協同組合とオープンソースを融合した法人組織

カナダのバンクーバーにあるSimon Fraser Universityでコミュニケーション学を専攻しているGreg Dean氏が新手のオープンソース・ビジネスモデルを生み出した。1年以上の間、Dean氏は友人のDevon Girard氏とCharles Latimer氏、それに無名の弁護士とともに、協同組合の概念を企業の概念と組み合わせることで、自らがInformation and Communictions Technology/Open Source Co-op(ICT/OS)と呼ぶオープンソース法人を作り上げる方法を探ってきた。最近、彼はバンクーバーのPHPユーザグループの会議で発表を行い、その実現に向けて活動が開始されたICT/OSの構想について語った。

協同組合とは民主的に組織された実利上の団体であり、その設立目的は住宅供給から個人経営事業向けの金融取引まで多岐にわたる。2世紀以上の歴史を持つ協同組合は、小規模ながらも多くの産業経済の揺るぎない一翼を担っている。Dean氏によると、全事業者数に対する協同組合の割合はカナダでは12%、米国では5%を占めるという。

信用組合や農協に対するなじみの深いカナダでは特に協同組合が多いのだが、Dean氏はそこに目をつけた理由を自身の好みの問題だとしている。1999年のシアトルでの世界貿易機関(WTO)に対する抗議運動では最初のIndymedia.orgの設立者の1人となり、バンクーバーの活動家団体PareConの活動メンバーでもあったDean氏は、自らの動機付けを次のように説明している。「主として私の関心はさまざまな種類の経済体制にあります。大学では、それぞれの経済を相互に利用する方法について本を書いています。内容の多くは、すでに資本主義体制に取り入れられつつある分散化した経済プロセスについてのものです」。プログラマとして12年働いた彼が現在注目しているのは、組合活動の平等主義とオープンソース活動の理想および働き方を自然に結び付けることである。

ICT/OSの設立を可能にしたのは、2001年のブリティッシュコロンビア州における共同組合法(Co-operative Association Act)と協同組合規定(Cooperative Association Regulations)の改正である。こうした改正には、非組合員に対する出資株の発行といった近代的企業により近い運営を共同組合に認める内容が含まれており、電話やネット上の会話も会議とみなせる定義の変更が行われている。また他の改正内容には、特別決議の採択に必要な投票数を投票総数の4分の3から3分の2へと緩和するなど、直接参加民主主義の実践を容易にするものも含まれている。

これらの変更点を合わせて考えると、Dean氏が提示するモデルはカナダだけでなく、おそらく米国でも独特のものといえよう。「我々はアドバイスをもらうためにカナダ中に電話をかけねばなりませんでした。しかし、我々が知りたかったことについて誰もはっきりとした回答はできなかったのです」と彼は語っている。

ICT/OSのしくみ

プレゼンテーションの最初のスライドで、Dean氏はICT/OSを「協同組合の友好的な民主主義の恩恵を享受するために」考案された「自己管理で働く人々による直接参加型の事業体」であると説明している。以降のスライドでは、数十もの質問を交えながら、どうすればこの目的を達成できると彼が考えているのかが正確に説明された。

彼の構想では、この協同組合には3種類の構成員が存在する。高度な技術職に就いていて完全な投票権を有するフリーランサー、組合に対してサービスを提供する弁護士などの準組合員、組合の事業に出資する非組合員の3つである。出資株の過半数は正式な組合員が保有するといった制限により、運営が確実に組合の構成員の手に委ねられるようになっている。

構成員は毎年、理事会の役員の3分の1を選出する。この理事会は、従来の企業の取締役会としての活動のほか、日常的業務の執行役員としての活動も行う。理事会役員における非組合員の比率は40%以下に抑えられ、全役員は利害関係が衝突が生じたときには議論および投票への参加を辞退しなければならない。意思決定は会議、特別決議、および運営委員会を通じて民主的に行われる。ただし、ブリティッシュコロンビア州での協同組合を規定する法律の改正によって再定義された会議という用語には、数週間の継続的なネット上の議論も含まれている。

