マイクロファイナンスとオープンソースという自然な取り合わせ

ノーベル平和賞を受賞した組織が、非営利のマイクロファイナンス機関向けのテクノロジ基盤の構築に協力するためにオープンソースのプロジェクトを創設した。こうしたマイクロファイナンス機関は世界中の発展途上国で少額の融資を行っているが、その対象は事業を始めて自らと家族の生活を向上させたいと望む女性たちだ。また、創設されたばかりのプロジェクトMifos Software Initiativeは今週、カナダのハリファックスで開催中のGlobal Microcredit Summitで初めて公の場に姿を見せる。

Muhammad Yunus氏は最初のマイクロファイナンス機関(MFI)となったグラミン銀行(Grameen Bank)の創設者である。Yunus氏は1974年のバングラデシュの飢饉が生んだ貧困から人々が抜け出す手助けをしたいと考えていた。彼にわかったのは、わずか27ドルの融資をするだけで村にいる42の家族が小さな品物を作って売れるようになり、貸付金を返済して新しい商売を維持するのに十分な利益を手にできるということだった。マイクロファイナンスのアイデアはここから生まれた。現在、グラミン銀行は総額で50億ドルの融資をバングラデシュ全土にいる500万の人々に対して行っているが、その対象はほとんどが女性である。

こうしたYunus氏と同僚らの飽くなき努力を讃え、ノルウェーのノーベル委員会(Norwegian Nobel Committee)は2006年のノーベル平和賞をYunus氏とグラミン銀行に授与したのだった。ノーベル委員会はプレスリリースに次のように記している。「多数派である人々が貧困を打破する方法を見つけ出さないかぎり、世界に恒久平和が訪れることはない。マイクロクレジットはそうした方法の1つである。文化や文明の違いを越えて、Yunus氏とグラミン銀行は、極度の貧困に苦しむ人々でさえ自分たちに発展をもたらす活動が行えることを証明した」。グラミン銀行の顧客の大部分が女性なのは、男性に比べて女性の場合は従来の金融機関から真剣に受け止めてもらえないことが多いためだ。グラミン銀行は、普通は200ドル以下という少額の融資をグループの個々のメンバーに対して行っている。だが、それぞれのメンバーは個別に返済を行う義務がある。そうしないと、あるメンバーの返済が滞った場合にグループ内の他のメンバーが追加融資を受けられなくなってしまうためだ。

「最下層にいる」貧しい人々の救済に成功したグラミン銀行にならって、その他のMFIが世界各地に設立されている。1997年には、マイクロファイナンス業界の拡大を加速させるためにYunus氏の腹心の1人であるAlex Counts氏によってグラミン財団(Grameen Foundation)が設立された。グラミン財団は世界各地のMFIと提携関係を結び、資金繰りの戦略、研修指導、各種サービス、ITリソースといった面でのプログラム支援を提供している。つい最近になって、グラミン財団が情報マネジメントの問題に取り組むために立ち上げたのが冒頭のMifos Software Initiativeである。

MFIは従来の銀行と同じものではない、と語るのはMifosの技術プロジェクト主任を務めるGeorge Conrad氏だ。銀行は莫大な資本を元手に、十分な返済能力を持つ企業に対して多額の融資を高金利で行う。MFIは小さな組織であり、融資サービスだけでなく預金口座や保険の準備に必要な非常に基本的なテクノロジを用意する資本金さえほとんど持っていない。

マイクロファイナンス業界を長期的に存続させるには最新テクノロジの利用が不可欠だと考えていることから、グラミン財団は世界中のMFIが直面していたIT関連の課題を調査するテクノロジセンターをシアトルに開設した。この調査により、同財団と提携している52のMFIのうち、業務を自動化する情報システムの恩恵を受けているのは約半数に過ぎないことが明らかになった。「我々は、ウガンダやボリビア、ペルーなど現地のMFIとの連携に多大な時間をかけ、テクノロジの利用方法という点で彼らが実際に事業に失敗するのを見てきた」とConrad氏は話している。「出来合いの商用ソフトウェアを利用しているMFIはわずか10%であり、残りの90%にはソフトウェアをまったく利用していないところもあるが、地元のベンダまたは法外な料金を取るコンサルタントと一緒に独自のシステムを構築しているところが多い」。地域的な要因によってそれぞれのMFIの要求事項は異なるため、個々のMFIが一般に提供される商用ソフトウェアを活用することは困難である。「商用ソフトウェアのベンダといっても、所詮はフィリピンやグアテマラの小さな販売店だ。そうした店ではサポートが受けられない。彼らはプログラミング言語を知らないし、ローカル環境を理解してもくれない」(Conrad氏)。

グラミン財団は、オープンソース方式の情報システムを開発することによってMFIの支援を行うことを決めた。Mifosと呼ばれるこのシステムは、顧客、融資、貯蓄ポートフォリオの管理、全取引記録の管理、レポート作成の機能を備えている。ブラウザベースのMifosはJavaで書かれており、そのソースコードはApacheのオープンソースライセンスの下で自由に利用することができる。

Mifosの非常に大きな強みの1つは各地のITベンダがソースコードをダウンロードして修正を加えられる点だ、とConrad氏は言う。何もない状態からアプリケーションを作成したり、現地MFIの非常に特殊な環境で商用パッケージの実行を試みたりする必要はなく、どんなソフトウェア開発会社でもMifosをカスタマイズできるのだ。「我々は、技術革新の成果を共有できる業界を目指している」とConrad氏は語っている。「技術革新の大半は偶発的に起こるので転用が難しい。それは共通のプラットフォームや標準規格が存在しないからだ」

Mifos Software Initiativeを取り巻くコミュニティはエンドユーザ、開発者、コンサルタントで構成されており、彼らは発展を続ける業界のニーズに応えてMifosを拡張するために力を合わせている。エンドユーザはフィードバックやバグレポート、要望点を開発者に提供する。

バンガロールにあるGrameen KootaのBSK支店では、8月からMifosのテストを続けることで、今週のハリファックスでの正式なプロジェクト始動までに問題を解消しようとする開発者を支援している。また、コンサルタントはサポートの専門家として活動し、現場で技術的な援助を行う。

Mifos Software Initiativeへの参加に興味のある開発者、コンサルタント、MFIはMifosプロジェクトのページを参照するとよいだろう。

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