オープンソースのビデオ編集ツール:現状と今後の課題

 この10年、オープンソースのビデオ編集/操作ツールの進展を見てきたのだが、胸が踊るような気持ちには今一つなれなかった。このような状況は近い将来、改善する見込みがあるのだろうか? 現状に酷く幻滅してしまった人さえもがそこに再びわずかな希望の光を見い出すようなことは起こりうるのだろうか?

問題点

 基本的なメディアコンテンツを見たり聞いたりあるいは作成したりということに関してはGNU/Linux(やその他のUnixから派生したオペレーティングシステム)を使用してもかなり快適に行うことができるのだが、一般ユーザ向けではなくプロ/セミプロ向けのビデオ編集ツールの完成度という話となると、オープンソースはプロプライエタリなソフトウェアベンダに追い付くことができていないと言えるだろう。

 Linuxの大きな強みの一つとして、特定用途向けにカスタマイズしたプロ向けディストリビューションの作成が可能だということがあると常々考えてきた。しかし特にビデオやオーディオを扱う人に向いた優れたディストリビューションとしては、いくつか(dyne:bolicUbuntu Studioなど)は存在するものの、その数は少ないうえ、中には数年に渡って開発が停滞していたり完全に消滅してしまっていたりするものもある。

 この問題の原因の一つは、現在Linuxにはプロレベルのノンリニア・ビデオエディタがないということだ。またそれに加えて、現在入手可能なほぼすべてのビデオエディタの開発速度が不安になるほど低速だからということもある。以下では現在入手可能な最良の選択肢を検討してみよう。

現在入手可能なエディタの現状

 現在入手可能なビデオエディタの中には、試しても結局コンパイルできなかったものや、最新版のリリースが5年以上も前だというものもある。そのような例にはViviaZS4Scilab Auroraなどがあるが、ここでは取り上げない。またAvidemuxも、基本的な編集操作を行うことができるもののそれがメインの機能ではないので、ここでは取り上げない。

 それではまずは、比較的単純なタイプのビデオエディタの紹介から始めよう。まず最初は Kino だ。Kinoは非常に単純なツールだが、試してみたLinuxベースのビデオエディタの中ではもっとも安定していて堅固で、まったくクラッシュしなかった。普通のユーザにとってはKinoさえあれば必要な編集作業を行うのに十分だろう。Kinoを使えば、ビデオカメラからのデータのコピー、基本的な編集作業、トランジションや特殊効果の追加、他の形式へのエクスポートなどができる。しかし残念ながらKinoはベテランのビデオ編集者にとってはあまりにも不十分で、ビデオ/オーディオのマルチトラッキングや、高度なタイトル表示機能や、コンポジティングなどといった必須機能が欠けている。しかもこれらの機能はKinoが目指している方向性とは相容れず、また自らの進むべき道を変えるつもりもないようなので、近い将来にこれらの機能が追加される見込みはおそらくなさそうだ。今のところ私はKinoを主にビデオカメラからのデータのコピーのために使用している。また(別のプログラムでビデオを編集した後に)ビデオを様々な形式にエクスポートする際にもよく使用する。

 Kino以外のビデオエディタにはビデオ/オーディオのマルチトラッキングをサポートしているものもあって、(それほど数多くはないものの)Linux上でもより高度な機能を利用できるようになる可能性が残されているように見える。例えば Kdenlive は将来有望なプロジェクトのように見える。いや正確には、見えたというべきか。Kdenliveに関しては当初は有望と思われていたものの、実際には開発速度が非常に遅く、依然として様々なシステム上で頻繁にクラッシュするという段階のままだ。その他には Pitivi がある。Pitiviもまだ開発が始まったばかりなので適切に評価するには早いのだが、明らかにKinoやKdenliveと同じ方向を目指しているので、プロのビデオ編集者にとってはほとんどあまり意味がない。

  Open Movie Editor はこれまでに何度も使用したことがあるので断言できるのだが、堅固なアプリケーションであるうえ、素晴らしい機能が揃っている。そのため個人的にはOpen Movie Editorの開発にも注目している。その他にも同様の特長を持つ LiVES があって、最近はたびたび更新されているようだ。またLiVESには、開発をより簡単にできるようにするためのプラグインビルダーもある。Open Movie EditorもLiVESも、今の時点でも上級ホビイストにとって優れたツールのように思われるし、将来的には(コンポジティングとより幅広い種類のプラグインや特殊効果が追加されれば)プロのビデオ編集者にとっても同様に優れたツールになるだろう。

 MainActorは今回紹介する中では唯一の商用アプリケーションだが、すでに入手はできなくなっている。MainActorは、Avid XpressやFinal Cutには及ばなかったものの、存在自体が嬉しいことだった。現在ではMainActorの開発元に対してコードを(部分的にでも)公開することを請う署名活動が行われている。

  Jahshaka は、私が知っている中でももっとも派手に宣伝されているオープンソースソフトウェアの一つだ。Jahshakaの開発者のビジョンは、編集/コンポジティング用の最強ソフトウェアを目指して一から新しく設計したアプリケーションを開発するというものだった(今もそうだ)。プロジェクトのウェブサイトに掲載されていたこのような宣伝文句は非常に印象的だったので、私を含め数多くのユーザが何年もの間、約束された通り業界標準のあらゆる機能を搭載した安定した版がリリースされるのを待ち焦がれていた。一時はJahshakaプロジェクトにはNvidiaを含む企業スポンサーまで付いていたほどだ。しかし結局、目標とすることを実現することはできなかった。ただ嬉しいニュースとして今年の1月にJahshakaは、開発者の表現によると「邪悪な後援者から解放された」ため、元々の路線の開発を再開することができるようになったのだという。確かに、過度の期待は禁物だということは分かってはいるのだが、それでもやはり私はJahshakaに対して大きな期待を抱かずにはいられない。

