Fourth International GPLv3 Conference開催レポート

Free Software Foundation(FSF)は先月、インドのバンガロールに所在するIndian Institute of Managementを会場として、Fourth International Conference on GPLv3(第4回GPLv3国際会議)を開催した。参加者数は、インド国内全域はもとより、日本、フランス、ドイツなどの海外参加者も含め、約150人に達した。今回は、大幅な改訂が行われたGPLv3第2草案の完成後に開かれた最初の会議でもあったため、Richard StallmanおよびEben Moglenの両氏は新規草案の内容を詳しく解説すると同時に、出席者から寄せられた多くの質問事項に答えていた。

FSF Indiaの議長を務めるNagarjuna G.博士が聴衆に紹介したのは、FSFおよびGNU Projectの創設者であるStallman氏その人であった。Stallman氏はまず最初の約20分を割いて4つの自由

の内容を解説し、GNU GPLはこれらの自由を確立して遵守するために存在することを説明した。その後同氏がおよそ1時間をかけて語ったのは、今回のGPLv3で行われる改訂の必要性である。同氏の講演におけるこの部分の説明では、完成から1カ月と経たない第2草案で取り込まれた変更箇所に関する内容に、その大半が費やされた。現行の草案で新たに採用された“propagate”および“convey”という表現について聴衆に対して説明をするStallman氏の表情からは、ある種の喜びが感じ取られたものである。その後同氏は、特許をめぐる変更箇所について討論を行った。その際にStallman氏が指摘したのは、アメリカ国内の場合、プログラムの使用および頒布の許可を与えた人間に対して特許侵害訴訟を起こすことができない点は明白であるのに対して、その他の国の場合そうした点が明白なものではないケースがあり、FSFは現在この問題に対処するために特許ライセンスに関する条項の改正を進めており、法的な立場をより明確化するべく、そうした訴訟を起こせないことを明示する文言に改める、ということである。

その他にStallman氏が解説した内容は、特許報復に関する条項をGPLに追加する理由であって、これが想定している状況は、あるコードの一部に変更を加えて非公開で使用していた者が、それと同じ変更を独自に加えた人間に対して訴訟を起こすという場合である。そしてこの種の特許侵害訴訟を起こした人間は、当該プログラムを改変する権利を失うことになる。Stallman氏の意見によると、こうした措置の取られたアプリケーションはその後の維持活動が行えなくなるため、商業的には利用できなくなるはずだということである。

次にStallman氏が語ったのは、Tivoization(TiVo化)という現象および、万人に対する自由のあり方である。その次に同氏が言及したのは、GPLv3において他のライセンスとの互換性を確立するための作業であり、より具体的には、新規の許可事項と必要な要件を同ライセンスに取り込むことを正式化するために行われた、現草案におけるセクション7の変更である。最後に同氏が触れたのは、GPLv3においてライセンス違反者はどのように自らの誤りを正すようになるのか、および、どのようにして違反者の権利が即座に剥奪されないようにするのか、という点であった。

今回の講演では、ソースコードを要求された際の頒布方式に関して、Stallman氏が聴衆にコメントを求めるという場面があった。その際に同氏が指摘していたのは、ダウンロード用のネットワークサーバにすべての人間がアクセスできれば、ディスクに書き込んで郵送するよりも負担は少なくできるであろうが、そうした方式をブロードバンドアクセスの望めない貧困国にも期待するのは無理がある、という点である。ところが、聴衆の中にいたそうした事情にまったく通じていない人々からStallman氏に対して出された質問は、こうした問題あるいはGPLv3そのものに関する事柄ではなく、ソフトウェアから利益を得る方法、フリーなフォントの不在問題、プロプライエタリ系ソフトウェアとの互換性の欠如、あるいはオープンソースとフリーソフトウェアとの違いなどに始終した。こうした質問者の一部は明らかにGPLv3草案に目を通しておらず、また改変ソフトウェア搭載ハードウェアに対する保証打ち切り問題など、FSFが過去に回答ないし明確化しておいた基本事項があることについても無関心のようであった。Stallman氏は、そうした質問についても可能な限り答えるべく努力をし、またSoftware Freedom Law Centerの議長を務めるEben Moglen氏もときおり必要なコメントを行っていた。

昼食後、Moglen氏が壇上に登り、同氏がこれから行う「Wording of the Changes」(変更された表現)の内容が既にStallman氏に話されてしまったことに触れた。そしてMoglen氏は弁護士としての視点を交えながら、グローバルな著作権ライセンスを確立することがいかに困難であるかを説明した。同氏が語ったところによると、GPLv3の制定に取りかかる段階から意図していたのは、単にアメリカ合衆国におけるライセンス条項を書き改めるのではなく、国際的に通じるものとすることであったという。

次に同氏が説明したのは、フリーソフトウェア開発者を念頭に置いた同ライセンスが、商用ユーザの要望にどのように応えているか、という内容であった。また同氏は、GPLv3におけるコピーレフト(copyleft)ライセンスとしての側面強化の理由について説明したが、これは同氏が語るところの、各種の管理コストがかさむために主として商用ユーザにとって厄介な存在である拡散問題を回避するための措置だとのことだ。

