FOSSへの招待:FreeDel 2006がインドにて開催

9月上旬にニューデリーのJawaharlal Nehru University(JNU)にて開催されたFreeDel 2006では、インド全域からベテランおよび初心者プログラマ約200名が参集し、Indian Linux Users Groupのデリー支部による主催の下、教育活動におけるFOSSをテーマとした2日間の討議が行われた。

今回で3年目を迎える本イベントでは、教育機関や政府および非政府組織(NGO)におけるFOSSの有用性に対する理解促進を目的とした講演と討論が行われた。会場内には、企業ブースでセールストークを繰り広げる人間はおらず、タキシード姿の人物も数えるほどだったが、その一方で多数の学生たちが目を輝かせながらメモを取り、不明点を質問して、関心を寄せた開発者のIRCハンドルを書き留めていた。

1日目

9月16日の議事進行を務めたのはILUG-DelhiのKishore Bhargava氏であり、その冒頭でFOSSという活動の内容とコミュニティの概要を紹介し、会場に集まった出席者に対してLUGへの参加を呼びかけた。その際に同氏が連絡事項として告げたのは、準備上の不備によりイベントのスケジュール全体が変更され、テクニカル関係の講演とレクチャースタイルのプレゼンテーションとに二分されたことおよび、スケジュールの進行に関してはイベント用wikiにアップデートされるので、キャンパスに設置されているワイヤレスネットワークを介してアクセスしてもらいたい、という内容であった。

当日の最初の演者はアラハバード高等裁判所(Allahabad High Court)の判事を務めるYatindra Singh氏であり、会場に詰めかけた学生たちに向かってFOSSが重要である背景的な理由を説明してから、同氏が働く裁判所におけるFOSS系アプリケーションの使用状況について解説した。そして普及活動を進める際に遭遇したいくつかの障害を指摘するとともに、オープンスタンダードの採用で得られるメリットを強調した。その間にSingh氏がある程度の時間を割いて説明したのが、ソフトウェアの関連特許および、それらがコンピュータ産業に及ぼす影響であった。

Singh氏の次に講演したのはNational Resource Center for Free/Open Source Software(NRCFOSS)のメンバであるAbhas Abhinav氏で、同センタの活動目標とその達成状況をテーマに討論を進め、こうした活動が全国展開可能な理由について説明した。同センタの活動目標の1つは、大学におけるIT関連カリキュラム中にFOSSを採用させることだという。本公演中にAbhinav氏が触れたのは、大学の選択コース中にFOSSを採用させる際に同センタが直面した各種の障害についてである。この活動を進める際には、50以上の大学において教職員に対して必要なトレーニングを施しただけでなく、キャリア形成の上でのメリットを指摘することで、学生にもコース選択を勧める必要もあったという。最後に同氏は聴衆に対し、教科書の作成活動への支援、教職員や学生に対するトレーニング、授業資料の準備など、同プロジェクトへの支援を呼びかけて講演を締めくくった。

昼食を挟んだ午後の部では、National Informatics Center(NIC)に所属する3名の科学者、D. C. Misra氏、V. S. Raghunathan氏、Srinivas Raghavan氏による講演が行われ、同国で進められた様々なプロジェクトを完成させるにあたってFOSS系ツールがどのように利用されたかが紹介された。Misra氏が語ったのはOpen eNRICHというプロジェクトについてであり、そこではカスタマイズ可能なコンテンツ管理システムを用いて、NICがUNESCOとの共同作業によりローカライズされたポータル群を構築したとのことである。Raghunathan氏が説明したのは、NICが独自開発したOpenGISツールを用いて実施した人口調査についてであった。なおこれらの講演の中では、OpenOffice.orgなどの比較的普及したオープンソースソフトウェアに関するトレーニングを数百人単位の人々を対象に施した、という事例についても触れられていた。同時に言及されていたのは、彼らが押し進めた低コスト化への努力を高く評価せず、早急に結果を出すことのみを求めた上司たちからプレッシャーをかけられたというエピソードである。

またこの間、JNUのコンピュータ研究所では、Srijan Technologiesに所属するGora Mohanty氏により、ローカライゼーションをテーマにした本イベント最初のワークショップが開かれていた。同氏は20人余りの聴衆を前に、コンピュータ関係のローカライゼーションを進める重要性とメリットを簡単に説明し、具体例としてローカライズされたFedoraを実演した。

その次にTriveni Yadav氏がホストしたのは、2部構成のLinux System Administrationワークショップにおける第1部である。Yadav氏自身は現在、企業でのトレーニング業務に携わっているとのことで、いくつかのLinux用管理ユーティリティを図解付きで解説したプリントを聴衆に配布していた。

メイン会場でのプレゼンテーションと並行する形では、学生とコード開発者による実践形式の個人指導が行われており、そこでは各種の講演とデモンストレーションが展開されていた。その中の1人、チェンナイのJaya Engineering Collegeの学生であるT. T. Harish氏は、NRCFOSSによる選択科目を通じてFOSSを知るようになったとのことで、同氏が携わった職業相談アプリケーションについて詳しく説明していたが、その判定プロセスでは学生向けの適切なキャリア選択をサポートするために人工知能(AI)システムが広範に活用されているとのことであった。

Sayamindu Dasgupta氏はGStreamerに関する講演の中で、コマンドライン経由で各種の gst系ツール を用いたオーディオ/ビデオのキャプチャリングを実演していた。Dasgupta氏自身も、GStreamer/GTKをベースとしたHippopotamusアプリケーションの開発者であり、ハッカーとしての神髄を発揮する形で、200行余りのCコードを聴衆に紹介しながら説明を進めるというスタイルを取っていた。