 メインのビデオ編集/コンポジティング用アプリケーションとして私は Cinelerra を使用している。Cinelerraはプロ向けで、いくつかの分野については実用に足るものの、それ以外の分野においてはまだアルファ段階になったばかりだ。Heroine Virtualという匿名の団体(あるいは個人)による初リリース以来の数年間、Cinelerraは常にパラドックスのような存在で、入手可能なFOSSのビデオエディタ/コンポジタの中でもっともパワフルなものでありながらも、不安定なものとしても悪名が高く、また胸が悪くなるようなインタフェースとなっており、さらに開発速度が非常に遅いという問題もあった。しかし後に、Cinelerraのコミュニティ版が登場し少なくとも一部の問題は解決した。コミュニティ版は基本的に、オリジナルのCinelerraに(Heroine Virtualの同意の下に)別の開発者たちがパッチを当ててバグを修正したバージョンで、私もこのCinelerraコミュニティ版の最新版を利用しているのだが、ほぼすべての業務用途のために使用できるほど十分安定していると言って良いと思う。

 Cinelerraは初心者にとっては最初のうちは習得がやや困難かもしれないが、学習するだけの価値はある(また、コミュニティが作成した優れた文書もある)。Cinelerraには、ビデオ/オーディオのマルチトラッキング、なかなか良い特殊効果(LADSPAオーディオプラグインなど)、優れたコンポジタ、3点編集、モーショントラッキングなどといった、他では商用アプリケーションでしか見ることのできないような機能が搭載されている。またレンダーファーミングをネイティブにサポートしていて、この点については他に類がない。Cinelerraを使えば、5~6ノードのレンダーファームの構築が非常に簡単にできて、かなりのレンダリング時間を削減することができる。

 ただ不満な点として、感じの良いテーマがないこと、高度なタイトル表示機能がないこと、ビデオの特殊効果の数が少ないこと(またデフォルトで含まれている特殊効果の文書が不十分なこと)、カメラとの連携機能があまり優れていないことなどが挙げられる。

 最後に、 Blender について少し述べようと思う。Blenderは純粋なビデオ編集アプリケーションではないのだが、Blenderこそがまさに従うべきお手本だと言っておこう。Blenderは高機能で高性能で、開発に取り組む人も多く、チュートリアルやビデオもインターネット上に溢れている。そして意外なことに思われるかもしれないが、Blenderにはかなり頼りになるビデオ編集機能とコンポジティング機能もあるのだ。とは言え、このようにあらゆる面で優れたBlenderがあってもなお、別途オープンソースの優れたノンリニアビデオエディタが必要であることに変わりはないということを繰り返し強調しておきたい。

今後

 10年前にプロのビデオ編集者にこのようなことを言えば悪い冗談のように思われたかもしれないが、今ではLinuxはマルチメディア作成/操作のための優れたプラットフォームだと言える。ただ、Linuxにはツールが欠けている。もっとパワフルで、もっと豊富な機能を搭載したツールが必要だ。最近ではハリウッドでさえLinuxを使用している(しかもレンダリング処理のためだけではない)ということだが、それらのスタジオでは独自の社内アプリケーションを利用している。このような現状に不満を抱いている、FOSSユーザのプロのビデオ編集者は私だけではない翻訳記事)。

 事実を率直に言わせてもらえば、プロのビデオ編集者がLinuxとFOSSツールをビデオ編集のメインプラットフォームとして使用しているとき、その理由は大抵の場合、次のようなものだ。

  • コスト
  • ハードウェアの性能を引き出しやすいこと
  • 好み/イデオロギー

 上記のリストには、機能の豊富さや業界標準機能の搭載などと言った要件はどちらも入っていないという点に注目してほしい。また、指摘しておきたい外部的な重要な点が2点あるのだが、これらについてはいろいろな考え方があることだろう。

  • FOSSに対するビデオソフトウェア企業の無関心さ
  • FOSSのビデオエディタ/その他のアプリケーションに取り組む開発者の不足

 最後にもう一度、コンポジティングと特殊効果について述べておきたい。これらの分野は軽視され過ぎているように感じる。Linux用のAdobe After Effectsが欲しいとまでは言わないまでも、せめてもっと小さくても現実的な規模の何か(例えばFXhomeのようなアプリケーション)があればいいと思う。コンポジティングについて言えば、今の時点では満足できる結果を得ることができるFOSSアプリケーションはCinelerraだけだ(ただしBlenderを除く)。

 上で述べたような最近のニュースを知って以来、近い将来に関して言えば主にJahshakaとCinelerraに非常に期待している。鍵となるのはおそらく開発速度と、ちゃんとしたスケジュールに基づいてメジャーリリースを出していくということだろう。ただ、誤解しないでほしい――ハイエンドのオープンソースビデオソフトウェアの開発には何年もの期間が必要だ。しかしその一方で、プロのビデオ編集者が何年も待つことはできない。とは言えこの分野は、たった2、3年前と比較してもより望ましい方向に向かってきているとようやく思うことができるようになってきたので、少し楽観視しても良いのではないかと感じている。

Rui Lopesは、ポルトガルのウェブデザイナー兼映画制作者。技術分野における幅広い興味を持つ。

Linux.com 原文