ずさんなライセンシングがプロジェクトと日々の暮らしを危うくする

 最近、無料で使えるiPhoneの制限解除ユーティリティ PwnageTool が、別の名前で何者かによって許可なく営利目的で再販されていたことが明らかになった。ソフトウェア開発者としては誰もが避けたい状況だが、PwnageToolのコード公開に伴うライセンス上の理由から、開発チームはさらに苦しい立場に追い込まれた。実は、ライセンスが付与されていなかったのだ。

 もちろん、再販業者の行為は完全に違法である。PwnageToolは開発者の著作権によって保護されているからだ。このツールをダウンロードした者には、許可なく変更や再配布を行う権利はない。

 フリーソフトウェアのプロジェクトであれば、Software Freedom Law Center(SFLC)のような団体に法的な援助を要請することが可能だ。SFLCは、最近注目を浴びたBusyboxプロジェクトによる著作権侵害の訴訟など、法的手続きの代行や法律相談をフリーおよびオープンソースソフトウェアのプロジェクト向けに無料で実施している。

 一方、成果物にいかなるライセンスも適用しなかったPwnageToolチームは、この問題を自分たちで解決するしかない。

 開発者たちがきちんとライセンスを付与していれば、もっと強い立場で今回の不正利用を糾弾できたはずだ。また、単独で対処するのではなく、SFLCの援助を受けることも、FOSSコミュニティ全体やその法的な経緯を味方につけることもできただろう。

有言不実行は高くつく

 はっきり断っておくが、私はフリーでないソフトウェアライセンスの弊害について述べるためにPwnageToolの話を取り上げたのではない。この事件の問題点は、PwnageToolチームがコードへのライセンス付与に言及しておきながら、実際には何のライセンスも適用していなかったことにある。

 2008年4月のPwnageTool 1.1のリリースノートには、コードが「GPLの下で公開予定」であり、また「公開から48時間以内」にGoogle Codeのプロジェクトページでソースコードが参照できるようになると記されている。もう7月だが、依然としてどちらの場所のどのコードにもライセンス表示は見当たらない。

 特定のプロダクトについて“近いうちに”ソースコードを公開すると約束したのに、その“近いうち”がいつまで経ってもこない、というプロプライエタリなソフトウェア会社の例がいくつか脳裏に浮かぶ。そうした口先だけの約束をするにしても、広報担当者がもう少し賢明であれば、ソースコードの公開に“関心がある”とか“前向きである”、あるいはその可能性を“探っている”とか“追求している”といったコメントにして、明言を避けるだろう。

 FOSSコミュニティは、概してこの手のウソをかぎ分ける能力に長けているので、実害を被ることはほとんどない。

 一方、ライセンシングに配慮しない無頓着なFOSSの開発者やプロジェクトは、Linux用のBroadcom無線ドライバのコードがOpenBSD用にコピーされるという2007年に起こった問題のように、自身や他のプロジェクトに危害を及ぼすおそれがある。

 PwnageToolの事件は、ライセンス付与の決断を遅らせると厄介な問題が起こることを示している。確かに、プロジェクトの規模が小さいほどライセンス問題の放置によって悩まされる可能性は少なくなるが、反面、プロジェクトのメンバーひとりひとりにかかる心痛は大きくなる。

 PwnageToolの問題がどのように解決されるのかはまだはっきりしない。再販の関係者だという人物からは、再販行為を擁護し、弁明する旨のブログコメントが出ている。だからといって、今さらGPL表記を“コピー”したファイルをダウンロードサーバに置いても、今回の件には何の役にも立たない。ソースコードへのライセンスの適用を先延ばしにしている開発者は、十分に注意してほしい。

Linux.com 原文