Nishant Kavi氏が聴衆に紹介していたのは、NokiaのS60向けオープンソースWebブラウザである。Kavi氏は、モバイル系ブラウザに固有の課題やレイアウトに関する問題に触れてから、S60のアーキテクチャと機能について解説を行った。

本日最後の講演を行ったのは、ラジャスタン州ジャイプルにあるMalaviya National Institute of Technologyの学生であるAnant Narayanan氏で、同氏はGoogle Summer of Codeにも参加しているとのことである。同氏が行ったDojoおよびMochiKitというJavaScriptツールキットを用いたWebアプリケーションに関するプレゼンテーションは4つのパートに分かれていた。1番目のパートで同氏はAJAXの虚構を正しつつ、従来型のWebアプリケーションからDocument Object Model(DOM)を用いたよりインタラクティブなアプローチへの移行について語った。2番目と3番目のパートで説明されたのは、MochikitおよびDojoを採用することで、インタラクティブなWebサイトのデザインが如何に簡単化されるかについてである。4番目のパートでは、プレゼンテーションのまとめとして、これら2つのフレームワークを用いたプロジェクトをいくつか簡単に紹介することで締めくくられた。

2日目

FreeDelの2日目を主として占めていたのは、テクニカル関係の講演とデモンストレーションであった。本日最初に行われたのは、ムンバイから参加したFOSSハッカーであるFriji Karthikeyan氏によるPC-BSDの紹介ツアーで、インストレーションの内容およびPBIアプリケーションインストーラが如何に操作性の面で優れているかが紹介された。次に行われたのは、Indranil Dasgupta氏によるオープンソース系IT資産管理ツールOCS Inventory NGとGLPIに関する講演である。同氏の説明は、200以上のデスクトップを管理するという煩雑きわまりない業務が、これらのツールを導入することでいかに簡単化されるかという内容であった。なおプレゼンテーションの終了後に行われた討論会でDasgupta氏は、Pythonベースの新規ITモニタリング用ツールZenOSSを取り上げ、聴衆に向かってその検討を勧めていた。

これと並行する形でAbhas Abhinav氏は、詰めかけた聴衆に対し、Linuxサーバの管理コストを削減する手法について講演を行っていた。Abhinav氏は、組織にLinux搭載サーバを導入して管理する際の課題や問題点について説明した後、同氏の所属企業から提供されているdeepOfix Messaging ServerというDebianベースのオープンソース系サーバについてデモンストレーションを行ったが、同氏の説明によるとこのメッセージングサーバは、わずか15分間の準備作業で稼働状態に持ってゆくことができるとのことである。なおオフィス関連の話題としては、Mitul Lambani氏が、普及型のオープンソース系PBXであるAsteriskの設定法について簡単に説明していた。

今回も聴衆の多くが関心を寄せていたのは、Yadav氏の行ったシステム管理ワークショップにおける最後の結論パートであった。Yadav氏が若干の訂正を行った後に説明していたのは、システム管理におけるいくつかの重要な作業についての解説である。

演者の中には、技術系の学生をメインに据えた解説を行っている者も何人か存在した。Red Hatから参加した品質管理エンジニアのRamakrishna Reddy氏が学生たちに紹介していたのは、DogTailを用いたGUIアプリケーションである。その後Pawan Jaitley氏は、同氏が以前に記述した「use and abuse of pipes with audio data」(オーディオデータのパイプに関する正しい使用法と間違った使用法)という記事に基づいて、rawplayやmkfifoなどのツールを用いてリモートボックス間でのオーディオデータをパイピングする実演を行った。またAntano Solar John氏は、同氏が進めている精神分析用AIエンジンについて語り、現状ではテキスト入力された情報を基に動作させているが、その将来的な開発についての協力者を募集していると説明していた。またJNUにて生命情報科学(BI)を専攻している学生のDhwani Desai氏が語っていたのは、オープンソース系のBIツールについてであった。

メイン会場で行われた最後の講演は、データ解析ツールのGNU Rに関するものであった。演者を務めたAbhishek Upadhyay氏とNishant Sharma氏の両名は、最初にツールの紹介を行った後、機能の詳細について説明をし、10年分の株式市場データを解析してプロットするなど、いくつかのサンプルケースについて実演をしていた。

本イベントの最後を締めくくったのはBhargava氏で、FOSSに関連したキャリア形成をテーマに討論を行った。

まとめ

2日間のイベントは非常に有益な内容であり、参加者全員が閉会後の懇親会を楽しんでいるよう感じられた。FOSS系のツール群を紹介するという目的については、主催者も演者たちも優れた仕事をしていたと言っていいだろう。ただし、学生たちの参加者が多かった一方で、会場内に教職員らしき姿は少なく、NGOや政府関係者の数は更に少なかった。この分野における学生たちの意欲には非常に高いものが感じられたので、FOSS推進派が今後行うべき課題は、関連組織や教職員からの支援を得られるようにすることだろう。例えばこれはJNUにてBI系の助教授の任にあるAndrew Lynn氏の指摘したことだが、せっかく招待状が各種の大学に送付されていたのに、その到着は開催間際でありすぎたとのことである。運営者側の説明によると、こうした不備を鑑みて、次回に同様の催しをする際には、決定権を有する立場にある人々が最大限に参加できるよう、充分な時間的余裕を準備段階から取るよう配慮するとしている。

NewsForge.com 原文