次の内容は、セクション7における付加価値に関するものであったが、同氏によるとこれはGPLをより柔軟化する方向に寄与するはずだが、過去9カ月における草案作成の過程において、コミュニティ内部での同意を取り付けることはできなかったとのことだ。

特許報復の問題でMoglen氏が確認したのは、GPLv3はこれを自己防衛の目的で用いるすべてのライセンスと親和するはずだ、ということであった。また同氏が指摘したのは、15年前の時点でStallman氏による特許の扱い方に同意が得られていれば、今現在こうした問題に煩わされることもなかったであろうという点であり、「Stallman was Right」(Stallman氏は正しかった)というボタンをプリントしようということを提案した。また第2草案に対しては、GPLv3による特許の扱い方に起因して、いくつかの大手企業からの圧力が及んできているが、同氏としてはこの問題に関する産業界の合意が得られることを希望しているとのことである。

Moglen氏は同ライセンスにおける反DRM条項について語る際に、同氏自身も関与したことだが、関連メーカがアメリカにおける暗号関連の法律をつぶし、他のユーザの権利を制限するテクノロジを利用している経緯を説明した。同氏は聴衆に対して、法律面の忌避行為と同様に、ライセンスに対するテクノロジ面での忌避行為はFSFでは受け入れられないことを明確化している点を説明した。

先のStallman氏の場合と同様、Moglen氏の講演もいくつかの無関係な質問で遮られてしまった。また講演の終了後も、同氏に対して質問が投げかけられたが、それらは海賊行為を防止するための措置や、インドにおけるDRM関連の機器の入手状況など、やはりテーマから外れた内容であった。

2日目

会議2日目は「Nullifying Digital Restrictions Management」(デジタル著作権管理の無効化)というプレゼンテーションで始まったが、その際に上映されたのがトラステッドコンピューティングを題材にした短編アニメであった。もっともStallman氏によると、トラステッドコンピューティングとは信頼できないコンピューティングということになる。同氏は、リモート認証が不合理である理由を説明し、GPLv3ではこうした事態を防止するためキーの共有を必須化してゆくことを解説した。その後同氏は、話し続けるのに疲れたのか、あるいは自分1人だけがパネルを進行する状況に皮肉なユーモアを覚えたのか、話を打ち切って、昨日同様に関連の薄い内容の質問に答えることにした。

次の演者はFree Software Initiative of Japan(FSIJ)の議長でGPLv3草案作成のCommittee Aメンバを務めたg新部裕氏であり、その際に同氏が紹介したのはGPLv3ライセンスをスクロール表示するGPL LED Displayという小振りのデバイスで、これは約300行のverilogコードで制御されているとのことであった。g新部氏は、このデバイスのテクニカル面における特徴を一通り説明してから、日本におけるフリーソフトウェアの浸透状況について簡潔に語った。その際に同氏は、日本政府が経済産業省を通じてオープンソースソフトウェアを支援する姿勢を示していることに言及している。またGPLv3草案作成における日本人の参加者数が非常に限られていることに関する同氏の見解として、言語面での障壁があることおよび、多くの日本人がGPLv3をリードオンリー的な存在だと誤解している点を挙げた。

同氏の次に講演したのは、GPLv3草案作成のCommittee Dメンバを務めたDebian Hackerの八田真行氏であり、同氏は草案の日本語化作業を担当している。同氏が説明したのは、GPLv3に対する日本企業の関わり方についての問題であった。実のところ、そうしたリストのトップに取り上げられているのは、同ライセンスにおける反DRMおよび特許報復に関する条項なのである。また八田氏の指摘にもあるように、国によっては著作権保護法の規定が強固ではない地域があるため、GPLv3については日本の輸入/輸出関連の法案との関係も検討する必要が生じてくるだろう。また当然のことではあるが、既にいくつかの日本企業はDRMへの肩入れを行っている。

この日の議事日程では、教育とビジネスに関する2つのパネルも組み込まれており、インドにおけるFLOSS関連会議のほとんどすべてが参加していたが、内容的にはGPLv3と無関係のものであった。「Free Software in Business」(ビジネスにおけるフリーソフトウェア)のパネリスト陣は、フリーソフトウェアを用いて利益を得る方法について語っていたが、大手企業の代表者は参加していなかった。同じく「Free Software in Education」(教育におけるフリーソフトウェア)では、それぞれの所属組織が携わったフリーソフトウェアについての説明がされた。このパネルにおいて特に聴衆の関心が高まったのは、政府だけでなく学生の間にフリーソフトウェアを普及させる方法について討論が繰り広げられた際であった。

この種の会議としては、施設は立派なものであった。また初日についてだけであるが、運営組織は音声および映像での記録も収録していた。唯一欠けていたのは、有意義かつ良好な形での聴衆の参加が行われなかった点だけである。

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