Dean氏によると、一般の構成員と理事会とが互いに抑制と均衡(チェックアンドバランス)の作用を及ぼし合うのだという。一般構成員は、特別決議を通じて理事会役員の罷免や理事会役員の増員を行なうことができる。同様に理事会は、Dean氏が「組織の独裁化」と呼ぶ状態に陥らないように、組織全体の代表として介入し、特別な利害関係者による組合の支配を回避することができる。また理事会は、新しい構成員の受け入れ、組合規模の調整、および個人の採用にも責任を追う。場合によっては、新しい構成員を受け入れる前に、理事会が一定の試用期間を設定することもあり得る。

組合員制の主なメリットは「フリーランスの身分と従業員の身分とのバランスがとれる」ことにあるとDean氏は述べている。 この協同組合ではあらゆる請負契約を扱うが、このバランス以外のものが厳密に何を意味するのかは、状況によって変わってくる。構成員は、コンサルティング料の1%を組合に支払う代わりに他のプロジェクトの活動要員になれるかもしれない。新たな事業を組合に持ち込んで紹介料を受け取ったり、組合に直接持ち込まれた仕事を引き受けることで顧客対応料を受け取ったりするかもしれない。また、自分が組合に紹介した顧客から生じた新しいプロジェクトに対しては、期間限定で取捨選択の優先権が与えられることも考えられる。

協同組合のもう1つのメリットは、構成員にとって税制面で企業で働くよりも有利なことである。協同組合に所属することで、構成員は収入の次年度への繰り越しが容易に行える。さらに重要なのは、協同組合への出資株を通じて収入をキャピタルゲインに転化し、結果として税率を下げることができる点である。たとえば構成員は、Dean氏が「ハイロー株」と呼ぶ、組合から安く買ってより高値での売却が可能な出資株を購入できる。組合が十分に大きくなれば、構成員による投資や、おそらくはより低金利でのローンの借り入れを可能にする金融サービスも設置できるようになるだろう。

Dean氏をはじめとする考案者は、ICT/OSの詳細をすべて提示しているわけではない。たとえば、理事会役員はその責務に対する追加報酬を組合から受け取るのかという質問が出た際、Dean氏は明らかにその考えには賛同していない様子を見せながらも「それは構成員が決めることです」と答えていた。とはいえDean氏のプレゼンテーションを聞くと、考案者たちが自分たちのアイデアから生じる法律的および実務的な問題を注意深く検討しており、少なくとも組織が潜在的に抱えているきわめて自明の問題に対しては実践的な解決策になっていると確信していることがすぐにわかった。

今後の展望

先ほどの法律はブリティッシュコロンビア州のものであるため、ICT/OSの本部は当然この州に置かれることになる。ただし、Dean氏はその組合員を地元の人間に制限しなければならない理由は見当たらないとしている。デラウェア州の法律により、法人化をもくろむ米国中の組織にとってデラウェア州が魅力的な場所になっているのと同様に、ICT/OSの構成員はどこからでも集められると彼は述べている。「我々の考える事業体の素晴しい点は、活動の結果として生じる実際の金銭的やりとりがブリティッシュコロンビア州を通じて行われるように、同州にサーバを設置できることです」と彼は言っている。「そうすれば、顧客がトロントであろうとその他のどこにいようとも、すべての事業活動は現実にブリティッシュコロンビア州で行われることになるわけです」。

ICT/OSの試みは明らかにDean氏の胸の内でしか行われていないようだが、彼は総じてこのアイデアを、産業資本主義が待ち望んできた救済策になり得る1つの例として捉えている。「私は立場の弱い人々の味方をしたいだけなのかもしれませんが、バランスのとれた存続を維持するためには文明の大きな変化が必要だと信じています。私に言わせれば、コミュニティの意識を保ち続けることはぜひとも必要なことなのです」。

ICT/OSの設立許可はまだ最終決定を待っている途中だが、Dean氏はICT/OSを企画するためのThe Cooperative Wayというサイトで関係者に議論の開始を呼びかけている。

Bruce Byfield氏はセミナーのデザイナ兼インストラクタで、NewsForge、Linux.com、IT Manager’s Journalに定期的に寄稿しているコンピュータジャーナリストでもある。

NewsForge.com 原文