デスクトップの任意なカスタマイズを可能にするスクリーンレット

 フリーソフトウェアが活発に開発され続けている現代コンピュータ文明は、今の流れがこのまま継続すると、あるいは後世の歴史家たちによって“機能拡張時代”と分類されることになるのかもしれない。それはここ数年、Mozillaファミリを始めとするOpenOffice.orgやGeditなどのアプリケーション群において、有志の開発者によるアプリケーションへの独自の機能追加が行えるフレームワーク的な使用法が一般化したからだ。そして今から10カ月程前にはこうした機能拡張というコンセプトをデスクトップの世界にも導入することを目指した1つのコミュニティが形成されており、そこでは“スクリーンレット”(screenlet)という名称の下、デスクトップに対する個別的かつ直接的な機能追加を行う各種小型アプリケーションの開発が始められているのである。現状でこうしたスクリーンレットの中には既存ツールの焼き直し的な存在が多いのも事実だが、その大部分はテーマ変更および非常に細かなカスタマイズに対応したツールという形態で提供されているのだ。

 こうしたスクリーンレットの開発および公開を行っているのが Screenlets.org であり、同サイトの説明によると、スクリーンレットとはPythonベースで作成された小型アプリケーションのことを意味し、スクリーンレットのライブラリ群とは「デスクトップ関連の基本ニーズを満たしつつテーマ変更に対応した小型アプリケーションの開発を簡単化し、(近代的なデスクトップに)必要とされる外観と操作性を総合的に向上させるもの」ということになる。これらは主として複合型のウィンドウマネージャでの使用を意図したものではあるが、Metacityのような2D型のウィンドウマネージャでも利用可能なものが大半を占めている。

 現在公開されているスクリーンレットの基本パッケージは、Ubuntu、Debian、openSUSEなどのメジャーなディストリビューションであれば、その多くで利用できるはずだ。同パッケージには49個のスクリーンレットおよび、これらスクリーンレット群のインストール/アンインストール用ダイアログとして機能するScreenlets Managerが同梱されている。ただしここに収録されているスクリーンレット群に関しては、完成度およびオリジナリティの両側面において玉石混合というのが実状だ。例えばラップトップ用のバッテリモニタやCPUメータなどは従来型のパネルアプレットとしてかねてより実装済みの機能であるし、その他のスクリーンレットについても、メインメニュー、ページャ、Evolutionのコンタクト、Tomboyなどと本質的に同じ機能を再現しているだけのものが多い。とは言うものの、GmailやYouTubeなどのオンラインサービスをデスクトップに直接リンクさせたり、デザイナーであれば重宝するであろうピクセル定規など独自の機能を提供するスクリーンレットが含まれているのも事実なのである。

 いずれにせよこれらの基本スクリーンレット群の位置付けは、本質的にコンセプト実証を意図して作られたものと考えていいのではないだろうか。それと言うのも今では、数およびオリジナリティの両面においてサードパーティ系スクリーンレットの方が目立つようになっており、その中でも特に成長著しいのがGNOME用スクリーンレットである。こうした後発のスクリーンレットは既に何百もの数が公開されており、その中からごくランダムに抽出するだけでも、無線接続のステータス表示、Vistaライクのサイドバー、コミックの日替わり表示、BitTorrentの検索といったものが利用可能となっているのだ。

スクリーンレットのインストールとカスタマイズ

 これから初めてスクリーンレットを試すという場合は、まず最初にScreenlets Managerを使用するべきだろう。ここには現在のユーザアカウントにて利用可能なスクリーンレットが一覧されるだけでなく、操作用コマンドがメニュー形式で左サイドのペインに表示されるのである。

 これらのコマンド群にザッと目を通すだけでも、スクリーンレットに対しどのような操作ができるかの概要を把握できるはずだ。例えばデスクトップにインストールできる数は1つに限られている訳ではなく、ここで強調表示された複数のスクリーンレットを同時に使用できるようになっており、これはNotesのような間欠的に使用するタイプのスクリーンレットを利用する際に重宝する機能である。その他の操作としては、指定スクリーンレットのデフォルト状態への復帰、新規テーマの追加、サードパーティ系スクリーンレットのアンインストール、実行中の全スクリーンレットのクローズおよび再インストール、新規に立ち上げるスクリーンレットへのデフォルトオプション設定なども行えるようになっている。

