Pencilで描くソフトウェア・アニメーション

 コンピューター・アニメーター諸氏へ。Blenderなどの3Dアニメーション・ツールを使っていて物足りなさを感じたことがあるなら、 Pencil を試してみよう。Pencilはすばらしい2Dアニメーションを描くことのできるオープンソースでクロスプラットフォームなアプリケーションだ。手描きアニメーション手法の再現を目指しているが、使いやすく高品質な作品を作ることができる。

 Pencilは、ダウンロード・ページから、ソースのほか、Ubuntu、Arch Linux、Windows、Mac OS X用にビルドされたバイナリーが入手可能。最新版は、MacとWindows向けは0.4.4b、Linux向けは0.4.3bだ。両バージョンの違いはわずかだが、ファイル形式が変更されているため、Pencilを異なるプラットフォームで使うつもりなら、Linuxビルドがアップデートされるまでは0.4.3bを使った方がよい。

描画

 Pencilでアニメーションを制作するのは容易だ。画面の下にあるタイムラインを使ってフレームごとに描いていく。複数のレイヤーで構成することもできる。レイヤーごとにビットマップまたはベクター形式を選べるが、この場合のベクター・レイヤーは、そのレイヤーがベクター曲線で描かれるという意味である点に注意。Adobe FlashやフリーのSynfigアニメーション・スタジオのように、ベクター・アニメーションを意味するものではない。ベクター・アニメーションの場合、2つのキーフレームでオブジェクトを動かすと、中間にあるフレームはすべてアプリケーションが計算して描いてくれる。

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Pencil

 伝統的な手描きアニメーションを再現するというPencilの理念を念頭に、各フレームを1枚のアニメーション・セルであるかのように描いていく。フレーム間の整合を見るには、隣接するフレームがトレーシング・ペーパーに描いたように半透明に表示される「オニオン・スキニング」機能が便利だ。アニメーションの確認には、フレームを順次動かすか、あるいは、組み込みの再生コントロールで全シーケンスを通しで実行すればよい。アニメーションを反復再生させたりフレーム・レートを任意に調整したりすることもできる。

 用意されている描画ツールは基本的なものだけ。鉛筆、ペン、ブラシ、多角形、消しゴム、バケツだが、ペンタブレットを使っている場合はこれらが感圧式になる。ツールの動作はラスター・レイヤーかベクター・レイヤーかによって異なる。鉛筆の場合、ベクター・レイヤー上では一時的な線を描くためのツールとなり、その線は最終のアニメーションには残らない。解説書では、鉛筆で描いた金釘流の線はベクター・イメージにはそぐわないため、バケツで塗りつぶすための目に見えない領域を定めるツールとしてのみ使われると説明している。

 説明はもっともだが、初心者、とりわけアニメーションを制作したことのない人には、こうした動作の違いはわかりづらく混乱の元だろう。実際、Pencilでは伝統的なアニメーション制作手順に従って描画するが、その方法は部外者には当惑するような点が多々ある。たとえば、既存のフレームとわずかに違うフレームを描画する場合、既存フレームをコピーしたくなるが、Pencilにはフレームをコピーする機能はない。紙とインクで描くアニメーションでは、もちろん、フレームをコピーすることはできない。したがって、Pencilでもできないというわけだ。リード開発者のPascal Naidonは、プロジェクトの目標は単純で使いやすく楽しいプログラムを作ることにあり、すべてのアニメーターにあらゆる機能を提供することにあるのではないと説明している。

エクスポートなど

 しかし、最終作品の作成については、Pencilも、お馴染みの3Dアニメーション・プログラムに似ている。キャンバスは無限大でどんなスケールでもどんな大きさにでも描くことができるが、これはBlenderで任意サイズのオブジェクトを構築できるのとよく似ている。アニメーション・シーケンスをエクスポートするときは、カメラ・レイヤーを作らなければならない。カメラ・レイヤーのアスペクト比は指定されたものになるが、中心は常にキャンバス上を移動することができる。複数のカメラ・レイヤーを定義し、1つのフレーム群からさまざまなアニメーション・シーケンスを作ることができる。

 作品は、どのプラットフォームでも、PNGフレームのシーケンスやFlashビデオにエクスポートすることができる。Mac OS Xの場合はQuickTimeムービーにすることも可能。サウンドは、現行ビルドでは初歩的なもののみ。タイムラインにオーディ・レイヤーを追加することはできるが、使えるオーディオ形式は少なく、プラットフォームによって異なる。すべてのフレームのすべてのエレメントを手描きするという理念には付き合いきれないという場合は、ラスター・イメージを別のレイヤーにインポートして(たとえば)バックグラウンドに使うといったことはできる。

 0.4.4bの変更記録によると、今後のリリースでは描画ツールが増えそうだ。また、出力オプションの追加とオーディオ・サポートの改善も進行中だという。それを楽しみに待ちつつ、今はユーザー・フォーラムでPencilの活用法を探そう。このフォーラムには、アニメーターが公開した自作サンプルやアニメーションの作り方を説明するスクリーンショットのほか、初心者向けにコツを伝授するチュートリアルもある。

 制約はあるが、Pencilでアニメーションを描く楽しさは否定のしようがない。PencilにはSynfigやAnime Studio Proなどのベクター・アニメーション・スタジオほど多くの機能はないが、ほかでは得られない手描きアニメーションを実体験することができる。

Linux.com 原文