コマンドラインとデスクトップを仲立ちするDragbox

 GNU/Linuxのコマンドラインとデスクトップはいずれも洗練されたインタフェースだが、ほぼ完全に住み分けができている。テキストをデスクトップから仮想端末にドラッグしたり、[編集]→[コピー]を使ってテキストを相互に移動することはできるが、ファイルやディレクトリをデスクトップと端末間で移動することは、通常は不可能である。問題は、両方を頻繁に使って作業する場合、その都度切り替えなければならず、手間が増えることだ。 Dragbox は、この問題を解決し、2つのインタフェースを接続するために設計された。少なくとも一方がGNOMEであることが条件だが、いうなればマルチ・クリップボードと簡単なファイルマネージャが一体化されたようなツールである。

 dragboxコマンドを実行すると、空白のウィンドウがデスクトップに表示される。Dragboxでは、実行中のインスタンスをシェルフ(棚)と呼ぶ。シェルフが複数ある場合は、「--name name 」オプションを使って特定のシェルフを指定できる。シェルフを整理しておくのが好きであれば、「--title title 」を使ってタイトルバーを変更できる。このタイトルは、シェルフ名の直後にも追加され、シェルフのクリップボード項目リストにすぐに表示される。また、「dragbox -t "文字列"」を実行して項目を追加することもできる。

 もっとも、Dragboxの真価はファイルをドラッグ&ドロップで扱える点にある。コマンドライン内のテキスト、ディレクトリ名、または一連のファイルを強調表示にしてから、ドラッグして直接Dragboxにコピーできる。Dragboxからは、クリップボードからの操作と同じ要領でディレクトリやファイルをアプリケーションにドロップできる。

 デフォルトでは、シェルフからファイルをドラッグすると、そのファイルの完全なコピーが作成される。このデフォルトは、他の動作に変更できる。Dragboxのウィンドウを右クリックしてメニューから[Preferences(設定)]を選択すると、コピーした後でシェルフにある元の項目が削除されるように設定できる。また、ShiftキーとCtrlキーを押しながらドラッグすると、完全なコピーではなくシンボリックリンクが作成される。

 Dragboxでのドラッグ&ドロップ操作にもナビゲーション支援機能がいくつかある。キーボードのレイアウトにAltGrキーや特殊な制御キーがある場合は、それを押しながらテキストをウィンドウからドラッグすると、ウィンドウがアクティブでなくてもドラッグを実行できる。おかげで、たくさんのウィンドウを開いているときに目的のウィンドウを探す手間が省ける(この機能を実現する仕組みはよくわからないが)。また、ドラッグ操作の途中でマウスポインタをデスクトップ・パネルのウィンドウ・リスト内にあるウィンドウ名の上で停止すると、そのウィンドウが表示される。これとまったく同じ方法で、ワークスペース・スイッチャ内のワークスペース名の上でポインタを停止して、そのワークスペースを表示することもできる。

 コマンドラインからデスクトップに移動すると、任意のコマンドをアクティブなDragboxシェルフの内容に対して実行できる。--listオプションを使用すると、現在使用中のシェルフのリストを表示できる。現在のシェルフの内容のリストをコマンドラインに表示するには、「dragbox --get」と入力する。デフォルトでは、絶対パスが表示されるが、-uまたは--urisを追加することでパスをURIで表示することも可能だ。一般に、これらのオプションは出力をすぐに表示するが、好みによっては、--write-on-exitを使って表示を遅らせることもできる。

 おそらくDragboxの最も便利な使い方は、パイプを使ってxargsを通すことにより、シェルフの内容に対してコマンドを実行することだろう。たとえば、デフォルトのシェルフの内容をバックアップする場合、コマンド「dragbox -0 | xargs -0 backupname.tar.gz」を使ってtarファイルを作成できる。このようにDragboxを仲立ちとして、デスクトップに表示されているファイルやディレクトリにコマンドをすばやく実行できるので、コマンドライン上でファイルやディレクトリの場所を思い出そうとしたり、あちこち探し回る必要はない。

 Dragboxは、まだバージョン0.3.0であり、開発初期のアプリケーションの常として機能に制約がある。Dragboxのウィンドウは、開いている他のウィンドウと同様にパネル上に名前が表示されるが、ドラッグダウン・ディスプレイとして通知トレイに統合されているわけではない。書式付きのテキスト(Open Document Formatなど)をシェルフに追加する機能があれば、Dragboxはマルチ・クリップボードであると同時に、異種インタフェースを橋渡しする役目も果たすことができるだろう。シェルフを保存しておいて後のセッションに使用できる機能もあれば便利だ。簡単な機能強化としてほかに思い付くのは、デフォルトでディレクトリまたはプレビューをクリックできる機能である。これがあれば、ディレクトリをファイルマネージャに表示するオプションを右クリックメニューの[Preferences(設定)]でオンにする必要はない。さまざまなアプリケーションを異種デスクトップから実行するのが習慣となっている私のようなユーザには、DragboxをKDEやXfceのアプリケーションに使えるようになればありがたい。

 このような但し書きは付くが、Dragboxは既にシンプルかつ高機能なアプリケーションであり、こうやって手に入れるまでは欠けていたことに気が付かない機能を教えてくれる。デスクトップ・ユーザは、今までコマンドラインに近寄ったことがなくても、便利なマルチ・クリップボードとしてDragboxを利用できる。コマンドラインとデスクトップを盛んに行き来するユーザは15分もDragboxを使えば、今までこれ無しでよくやってこれたものだと思うだろう。

Bruce Byfieldは、Linux.comに定期的に寄稿しているコンピュータ分野のジャーナリスト。

Linux.com 原文