 デスクトップに配置したスクリーンレットについては、右クリックで呼び出すPropertiesメニューを介してカスタマイズを施すことができる。もっともこうしたプロパティ設定の中には、おそらく誰も気にしないであろう付箋紙スクリーンレットのピン配置のような些末的すぎる項目も用意されてはいるが、その他の設定項目の大半は実用に則した内容となっている。例えばテーマ変更に対応したスクリーンレットであれば、デスクトップに溶け込ませる配色とするなり対照的な色合いとするなり、ユーザが任意に変更できるのだ。同じく表示サイズについても、視認性を高めたければ大きく設定すればいいし、デスクトップ上に多数のスクリーンレットを配置したければ逆に小さくすればいい。特にこの機能は、スケーラブルなベクタグラフィックスを採用したスクリーンレットが多く登場するようになって以降より一段と有用なオプションとなっている。またスクリーンレットはディスクトップ上で常用する他のウィンドウの上側か下側に配置しておきたいところであるが、これらの表示位置は初回起動時に指定することができる(その後でもドラッグにて移動可能)。その他、多くのスクリーンレットではカラーやフォントを変更できるようになっている。

 ユーザが独自にスクリーンレットを追加する場合、基本的にはダウンロードしてきたものをScreenlet ManagerのInstallコマンドにて処理をすればいいはずだが、サードパーティ系スクリーンレットの中にはScreenlet Managerに対応していないものも存在し、そうしたスクリーンレットについては、各自のhomeディレクトリにある/.screenletsフォルダに手作業にて追加することで対処できる場合もある。

スクリーンレットを利用することの是と非

 さてこうしたスクリーンレットの機能解説を一通り聞かされておそらく最初に思い浮かぶ疑問は「本当に使う必要があるのだろうか?」というものだろう。例えばこうしたスクリーンレットの開発者たちの多くはそれなりに大画面のモニタで作業をしていて、これらの占有面積が多少大きくなっても特に気にならないのかもしれないが、一般のユーザがそうしたスクリーンレットを敢えて使用する場合には、他のウィンドウどうしを積み重ねるようにしてその表示スペースを稼ぎ出さなくてはならないのだ。

 それよりも重要なのは、現存するスクリーンレットの多く(というよりむしろ大部分)が、既にメニューないしパネルアプレットの形で普及済みのユーティリティと機能的に重複したものでしかないと感じられる点であろう。確かに従来型のメニューやパネルに格納されているアイテムはデスクトップ上の表示位置を任意に変更することはできないが、既にあるものと大差ない機能群を入手するだけのことに、わざわざ別系統のサブシステムを新たに追加する必要性はあるのだろうか?

 こうした本質的な疑問に対する返答は、各自がどのような形態にてコンピュータ作業にいそしんでいるかによって異なってくるものだ。本稿の読者であれば、半固定式のパネルアプレットよりも高度なカスタマイズ性を有すスクリーンレットを選ぶ人間が多いかもしれない。同じくユーザ補助機能のサポートを必要とする障害者ユーザは、表示サイズを任意に変更できるスクリーンレットの恩恵を非常に大きいものと評価してもおかしくないはずだ。

 またスクリーンレットの機能的なオリジナリティについて考える場合、今はその開発コミュニティの正式な発足から1年も経っていない状況であり、現状で利用可能なスクリーンレットの中には単なるコンセプト証明という位置付けで作られたものが少なくない点も考慮する必要があるはずだ。逆に言うと、同コミュニティの開発者たちがオリジナリティ溢れるスクリーンレットの作成を手がけ出すのも、それほど先の話ではないであろうと予測できなくもない。

 現状のスクリーンレットの多くはありきたりの機能しか有していないのも確かな事実だが、それでもどのようなユーザであれ、2つか3つは自分の気に入るものが見つかるはずだ。アプリケーション世界における機能拡張群と同様、スクリーンレットも個々のユーザが自由な選択と設定の変更ができる存在なのであり、その事実1つをとっても、デスクトップ世界における新たな歓迎すべきオプションの登場だと評していいだろう。

Bruce Byfieldは、コンピュータジャーナリストとして活躍しており、Linux.comに定期的に寄稿している。

Linux.com 原文