっているが、ピアツーピアのプレゼンス管理 ― SIPサーバ経由で情報を送信しなくてもユーザが在席/離席のステータスを更新できる機能 ― も導入されている。

 さらにその3か月後には、遅れの出ていたCoIpManager(インスタントメッセージング、SIP、IAXの各サービスを抽象化したシングルアーキテクチャ)を組み込んだ本格的な新規リリースを行いたい、とLebedev氏は話している。また、このリリースでは、Qt 4.4とWebKitを利用したアプリケーションへと一新されるはずだ。

 それ以降の予定はLebedev氏の中にはないが、彼や開発者たちがぜひ取り組みたいと考えている機能はたくさんあるという。P2PP、VNC、Phil Zimmermann氏のZRTP暗号化といった通信プロトコルの追加、GoogleのlibjingleやLinphoneのmediastreamer2のようなほかのオープンソースプロジェクトとの統合などだ。

 2月になってLebedev氏は、開発者向けのメーリングリストに非公式なロードマップを投稿し、コメントを求めた。また、WengoPhoneがWengoの手を離れたことを受けて(またWengoの商標権の影響を受けないように)プロジェクト名を変更したいともアナウンスした。

 結局、Lebedev氏は新しいプロジェクト名をQuteComとし、qutecom.orgというサイトでバグトラッキング、メーリングリスト、ソースコードリポジトリの設置を始めている。このWebサイトの準備はまだ整っていないが、関心のあるユーザや開発者はこれまでどおりopenwengo.orgからプロジェクトの旧リソースのすべてを参照できる。

 オープンソースプロジェクトには10年以上携わってきたが自ら運営するのは初めて、とLebedev氏は語る。プロジェクトリーダーとして最初にすべきことの1つはWengoPhone開発者のコミュニティをかつての活動的なものへと立て直すことだ、と彼は考えている。また、すでに数名がコードに携わっていると述べたうえで「プロジェクトの管理が再び行われていることが知れ渡れば、開発者たちは戻ってきてくれるものと期待している」とも話している。

 WengoとMBDSYSとの間の取り決めが発表されてからはwengophone-develメーリングリストへの投稿数が大幅に増加しているため、求められている開発者の関心はプロジェクトに向きつつあるようだ。管理チームの刷新と新たなプロジェクト名は、明るい未来の兆しなのかもしれない。これまでに常に、WengoPhoneは数あるVoIPアプリケーションのなかでも、安定したオープンソースのクロスプラットフォーム・アプリケーションという点で独特の存在だった。そのため、未成熟のVoIPソフトフォン業界に与えたプラスの影響は比類のないものだったが、その存在感は今なお失われてはいない。

Linux.com 原文